第249話 13枚目:足止め方法

「本当にこの段になって思います」

『何を?』

「ボックス様が最高だって言うのと――やっぱり【人化】出来次第、一度は『スターティア』の大図書館に行っておくんだった、と! 手札が足りなくて詠唱待機時間クールタイムが回せません!」


 氷の塊を取り込む動きはあれから更に2回、身長は恐らく2倍を越えた。雪だるまを想像してもらえれば分かるのだが、見た目巨人の巨大化は繰り返すほどに加速していく。

 大きさが大きくなればなるほど足止めに必要な障害物の大きさも増えていく。流石に【水古代魔法】だけでは氷の塊の成長が間に合わず、【風古代魔法】や同属性の【○○属性魔法】も並行利用しているが、いかんせん威力が足りない。

 もちろん少しでも威力を底上げする為バフの維持や【結晶生成】によるドレスアップは欠かしていないので魔力の方も厳しいのだが、それはボックス様に貰った「月燐石のネックレス」が良い仕事をしてくれている。


『そりゃ普通はこんな大技の連発なんてやらないからな。というか、こんな緊急時でも無ければさせないし。そういう意味でも護身術を教えるのは早回しにしなきゃダメか』


 私は再詠唱の為に口を動かしているので返答できない。そしてエルルも口調は通常通りだが、動きとしては何処にあるか分からない見た目巨人の感覚器に捕まらないように、3次元的な動きで飛び回っている。

 まぁ本来ならこの足止めも、もっと大人数でやるべきことなんだろうけどさ。周囲を見た感じ、「第一候補」と『本の虫』、というかパストダウンさんを筆頭とした探索班はあの儀式が行われた島を調べ、それ以外の一般召喚者プレイヤー達は、どうやら少しでも被害を減らすべく、大嵐周辺でクラーケン(異世界イカ)とデビルフィッシュ(異世界タコ)を狩っているようだ。

 なお狩ると言っても討伐ではなく、「第一候補」が嵐を開いてやっていた時のような、実質捕獲である。既に捕獲、というか、正気に戻った大型クラーケン(異世界イカ)達が釣りだしを担当してくれているらしい。


『それでなくてもお嬢は精霊の気配も強いってのに……。というかそもそも、ここまでで既にそれなりの都市だって氷漬けになってるんだよな。陸に撃ってれば。普通は過剰火力だぞ』

「――しかし、それでも、足りないのだから仕方ないでしょう」

『だから緊急時なんだろ』


 もう一度、【王権領域】の範囲が掠めないギリギリに極冷の槍を撃ち込んで離脱しざま、そんな会話をかわす。うーんなんか色々気になる情報が入ってるんだけど聞き返してる余裕がない!

 距離を取って雲をブラインドに視線を切るエルルの背中で、何度目か分からないが全身を宝石で飾る。一回大技を打つたびに全部消費しちゃうからなー、若干かけ直すのが面倒になって来た。かけないと威力が足りないんだけど。

 とか思いながらも詠唱連打で【結晶生成】を使い、全身を飾っていく。だから忙しいのに、なぜかエルルはテンション低めの息を1つ吐いた。


『おー嬢』

「何ですかエルル、今見ての通り足止め、じゃない、氷の塊を育てるので忙しいんですが」

『その建前続けるのな。いや必要なのはわかるんだけど。……魔法の威力を上げる小技教えるから、ちょっと見学で』

「何故このタイミングで!?」

『前から言ってるけど、【成体】になってないのにここまで大技を連発するのは成長に悪いんだよ! しかもこの方法はさらに制御が難しいから、最低でも護身術が形になってからって思ってたのにこういう状況になるのが想定外!』

「ははは申し訳ない。っていうか今回の場合悪いのは邪神信仰の召喚者達なのですが!?」

『俺だって多少は愚痴を言いたい』


 ……ごもっとも。

 しかしまぁそうか、あのキャンプイベントもとい初の公式レイドボス戦の時と違ってエルルがいるんだもんな。それなら目的がどうあれ、問題が出力ならどうとでもなるか。なるほど、いつも通りの態度な訳だ。

 ていうか待って、今制御難しいって言った? 今のエルルでも制御が難しいって事? え、それいつになったら使えるか分からない奴じゃ。


「――[凍てつき縫い留めろ]」


 と、思っている間にエルルは詠唱を終えて、極冷の槍を出現させていた。この時点でフルブーストした私の出すものの倍はあるんだが、それを縦に、やや見た目巨人から離れる向きに傾けて設置したようだ。

 と、同時に魔力が動く感覚。もちろん私じゃない。しがみついているエルルの方だ。普段は過剰威力だから、ここまで大きく魔力を動かすことってないんだよね。それだけ大技って事なんだろう。

 その魔力の流れを辿ると、どうやら【竜魔法】での強化を尾の先に集めているらしい。魔力を操作する系なんだろうけど、こういう事も出来るのか。


「[アブソリュート・ゼロ・アイスピラー]」


 魔法アビリティの成立で、巨大な槍がぐらりと落ちていく。しかしエルルはその落下を待たず、空中でくるりと縦回転した。

 えっまさかと思いつつしっかりとしがみつき、感覚でエルルの動きを推測する。いやぁ服の中に入れられて運ばれてた時の経験がこんな形で役に立つとは。

 でまぁ、大体勘のいいひとならこの辺で何が起こったか分かると思うんだけど。



 エルル。

 魔法で作った極冷の槍を、サマーソルトでぶん殴った。



 ガヒュンッ、と加速をつけて海面へと突き刺さった極冷の槍は、私の感覚が狂ってなければ、エルルが尾に集めていた魔力が乗っているようだった。そう、【竜魔法】での強化分だ。

 そして槍が海面に刺されば、そこで魔法が発動する。その結果……私が散々苦労して、結果身長が倍以上になっている見た目巨人の、更に1.5倍ぐらいの大きさの氷山が出現した。

 ……あ、流石にここまで大きい障害物があったら足止めるんだ。まぁそりゃそうか。


「あー……強化に使う魔力を集めて、殴ると同時に魔法の方に移すことで【竜魔法】の強化がさらに上乗せされるんですね」

『そういう事。ただし威力がこの通りだから、取扱注意な』


 そして大体合っていたらしい。いやまぁそもそもの威力が違うのもあるんだろうけど、ブーストされる倍率えぐくない?

 いや、うん。ステータスの暴力が種族特性な竜族らしい威力ではあるけども。

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