第260話 13枚目:見逃した悪意

 あんまりにも暇なので、せっかくだからとさっき切り落とした足(「腕」)を出して調理してもらったりしながら時間を潰し、多分3時間ぐらい経過しただろうか。結構避難に時間がかかっていたらしく、ログイン時間も3分の2ほどが経過している。

 良い物を食べているのか神の加護の影響か、あるいは100年以上ずっと殴り合いをすることで何か下ごしらえ的な効果があったのか、大変おいしゅうございました。いやほんとに。

 これならもうちょっと確保しておくんだったかな……、と、食欲に引きずられつつあるそのタイミングで、避難所の奥からカーリャさんに運ばれて「第一候補」が出て来た。


「……何となく今の状況から察してはいますが、進捗どうですか「第一候補」」

『くはははは、笑うしかない程に手も足も出んな。クレナイイトサンゴの性質が最悪な形で状況に嵌った結果であろう』


 口調こそいつも通りだが、その声は大変お疲れだ。しかし「第一候補」がダメって事は神に直談判は不可能って事だろう。とは言えこのままだと港が更地になってしまうし、何の対策も打てないって訳ではない筈なんだけどな。

 やっぱり何かギミックを見落としたのだろうか、と、今までの経緯を考えてみる。うーん、何か引っ掛かってる気はするんだけどな。


「まぁ、いよいよ上陸されそうになったら、エルルと一緒に強制冷凍してやりますが……クレナイイトサンゴってここまで厄介な相手なんでしょうか」

「というと?」

「だって、その後のあれこれを抜きにしても、一度はデビルフィッシュ一族だけで対処できたのでしょう? もちろんその騒ぎが寄生の為の前段階だったという可能性も無くはないでしょうが……」


 エルルに合いの手を貰って思考を進め……そこで気づいた。そうだ、それだ。何が引っ掛かっていたのかって、デビルフィッシュ(異世界タコ)にしろクラーケン(異世界イカ)にしろ、「一族単位で神の加護を受けている」んだ。

 フリアドにおいて「神の加護/祝福」はそこまで軽い物ではない。それこそ、同じ種族同じレベルで同じ武器同じスキル構成をして、同じ相手に同じ攻撃をしても、一般人と神官ではその攻撃力に違いが出る程に。

 ましてや、一度何とかなっている相手なのだ。それが、いくら状況・相性的にはまったとはいえ、ここまで手も足も出せない状態になるだろうか?


「クレナイイトサンゴって、モンスターですよね? アンデッド程ではなくとも神の力は通用する筈です。それが、ここまで順調に蔓延できるものなんでしょうか?」

『ふむ』

「……いえまぁ、だから100年以上経った現時点でも手遅れになり尽くしてない、と言われればそれまでなんですが」


 と、思ったはいいものの、すぐに自分で反論を出せてしまった。うーんやはり素人考えか。

 と思ったが、どうやら何か引っかかる事でもあったらしい。皆それぞれ考えに沈んでいるようだ。うん? ニアミスもしくは疑問の呼び水ぐらいにはなったかな?


『――いや、その通りである。神の力というのはそこまで軽い物ではない。であれば、その抵抗力も相当な物である筈だ。それが、ここまで周囲が見えなくなるというのは、いくらそちらの能力の高いモンスターであってもおかしい』


 うん。「第一候補」が言うと重みが違うな。という事は、今私が口に出した引っ掛かりは、そう的外れでも無いようだ。とはいえ自分で自分を論破できた以上、他に考えは浮かばないんだけど。


『そうだ、その時点で疑うべきであった。事前に直接神から託宣を賜っておきながら気づかぬとは、情けない』

「と、言いますと?」

『クレナイイトサンゴ「以外」の存在をだ』

「……あのゲテモノピエロ以外で、ですか?」

『ピエロ? ……あぁ、あの“破滅の神々”の信者か。あれではない』


 思わず頭の中の呼び方が口から出てしまったが、まぁ通じたので良しとする。しかしクレナイイトサンゴ「以外」ときたか。えー、まだこの上相手が増えるの? いやまぁあの特大の相手は正面からじゃ無理があるだろうけどさ。

 さて、ギミック系の解決だとして今まで見落としていた可能性とは何だ、って話なんだけど。どうやらその辺も閃いたらしい「第一候補」の言葉の続きを大人しく聞こう。


『儀式が妨害されているのもその影響があると思えば筋も通る。クレナイイトサンゴが強化されたうえで神の加護が弱まっていれば、この状態も納得だ。――この街は、以前も未曽有の生物災害が起こったことは覚えているであろう?』

「……、まさかっ!?」

『流石にこれだけ大騒ぎして、避難と合わせて街中を捜索して、まだそのものが居るとは思えん。そも、この嵐自体が一部にして貸し与えられたものだと言え、神の権能だ。まともに浴びればただでは済むまいしな。……が。置き土産ぐらいは、残している可能性が高い』


 途中で、いつの間にか合流していたパストダウンさんが反応する。当然、私もエルルも、周囲に居る人も皆思い至った筈だ。

 倒せない前提疑惑のある、魔物種族とモンスターが明確に違うものだという事を召喚者プレイヤー全体に知らしめた、あの海鮮系の巨大合成モンスター。それを出現させた、世界を滅ぼそうとしている、そもそもの元凶。

 ……推定、モンスター達の、『王』だ。

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