第283話 14枚目:女神起床
ややあって単独で戻って来たカーリャさんに案内された先は、この街に来た時にネレイちゃんと合流した本殿、その横手にある場所だった。どうやらここは主神以外の神をまつる為の祭壇が集められた場所らしい。
この神殿における主神とは、当然ながら海の神となる。なので恐らく真水に関係する神であるひょうたんの中身は、こちらの副神殿のような場所で祀っているようだ。
逆に言えばこちらであれば対応する祭壇があるという事で移動してきた先には、石あるいは氷でできた大きな台座のようなものが並んでいた。……北の人魚族は、偶像崇拝をしないらしい。
『本来なら、それぞれに対応する神の像があったようなのだがな』
「と、言うと?」
『モンスターの大出現、あの時に何がしかの理由で失われたらしい。……資料を読み解く限りだが、恐らく、非常に優先的に狙われたであろう記述があった』
という訳でも無かったようだ。あぁなるほど、だから余計に神話に関する話が残ってなかったのか。文献も狙われただろうからね。理由は分からないけど。
準備を整えて「第一候補」が待っていたのは、氷でできていて、中央に大きな窪みがある台座の前だった。カバーさん及びパストダウンさんと、撮影担当らしい『本の虫』の人も合流している。
ネレイちゃんだけは途中で白装束っぽい儀式服に着替えていた。小人の簀巻きは継続しているが、流石に大人しくしてくれている。……私の心当たりが当たっていたら、この小人は神の使いって言うよりこの大陸の住民だ。だから神官なのかも知れないが、向こうに話す気が無いとどうにもならないんだよな。
『さて、巫女ネレイ。その器の中身を祭壇の窪みへ注いでもらいたい。空となった器は、窪みに口を向けて横に置いてもらえるか』
「はい、あーさま」
流石に神との対面(予想)という事で、大人しく下がって「第一候補」とネレイちゃんの動きを見守る。そこそこ大きなひょうたんに詰まっていた透明な水は、量ったように窪みをぴったり満たした。
ここでようやく簀巻きを解除。祭壇を見て何か納得がいったのか、それとも(仮にも)神の前でまで暴れる事はしないという事なのか、小人さんは大人しく前に出て、「第一候補」及びネレイちゃんと並んだ。
……並んでも「第一候補」が何も言わないどころか、当たり前のように祝詞を唱え出したので、やっぱりあの小人さんは住民で神官だったみたいだな。うっかり攻撃しなくて良かった。
「……これ、先輩が攻撃にストップかけたの、大正解だったです?」
「……みたいですねー」
実は危なかったのは内緒だ。その時は神話の元ネタについても察してなかったし、結構な頻度でモンスターの襲撃を受けていたから臨戦態勢だったし。気配察知からの攻撃実行が早い状態だったから、うん。
懺悔案件かな、とちょっと思考が横に逸れだしたあたりで、祭壇へ収まった水に変化があった。半地下と言う事で、北の人魚族の街は滅多な事では風が吹かない。なのに緩やかに風が吹いたように、中央から綺麗な波紋状に波が立ち始めたのだ。
波は次第に大きくなり、寄せては返すその動きで窪みから水が零れるんじゃないかというほど高い波が出来た所で、中央でぶつかり合い、一塊の水が浮かび上がった。一拍置いて、ぱしゃん、という音と共に、恐らく大人の拳ぐらいの大きさだったその水が、大きさそのままな女性の姿へと変わる。
〈……あら。ようやく目覚められたと思ったら、ここはどこかしら。あの女の気配が近くて、お姉さまの気配が遠いわ〉
やや青みがかって透き通るような髪は身長より長く、普通に歩くと少し引きずってしまうだろう。服は長袖でハイネックな、ゆったりめのワンピースあるいはドレスだ。特徴としては裾がとても長く、白地に青色でさざ波のような模様が入っている。小さいから妖精っぽいが、纏う空気は女神のものだ。
私がその女神様を観察している間に、かくかくしかじかと「第一候補」が現在地点の説明をしている。……しかしそうか、あの女にお姉さまかー。大当たりかなこれは。
訛りが酷いのかそれとも全く別の言語なのか、途中で小人さんも説明に参加。それによってその女神様は、現在地点を地理的な意味で把握したようだ。
〈随分とお姉さまから離れてしまったものね。此処しか祭壇が無いというなら、致し方ないけれど。――異邦の魂がいるというなら、名乗っておきましょう。私は“雪衣の湖水にして恵雪”。呼び名はワイアウでいいわ〉
あ、ビンゴだこれ。
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