第261話 13枚目:厄介な仕掛け
具体的な目標が分かれば、ここにいるのは検証班にして堂々のトップクランである『本の虫』だ。その動きは実に早い。街の、もっと言えば嵐の外に出ているメンバーと連絡を取り合い、外と中から同時に大規模な捜索を開始した。
もちろん私は内部の捜索補助としてついていく。私を中心として直径約30mは嵐が緩むからね。【風古代魔法】と【水古代魔法】を併用し、その領域のギリギリ外側に膜を作るように防御を展開したことで、更に範囲内の快適さは上がった筈だ。
先程の要救助者を探した時と同じように、すっかり被災地の様子を呈している街の中をくまなく巡っていく。……探し物ついでに、避難した人たちの大事そうなものを回収したり、残骸となった家を固めてまとめてその場に固定したりする作業もしているが、これは必要な手間だろう。
「半ば以上暴走状態にあるとはいえ神の加護を受けた相手だからか、大変経験値が美味しいです」
「まーたそうやって魔法を使いまくる……非常時だからこれ以上は言わないけど」
うーん、身体的ステータスと魔法的ステータスの差が、ダブルスコアにはなってない、と、思うんだけどなぁ。護身術を習いだしたら真剣にやろう。
さて「第一候補」も言っていたが、この嵐は仮にも神の権能の一部だ。そして安全地帯として私が展開している【王権領域】も、厳密に言えばそれと同系統の力となる。ランクは雲泥の差だけど、属性的にはね。
なのでそこにモンスター由来の物があれば、最低でも反応があるか、その強度によっては壊れる筈との事。なので、本命は街の外の捜索隊であり、私達は万が一(上陸時)の保険を兼ねた、可能性潰しの捜索隊だ。
「ちょっと待った」
「? どうされました?」
「何かあるぞ、この辺。空気が微妙に違う」
……だったんだけど、うん。エルルは有能なエリート士官軍ドラゴンだから。異常があれば見逃すはずが無いんだよね。
ここは東側の外壁に近い場所で、日常的というか裏道系と言うか、渡鯨族の人達が普段暮らしているエリアだ。なので私はもちろん、普通は
原形が残っていないその場所にやってきてすぐにエルルは警戒の態勢に入り、『本の虫』の人達も捜索を今まで以上に慎重に行い始めた。何故って、もし本当にその違和感があの元凶によるものであれば……どんな罠が仕掛けてあっても、おかしくないからだ。
「お嬢は……」
「もちろん自己防衛に徹してますよ。私がやられたら、この後の捜索効率が落ちるどころではありませんし」
「……まぁ、それでいいや」
理由についてもにょったエルルだが、行動自体は正解だからツッコまない事にしたのだろう。まぁやられてもデスペナ貰って造船所(避難所)で復活するんだけど。なおデスペナはステータス半減が30分と習得経験値8割減が1時間(『本の虫』調べ)である。
さてそんな訳で慎重に捜索を進めていた『本の虫』の人達だが……とりあえず、見える範囲、触れる範囲に異常は無いようだ。建物や残された品にも変わった所は無い。
まぁさっきも説明したが、この嵐もしくは【王権領域】に晒されればモンスター由来の品はダメージが入る。だから、それに晒されない場所もしくは仕掛け付きという条件は外せない。だからここまでと同じ捜索が終われば、そちらに重点を置いて探すことになる訳で。
「家屋に付随した地下室の類は無いようです」
「防壁に細工された形跡はありません」
「石畳が剥がされたり組み替えられた様子は無いですね」
「不審な設置物は見つかりません」
だから仕事が早いんだよなぁ。ちなみにこれらの報告はウィスパーでカバーさん及びパストダウンさんにも届いている。うーん、レイドの時の広域チャットは情報共有って意味で大変と便利だった。
私も周囲を見回しているのだが、被災地だなぁという感想以外は出てこない。そもそも、モンスターを強化する物って何だという話でもあるし。邪神像とか禍々しい宝玉とかなら分かりやすいんだけど、どうもそうではないらしい。
まぁそもそもモンスター自体が世界的な外来種で、
「エルル、違和感の強まる場所とかありません?」
「探してるけど、よく分かんないんだよな……。微妙に消えてない焚火の、煙の匂いだけがしてるみたいな感じ?」
「それはまた……。……以前の騒動からそれなりに時間も経ってますし、この辺りに充満しているとしたら探すのは更に大変そうですね」
「お嬢は何か分からないか?」
「領域内の気配探知的な? うーん、やったことが無いので何とも……」
うん。そうだよ。どんな変化球が来てもおかしくないんだよな。それこそ、ホラーか推理物のように「いつの間にか1人増えて」いたりとかする可能性すらある訳で。
……。
…………ちょっと待て。
「すみません皆さん突然」
「「「?」」」
「一列に並んでー、番号! をお願いします!」
『本の虫』の人達は、そのほとんどが第一陣だ。第二陣から参入した人も居るには居るけど、私と一緒に行動する場合は付き合いの長い第一陣の人達が選ばれることが多い。
今回もその例に漏れず、つまり直接喋ったことは無いけど顔と名前は知っている、交流の薄いクラスメイトぐらいには付き合いのあるメンバーが選ばれた。ステータスの暴力に驚かれる事が無いので、私としても気楽なのだ。
そしてその総人数は、今回は外に人数を割くという事で20人。もちろんエルルは例外なので、エルルと私を含めてこの場には22人いる筈だ。
「……俺とお嬢入れて、23人いるんだけど」
「言われて改めて見回したら何か違和感あったんですよね。増えたのは誰ですか?」
今は全員が知り合いで同じ顔が2人いればすぐ分かるし、異物が混ざっても質問を重ねればすぐにボロが出る。だから今回は問題なく見つかった訳だ。
……エルルが斬ってみたらぐずぐずと黒い泥みたいになって崩れてしまったから、たぶんモンスターの一種だったんだろう。【鑑定☆】は通らなかったけど。
しかし何と言うか、本当に面倒な仕掛けだな。普通に暮らしている分にはまぁまず気づかないだろうし、気づいたところで発生するのは疑心暗鬼からの疑いあいだ。人狼ゲームか魔女狩りか、といったところだろう。
……外のクラン合同捜索隊だと、大惨事になりかねないんじゃないか? いやまぁ、全員
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます