第262話 13枚目:厄は尽きず

 まぁ何度も言うようだが、現在私が同行しているのは検証班こと『本の虫』だ。こういう仕掛け及びその条件を特定するのは得意中の得意である。


「特定の範囲に入った人物の中からランダムで姿を写し取るようですね」

「スキルやステータスは本人と全く同じかと思われます」

「ただしその思考や記憶はそこまで読み取れないようです」

「そして姿を写し取った本人の視界に入らないように動くと」

「姿を写し取る能力が状態異常耐性で防げるのは確定情報でいいでしょう」

「「第三候補」さん、ご協力ありがとうございました」

「いえいえ、感謝はボックス様にお願いします」


 その実結構街中に仕掛けられていたらしい「置き土産」に対して、追加で3個ほど発見した段階で既にこれだけの条件を割り出して特定したのはもう職人技ではなかろうか。

 私がやった事? 「月燐石のネックレス」を貸し出したぐらいだよ。大体全員均等に「増えた」のに、私とエルルは何故か対象にならなかったからね。「月燐石のネックレス」は状態異常耐性が大幅に上がるから、それで少なくとも防御方法が確立したのは良い事だ。

 ちなみに仕掛けの本体は魔法陣だった。べったりと粘つく黒いペンキ(?)で描かれた、一見すると汚れか落書きに見えるものだ。ご丁寧に建物の床の裏とか井戸の屋根の下とかに描かれていたよ。……『本の虫』の人達は、そのペンキを回収して解析するらしい。


「……碌なもんじゃないと思うんだが……」

「例えばあのペンキ(仮)を探知する道具とかが出来れば捜索が楽になりますね。こそげ取るのに苦労していますから、上から塗り付けるだけで消せる薬品とかもあると便利ですし」

「まぁ、そういう対策的な使い方なら大丈夫だろうけど」


 悪用はしないだろうから大丈夫だ。……任意のモンスターを召喚出来たりしたら、訓練所とかに使われるかもしれないけど。だって要するにモンスターの湧きスポットが作れるって事だし。換金率の高いモンスターが見つかったら、金策にもいいかもしれない。

 夢は膨らむが、捜索そのものはあまり順調とは言えないだろう。街の中でこれなのだ、街の外にはどれだけ仕掛けてあることか。……ちらっと掲示板を覗いた感じ、結構「増えた奴は両方斬る」という解き方をしている組も多いようだ。

 で、仕掛けは少しずつでも減っている筈なのに、嵐の様子に変化はない。つまり、クレナイイトサンゴの強化はまだまだ強いという事だ。本当に、一体どれだけ仕掛けてあることか。


「うわ」

「どうした、お嬢」

「街の外の捜索状況なのですが、森の中の開けた場所にべったり一面描かれている場所があったそうです。捜索隊が丸ごと「増え」て、相討ちで全滅したようですよ」

「うーわ。……しかし、召喚者ならではの解決法だな」


 どうやら魔法陣の規模によって「増える」人数は変わるようだ。一度「増えた」相手を倒すとそこからしばらくは発動しないようなので、素早く到着した後続部隊によって魔法陣は消されたらしい。

 しかしひたすら数が多い仕掛けだが、モンスターの『王』に相当する何かは、地道にちまちまと草の根運動のように描き増やしていったのだろうか。……いくら有効だからと言っても気の長い話だな。もうちょっと効率的に出来ないだろうか。

 効率的に。……うん? 何か引っかかるな。効率、効率を上げる。べったり黒いペンキ(?)を、効率的に……。


「……まさか」

「お嬢?」

「その回収したペンキ(仮)って、何て名前になってます?」

「【鑑定】が通らないので正体不明のままです」

「…………」

「え、なんか心当たりあんのお嬢」


 あるんだよなぁ、物凄く嫌なやつが。

 黒くてドロドロべたべたしていて、【鑑定】が通らない正体不明の物体。完っ全に覚えがあるんだよなぁ。


「……「膿み殖える模造の生命」」

「「「!」」」

「何その物凄く嫌な感じしかしない言葉」

「一応名前なんですよねぇ……」

「なお悪くないか?」


 正しくはその主食(?)になっていた「実体を持った負の感情」なのだが、どう考えても類似の存在か、下手したらそのものじゃないか? あの空間はモンスターが溢れるさらに前の時代のものだから、技術をどこかしらで拾っていたとしても不思議じゃないし。

 あの時エルルは空間に入れなかったし、その後のレイド実装イベントにも不参加だ。現物を見た事が無い以上、目の前のこれを関連付けるのは無理がある。が、『本の虫』の人達は私がその名前を口に出した途端にばたばたと動き出したから、無事伝わったのだろう。

 私はその間に、かくかくしかじかとエルルに説明する。一応終わった直後に一通り説明しているので、それでエルルも思い至ったようだ。


「どう考えても碌な事にならない組み合わせだな?」

「残念ながら推論ではなく現実です」

「……知ってる」


 さーていよいよ厄ネタ度が上がって来たな。このドロドロそのものには神の力が効き辛い事も分かってるし、使い道自体はそれなりにあるだろう。どれもこれも碌な結果にはならないってだけで。

 ……これがまた、今回だけの問題じゃなくて、ここから先に待ち受ける色々なイベントのチュートリアルもしくは導入、案内みたいなもんでもあるから、頭が痛いったらない。

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