第354話 16枚目:作戦補佐

 残り半分ちょっとの安定度を削るのは『本の虫』の人達指揮下にある一般召喚者プレイヤー達にお任せするとして、さて私達はどうするかって話だ。流石にあの爆発という痛打を叩き込んだうえに横から参戦するのは宜しくないだろう。

 ちら、と確認した残りログイン時間は内部時間で5時間ぐらい。半分以上を時間稼ぎにかかっていたことになるな。

 ……いや違う。逆だ。あの開始早々の壊滅状態から7時間程度であの包囲網を作るぐらいまで立て直したって事だ。相変わらずすごいな『本の虫』の人達。


『ところで、少し良いか』


 出来れば何か動いてエルルからのお説教を先延ばしにしたいんだけどなー、という本音で色々考えていると、通信機となっているらしい手のひらサイズの雪だるまから「第一候補」が話しかけて来た。


「何々? 大仕事はこれで終わったと思うけど?」

『うむ。改めて協力に感謝する。後はパストダウン達に任せれば良かろう。……と、言うところなのであるが』

「……まさか、まだ未解明のギミックがあるとかじゃないでしょうね」

『それに近いが、そこまで難しい物ではないであるな。とはいえこれが分かったのも、『本の虫』の皆が情報を1から洗い直したが故なのだから、我の手柄ではないのだが』


 と口火を切った「第一候補」によれば、あのヒラニヤークシャ(魚)がどうやって顕現を続けているか、ひいてはどうやって召喚されたのかについて、その理由はまだ不明ながら、ある意味元凶と呼べる儀式場の場所が分かったのだそうだ。

 というのも、ヒラニヤークシャ(魚)を封印する為に取った手段と言うのが、その儀式場自体を空間の狭間的な場所に閉じ込めてしまう、というものだったらしい。もちろん通常ではそんな手段は使えないので、かなり特殊な方法となる。

 ではその特殊な方法は、というと?


『……あくまで推測でしかないが……本来は、空間の歪みと、共に取り込まれたモンスターをきっちりと一掃して、初めて相対する事の出来る相手であったのだろう』

「あっはっはー、盛大に予定が狂ってるけどな!」

『全くである。一体どのような手段を用いたのやら、想像も出来ぬが頭が痛い』


 うん。……ここでサブクエストこと、ストーンサークル(仮)に繋がるらしい。本来は。本来なら。運営の筋書き通りだったら。

 つまり……ヒラニヤークシャ(魚)を召喚、顕現の維持をしている儀式場を封じたのが、あの「忘却された狭間の大扉」という事だったようだ。それも、渡鯨族の人達を諸共封じる事で強制力を強化して、それでどうにか、という感じだったらしい。

 渡鯨族の人達を救出したことでその強制力が弱り、それでヒラニヤークシャ(魚)が動き始めたというのは理が通る。そして、儀式場自体がまだ健在であるからこそ、安定度を削る為に「儀式を続ける必要がある」というのも同じく。


『突入する入り口はどちらでも良い。いずれにせよ封じられた空間の歪み、及びあの化身を強化する要因を消費する事に変わりは無いであるからな』

「ちなみに質問ですが、その儀式場を放置した状態で討伐できる可能性はどれくらいでしょうか?」

『かなり厳しい、と言わざるを得んであるな。何せ、本来ならば「要となる儀式場を破壊した状態で」初めて相対する事が出来る相手の筈である』

「まぁ~、それもそうね~」


 トッププレイヤー達が結構数を削っていた筈だけど、それでも残り野良ダンジョンの数はかなりあった筈だ。まぁ確かに此処に居るのは全員が特級戦力だけどさ。

 とはいえ、儀式場の破壊という本来のフラグを達成しなければ討伐と言う難易度が高い方の目的は達成できそうもない。これもまた理が通る。ほんとにあの害悪クラン余計な事をしてくれたな。


「まぁ討伐に必要な事であれば、本戦への参加を控えた方がいい以上やらないという選択肢はありませんね」

「……お嬢……」

「あそこなら訓練で良いって言ったのはエルル達じゃないですか」

「確かに言ったがそうじゃない……!」


 エルルが額を押さえてしまったが、お説教先延ばしに加えて身体を動かせるなら願っても無い。ヒラニヤークシャ(魚)討伐の為にも頑張ってダンジョンを攻略するとしよう。

 ……すくすくと無事戦闘狂に育ってとか泣き真似してるんじゃないぞ「第四候補」。1人軍隊出来る奴に言われたくないし、私は「第二候補」の類友じゃないからな?

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