第271話 13枚目:雪中開拓

 ディックさんとネレイちゃんが捕まえた綿雪鳥は、生きたまま私が持っていた大きな袋に詰め込み、エルルが掴んで持って帰る事になった。もちろん私はネレイちゃんを乗せて、海岸線の走り込みだ。

 綿雪鳥を見たカバーさんとパストダウンさんの反応? もろ手を挙げての大歓迎だったよ。カーリャさんもちょっと反応してたから、彼女も結構寒さは堪えていたようだ。

 それに対して、表には出さないようにしててもディックさんの落ち込み様が酷い。……まぁそりゃそうか。仲間が最悪全滅してるかもしれないって事だもんな。


「だいぶ慣れて来たっすけど、まだ寒いっすねー」

「耐性を着けるのもー、服を着るのもー、どっちにしろ結構時間かかりますよねー。たぶん、ゴールとして建物を作っちゃった方が早いんじゃないでしょうかー?」


 そしてこれはその往復2時間の間を【環境耐性】のレベルアップにつぎ込んだフライリーさんとルチルの言葉だ。……なるほど。こっちの渡鯨族の港町があった所に、このかまくらみたいなものを作っておくって事か。

 まぁ吹きすさぶ痛いほど冷たい風が遮られるだけでも大分違うし、どっちにしろ痕跡を探すのにこの分厚く積もった雪を引っぺがす必要もある。その途中でまとまった数の綿雪鳥が捕まえられれば、それこそそのまま家畜として飼えばいい。

 それに、ある意味港町の再建って事だから、ディックさんがちょっと持ち直した。カバーさんとパストダウンさんも賛成のようだ。


「では、二手に分かれましょうか」

「そうですね。片方は元の大陸に戻って、街再建の準備を」

「もう片方は街の痕跡を探りつつ、外壁の建設を」


 となると、移動手段であるところのエルルはもちろん戻る組だ。説明の為にディックさんも同行する事となる。一方私とルチルとフライリーさんは元の大陸に戻ってもやる事が無い。

 なのでちょっともめた(主にエルルが私と離れるという事に対して)のだが、ここで手を上げてくれたのがオープさんだった。


「我らとしても、此処に街があったというなら、それを再建する事に否やはありません。……それに、我ら北の人魚族は、あまり他の種族との付き合いがないので。多くの召喚者が一度に来ると、恐らく対処しきれなくなるかと……」


 つまり、ここに街をつくる事で、北の人魚族の街が召喚者の受け皿になる事を回避したいようだ。……あー、うん。確かに、マナーや素行の悪い奴は『バッドエンド』の存在発覚に合わせて大分淘汰された筈だが、もういないとは言い切れないしなぁ。それに航路図を盗んだ奴はまだ捕まってないし。

 という事で、ネレイちゃんのついでに私のことも護衛してくれるようだ。あと「第一候補」とカーリャさんも。……護衛より護衛対象の方が強いじゃないかって? 暴走しそうになったら止めるブレーキ役でもあるから。

 そんな訳で、向こうの大陸に戻るのはエルル、ディックさん、カバーさんとなった。後はこっちで雪かき&防壁作りだ。


「さてそれでは僭越ながら、音頭を取らせて頂きますパストダウンです。皆様、よろしくお願いします」

「「「はーい」」」


 という訳で、エルルに全員纏めて運んでもらってから元の大陸に戻るのを見送って作業開始だ。とりあえず初手として少し離れた所にかまくらを作り、そこから横へと壁を伸ばすような形で雪を固めていった。

 で次はどうするのかと言うと、どうやらこの街があった場所には結構な綿雪鳥がいるらしい。私には見えないけど。なので少し離れた所から、その壁に向かって、私が大風を起こすことになった。


「表層の除雪、兼、綿雪鳥の大規模捕獲ですか」

「はい。よろしくお願いします」


 という事なので【風古代魔法】を使い、ぶっわぁと強めの風で積もった雪を薙ぎ払った。わぉ、舞い上がった雪が白い壁のようだ。……あ、中からじたばたしてる塊が出て来た。確かに結構な数がいるなこれ。

 流石に雪よりは重い為、白い壁から取り残される形で出てくる綿雪鳥を私、ルチル、フライリーさん、オープさん、ネレイちゃん、カーリャさんが捕まえていく。パストダウンさんはかまくらで待ちつつ、綿雪鳥の足に紐を括りつけて捕獲を確定させる係だ。

 そして捕獲がひと段落したら、壁に降り積もった雪をかき出して壁を伸ばしていく。かき出し終わったらもう一度雪を薙ぎ払う。どうやらさっきの風を雪の中に潜って耐えた綿雪鳥がいたらしく、再び捕獲。


「いや、本当に結構な数がいましたね?」

「っすねー。かまくらの中でおしくらまんじゅうっす?」

「暖かそうですねー」


 それを更にもう一度繰り返したところで、雪の質が変わったようだ。具体的には軽くてサラサラなパウダースノーが終わり、重さで押し固められた、天然の雪のブロックになった。

 という訳で、降り積もった雪を固めて、氷のスコップを作って掘削開始。ルチルとネレイちゃんは、フライリーさんを風起こし係にして綿雪鳥の捕獲を続けるらしい。

 波が凍った氷を砕きつつ、ざっくざっくと雪のブロックを削りだしていく。もちろんパストダウンさんの指示の下だ。作業員は私とカーリャさんである。オープさんは護衛の為、周辺警戒だ。


「このブロックを凍らせれば、一際丈夫な氷になりそうですね」

「そうですね。元の街の大きさが分かり次第、防壁の材料にしましょう」


 ちなみに、武器ではないのでスコップは砕けたりしない。たぶん無意識で魔力を流し込むことが無いのだろう。

 ……武器のつもりで構えて振ってみたら、その瞬間にガッシャーンと砕けて粉々になってしまったので、持ち手の意識が大事らしい。まぁすぐ新しいのは作れるんだけどさ。

 そして埋まらないように階段を作りつつしばらく掘ると、カチンコチンに凍り付いた砂浜が顔を出した。ようやく地面に辿り着いたようだ。


「えーと、パウダースノーの層が大体2mぐらいでしょうか?」

「そこから押し固められた雪の層が約3mと言ったところですね。なるほど、確かにこれは相当に分厚いようです。……積雪が薄い筈の海岸でこれ、という事は、内地ではそれこそ、数百メートル単位で雪が積もっている可能性も高いですね」


 という事らしい。そしてもちろんその分だけ、波が凍り付いた氷も分厚く高く聳えてるって事だ。……こっちはこっちで、これだけで大分高い壁になってるな?

 その上で普通の海岸線に見えてたって事は、海の下にかなり分厚く広い氷の層があるって事だ。それを排除しないと、船が沿岸まで辿り着けない。というか、現在進行形で波が滅茶苦茶浸水してきてるんだよね。氷の壁から滝みたいになって。

 一応掘り進める速度の方が早いから掘った穴が埋まるようなことにはなっていないが、これは早めに何とかした方がいいだろう。……かと言って、普通に【火古代魔法】で溶かしてしまって大丈夫かも分からないが。


「しかし溶かさない訳にもいかないでしょう。「第三候補」さん、いけそうですか?」

「んー……まぁ、恐らく、不可能ではない……かと?」


 いやー、あの巨大化クレナイイトサンゴの時に色々教えて貰ってて良かったよね。主に大規模な魔法を。

 そんな事を思いつつ【火古代魔法】から、一定範囲の温度を急上昇させる魔法アビリティを、海に沈んだ氷を対象に発動させるのだった。

 ……体を動かすと言いながらまた魔法を使っているので、エルルにはまた怒られるかもしれないが。だって必要な事だし!

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