第337話 16枚目:脇道のフラグ

 まぁそんな訳で、水曜日の決戦に向けてそれぞれ準備を進めていた、というか、ダンジョンの攻略を進めていた……の、だが。


「はい? サーニャが私を?」


 月曜日の夜。エルルと一緒にダンジョンアタック(目的は訓練)していると、何故か『本の虫』の人経由でサーニャから連絡が来た。いや、確かにサーニャは住民だからメールやウィスパーといった便利機能は使えないんだけど。

 それでも私を放置してこの氷の大地から離れた訳ではないだろうし、それなら自分で走ってきた方が速い筈だ。ステータスの暴力が種族特性な竜族の職業軍人を舐めてはいけない。

 の、だが。……詳しい話を聞いてみると、どうもちょっとややこしい事になっているらしいことが判明した。というのも、竜都跡の調査を進めている間に何か発見があったらしく、サーニャはそちらに呼ばれていたようなのだ。


「竜都跡に戻っていたとは、いつの間に……」

「しかもそこでお嬢に用事か。……まぁ応じた方が良いは良いんだろうが……」


 おや珍しい。竜族に私が関わる事は基本推奨するエルルが微妙な顔をしている。なるほど、厄介事だな?

 ……本音を言えば、聞かなかったことにして水曜日までこちらに居たいところだ。だってレイド戦だよ? 皆でわいわいやるレイド戦だよ? 参加したいじゃないか! 大勢でわいわいしながら大規模戦闘やりたい!

 とは、いえ。……ここで厄介事あるいは面倒事を後回しにすると、より厄介ないし面倒な事になって、今度は回避できない仕様でやってくるのが分かり切っている。それに、ヒラニヤークシャ(魚)は特級戦力無しでもどうにかなる目算が立っているのだ。


「…………仕方ありません。より厄介あるいは面倒な事になる前に、早めに片付けておくとしましょう」

「いや、別にまだ厄介事と決まった訳じゃないだろ、お嬢」

「こんなタイミングで発覚するのだからまず間違いなく厄介事でしょう」

「……」


 エルルだって目を逸らしてるじゃないか。違うって言うならちゃんとこっち見て否定してほしいな?




 と、いう訳で、ものすごく後ろ髪を引かれながらだが竜都跡へと移動だ。大陸の中央に位置する大きな都市という事で、本日も拠点として賑わってるな。召喚者プレイヤーは大多数が氷の大地に移動した筈だが、人間種族っぽい姿が結構見えるって事は、こちらに残った人数もそれなりに多いらしい。

 まぁ、お高いからね。性能で言えば間違いなく最新の装備だし、素材から軽度とは言え神の祝福が必要って事はお布施とか色々作るにもかかってる金額が大変になってるって事だし。

 それに、最初の出現タイミングこそちょっかい掛けられてイレギュラーになったとはいえ、本来は公式が用意した大規模戦闘が必要な大物だ。ということは、まだ「膿み殖える模造の生命」しかいないレイドボスの枠に追加される可能性がある……つまり、後でも挑戦できる可能性がある。だから、今を逃せば戦えないという危機感も薄い。


「ま、実際どうかは知りませんが。で、サーニャは?」


 私としては5月イベントの時に世界の端に居たアレらがレイドボス認定されていないので、多分今回もレイドボス認定は無いんじゃないかなと思っているが、まぁその辺の判断は知った事ではない。私は叩き寝かせるのに散々戦った(?)し。

 さて、エルルに空経由で連れてきて貰った竜都跡中央のお城だが、案内に来てくれた『本の虫』の人達によれば、サーニャに捜索状況を相談した所、「生きてる隠し通路がある感じがする」との事で、実際探して貰ったのだそうだ。

 そして見つかったのはいいのだが、何故かサーニャはその見つかった通路の先に『本の虫』の人達が入ることを拒否。その理由を語る事も拒否し、唯一口にしたのが「姫さんとエルルリージェを呼んでくれ」だったのだそうだ。


「……。何かこじらせてるか、勘違いしてるか、未だに人間種族を侮っているか。どれだと思います?」

「普通に本気で重要な物を見つけたって選択肢が無いのは何でだお嬢」

「だってサーニャですし。それに本当に重要な物だったとしても、私より『本の虫』に開示した方が上手く活かしてくれるでしょうし」

「…………否定したくても出来ない辺り俺も染まって来たな」


 ははは。エルルも召喚者というか『本の虫』の人達のアレコレに慣れたもんだ。染まったって自称するあたり心から納得した訳ではないだろうけど。

 そんな話をしているうちに辿り着いた先は、お城の中でも割と奥まった場所だった。分類としては生活スペースか、私的なお持て成しの空間になるだろう。

 ……何でそんなところに隠し通路があるんだって話だが、まぁお城だし皇族だし、なんなら貴族相当の名家とかもあるだろうし、あとは「お約束だから」とかじゃないかな。フリアドの運営、そういうところノリがいいから……。


「あっ、姫さん! エルルリージェ! こっちこっち!」

「大物捕りを中断してきたんですから、本当に余程のものなんですよね、サーニャ?」

「あれ? 姫さんなんか怒ってる!?」

「ははは」


 怒ってはいないよ。怒っては。ただ本当にそんな危急で、私でなきゃいけなくて、他の人では大変な事になってしまう類の物かな? って思ってるだけで。

 ……だってサーニャ、竜族の皇女の中身が異世界の人間だってこと、忘れてる気がするんだよなぁ。

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