第241話 13枚目:要救助者

 本来ならもうちょっとこの場所を探ってから脱出したかったのだが、可愛いネレイちゃんを連れての探索は危険だ。というか、ネレイちゃんの名前からなんか嫌な予感がする。という事で、さっさと脱出する事にした。

 なのでさくっとカバーさんにメールを送る。マップは不完全でも現在位置の座標は送れるのだ。そして1分もなく包囲からの蟻の子一匹逃がさない袋叩きにすると返答があった。その反応の速さに本気が窺えるね。まぁカバーさん達も、エルルが暴れないで済むならそっちの方が良いだろう。

 ……クラン連合(仮)も一般召喚者プレイヤーも、妨害に対して大分ヘイトが溜まっているようだし、再団結の為の生贄として蹂躙されてくれ。私を誘拐したんだから同情はしないが、合掌ぐらいはしてやろう。


「さてこれで脱出に際し隠密する必要は無し、と」

「おんみつ?」

「派手に行っていいって事です」

「はで!」


 包囲が済んだら知らせてくれるらしいので、ネレイちゃんを連れて通路を戻っていく。やがて私が入っていた牢屋を通り過ぎたらしく、牢屋に鉄格子がはまっているようになった。

 もちろんそれらも回収(力技)していく。ネレイちゃんが、わーすごーい! ってキラキラした目で見てくれるから、はりきっちゃうんだよね。元から1つ残らず回収するつもりではあったけど。

 しばらくは奥に続く方向と同じく空が続いていた牢屋だが、耳をすませば何となく、歩く音や笑い声が聞こえる、かなー? という段階になって、ようやく1つ、空じゃない牢屋が見つかった。


「やや! ネレイ様!」

「おーぷ!」


 おう。ネレイ「様」と来たか。嫌な予感的中かな。何でこう嫌な予感に限って的中率が高いんだろう。

 老年の入り口、といった風の、今の場所だと黒く見える髪に白い物が混ざり、身体は引き締まりつつもしわが見える、ネレイちゃんよりさらに鱗の色が濃い人魚族の男性だ。

 こちらも手枷をされていて、それで【人化】が解けているのだろう。下半身は魚の状態で首の横にえらっぽいものが見えている状態だ。ぜーはーと大分息苦しそうにしている。


「そちらの方は、な、銀、の、銀の、竜……っ!?」

「お静かに。まずは助けますので」


 どうやら私の服装及び髪と目の色で察してしまったらしい。見て分かる勢いで血の気が引いていった。ははは、気絶してくれるなよ? 運び出すのが大変だから。

 さっさと助けるべく、べきっと鉄格子を外してインベントリにぽい。そのまま近寄って、【鑑定☆】をかけて「縛鎖の封枷(手)」と表示された部位違いの枷を掴み、そのまま金属の輪を握りつぶした。

 鉄格子を古びたポスターかなんかみたいに軽々と引っぺがした私に目を丸くしていた男性だが、続いて私が手枷を壊すとそこで我に返ったようだ。即座に【人化】を使ったらしく、瀕死だった男性人魚さんが、きちんと身なりを整えた姿へと変わった。


「いやはや、驚きました。ですがそれ以上に、まずは感謝を。ネレイ様をお助け下さり、ありがとうございます」

「いえいえ。私もここへ誘拐されてきたのですが、どうせ脱出するならと探索してみたんですよ」


 と言うと、その熟達した空気を纏っていた人魚族の男性、あんぐりと口を開けてしまった。あぁぁ、そうか、服装と色を見ただけで私が竜族の皇女だって分かるって事は、竜族の子供に対する過保護っぷりも知ってるって事だ。

 ていうか今よく見たらこの人もなんか軍服っぽい物着てない? いやコートとかじゃなくてシャツみたいなラフな感じっていうか、中に着てる物だけって感じなんだけど、なんかこう、戦う人の服みたいな気配がするよ?

 …………よし、気づかなかったことにしよう!


「おーぷー!」

「はっ。あぁ、いえ、ご無事ならそれで!」


 そしてその男性、オープさんかな? も、どうやら私が誘拐されたという事実から簡単に連想できるあれこれを考えない事にしたようだ。そうだな、私も出来れば考えたくない。

 何より無邪気なネレイちゃんがいるからね。とりあえずまずはこの子の安全確保だ。迷路は隠密しなくて良くなった以上、壁を壊しながら直線で進めばいいだろう。水平方向にブレスを撃つと包囲してる船を巻き込みそうだし、鉄格子を外した時の手応え的に、多分殴ればいける。

 素手だったとしても手を痛めることは無いだろうけど、今はちゃんと手袋もしてるからね。問題は、ないな?


「それでは、えぇと、オープさん? 申し遅れましたが、私はルミルです」

「あぁこれは、失礼しました。オープと呼び捨てで構いません」

「年上の方を呼び捨てはやり辛いので、さん付けさせて頂きますね。……とりあえず、迅速に脱出すれば島が吹き飛ばされる事は回避できる筈なので、急ぎましょう」

「えぇ、分かりました。……しかし、この先は見張りも多く、その目を掻い潜っても、複雑な迷路のような構造となっている筈なのですが……」

「外に連絡を入れて、この島ごと包囲してもらう手はずが整っていますから、少々騒ぎになっても問題有りませんので……壁を壊してしまえば、迷路も何も、関係ありませんよね?」


 にこ、と笑って拳を握って見せる。急ぐと伝えたところでネレイちゃんを前抱きにしたオープさんは、何を言ってるんだろうこの子は、という顔をして……あ、というように、ちょっとだけ顔を引きつらせた。

 ……もしかしたら、この島の何処かで黒幕が出番待ちしていたのかもしれない。知れないが、すまない。私はエルルに怒られる方が怖い。

 丁度良く届いたカバーさんからのゴーサインメールでも、エルルが飛び出すのをギリギリ何とか自制してるって書いてあったし。急がないと、こめかみぐりぐりで済まないかも知れないから……!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る