第353話 16枚目:分岐完遂
――クォオォァアアァアアアァアアアアアアアアン――!!
アイアンクローからのお説教に突入するその寸前で、数十メートル先の海面を破ってヒラニヤークシャ(魚)が咆哮を上げた。ナイスタイミング、じゃない、あれでもまだ削り切れてないのか。
まぁ安定度だけでも半分以上残ってたしなーと思いつつ改めて【鑑定☆】してみると、うん、安定度53%だってさ。……おかしいな、打撃属性は無効、つまりダメージは通らない筈なんだけど。
ま、まぁ、序盤の比較的楽なタイミングとは言え、半分近く削ってるんだから火力的には十分すぎるな?
「流石に今この場で説教はあれか。一回退くぞお嬢」
「はーい」
「おーいお2人さん、退避するならこっちこっち! 上でおろおろしてるあれっくんも呼んでくれー!」
流石に素直にお返事してスライムの橋を戻ろうとしたのだが、そこへ「第四候補」が手を振って声をかけて来た。上でおろおろ……あぁ、サーニャの事か。そのあだ名みたいな呼び方継続するんだ。
合わせて半海上拠点に続く橋もかけてもらったので、大人しくその声掛けに従う。なおスライムが凍ってできた橋は通った後で責任をもって砕いておいた。
私が呼ぶと秒で飛んできて半分泣きながらパニックに陥っているサーニャを宥めるのにはそこそこ時間がかかったがそれは省略するとして、「第一候補」から言われた通りの場所にヒラニヤークシャ(魚)を追い込むことには成功した筈だが、結局どうなるんだ?
「お疲れ様だったわね~、「第三候補」~」
「おや、「第五候補」? 何故こっちに」
「うふふ~。私も呼ばれたのよ~」
……どうやらこの秘密の作戦、現状合流できる限りの魔王候補全員によるものだったらしい。いやまぁ魔王候補専用スレッドとかある以上この4(5)人で動くのが一番情報的な防御は固いけどさ。
なんだなんだと思いながら半海上拠点の、海側の防壁というか監視塔のような場所に移動する。……んん? ヒラニヤークシャ(魚)が、何だかその場で暴れてるぞ?
「よしよし試運転は問題ないな。「第三候補」も見学席に来たし、いけそうだぞ「第一候補」!」
で、そこでは先に「第四候補」がそんなヒラニヤークシャ(魚)の様子を楽しそうに見ていて、手のひらサイズの雪だるまへと話しかけていた。
見学席はともかく試運転って何の事だ? と思いながらヒラニヤークシャ(魚)と「第四候補」を交互に見る。うん? どういうこと?
『うむ。それでは発破と行こう』
「よーし全員落ちないように気を付けろよー!」
そして、その手のひらサイズの雪だるまは通信機的な役割があるらしく、「第一候補」の声がそこから聞こえて来た。え、いや待って。今何て言った? はっぱ? 落ちないようにって事は衝撃が来るって事だから発破、つまり、爆発?
は!? と思いながらエルルに抱えられ、そのまま視線を戻した、その先で。
――ドッッゴォオオオオオン!!
文字通り。
それこそ私がヒラニヤークシャ(魚)を蹴り飛ばした時に立ったものの数倍はあろうかという水柱が、内側に強烈な炎を抱えて、ヒラニヤークシャ(魚)を飲み込んだ。
「たーまやー!」
「あらあら~、かーぎや~?」
「……「第一候補」」
『うむ。上手くいったであるな』
「いえあの、私追い込めって言われただけで詳しい事は聞いてないのですが。何ですかあれ」
ひゃっほー! とばかりな「第四候補」及びのほほんと合わせる「第五候補」はともかく、と、手のひらサイズの雪だるまに声をかける。
くはは、と笑いを挟んだ、今もヒラニヤークシャ(魚)を討伐する為に安定度のロックを外す儀式を継続している筈の「第一候補」は、恐らく【人化】出来ていれば、会心の笑みを浮かべていただろう声でこう答えた。
『クラーケン一族の長より海の神を経由して、巫女ネレイが伝言を受け取ったのだ。外洋にやたらと自ら沈められに来る船が出没しているとの事であった。そして調べた所、どうやらそれらは全て例の邪神の信者によるものであるらしくな』
「あぁうん、あのゲテモノピエロのクランなのは何となく分かっていましたがやっぱり何かしてたんですね」
『そして沈むたびに何かを撒き散らしておったのだが、どうもそれが強力な爆発物のようだという事が分かった。それも我らの目を掻い潜る為に、邪神の気配は一切抜きで作られた特製品だ』
「……あー、なるほど。この半海上拠点の周囲の海流は「色々な物が集まる」という特殊なものですから……外洋でばら撒けば、勝手にここへ爆発物が蓄積される、と」
『そういう事である。全く性質が悪い。が……邪神の気配が無い強力な爆発物が、海中に、山とある訳だ。であるなら、火力として利用できるのではないか? と思ってな。結果は見てのとおりである』
「ちなみに~。海底に散ってるその爆発物を、綺麗にちゃんと一点へ集めるのは~、私がアザラシちゃん達にお願いしたわ~」
「なるほどそれでこちらに居たんですか」
魔王候補が勢ぞろいした理由が分かった。なるほどな? 肝心の爆破については、たぶん「第一候補」が海の神経由でスイッチを入れた感じだったのだろう。タイミングはこちらで合わせるとか言ってたし。
なるほどなぁ。と、タライを叩いたような音で長く長く悲鳴を上げているヒラニヤークシャ(魚)と、海中にも関わらず勢いの付いた炎が消える様子の無い危険物の様子を見る。……ダイナマイト系じゃなくてナパーム弾系だったか? 本当に性質が悪いな。
もう1つ納得した所で、エルルに下ろして貰った。どうやらこれ以上の危険はないという判断のようだ。
「……前に出た事についてはまた後でとして……で、ここからどうするんだ?」
『パストダウン経由で事情は説明した故な。恐らくあの地点を中心に陣を組み直すのではなかろうか?』
「あー……それでさっきから船が隊列崩して動いてるのか」
どうやらお説教は回避できないらしい。まぁ仕方ないな。独断専行したのは間違いないんだし。甘んじて怒られるとしよう。……必要な事ではあったと思うんだけどなぁ。
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