第125話 10枚目:ひたすらな大掃除

 カバーさんから遠回りに「こっちの問題への対処をお願いします」と言われてしまえば仕方ない。グッバイ広大な地上。ハロー狭暗い地下通路。

 ソフィーさん達には私が見つけた通路への入り口と、それに対する対処法……【風古代魔法】と【水古代魔法】の存在と、便利お掃除魔法3種セット……を伝えてもらう事をお願いした。だって付いて来られても多分時間が無駄になるだけだよ?

 そんな訳で再び地下室から地下通路へゴーだ。……わき道である縦向きの通路はまだ綺麗だったけど、さっき行かなかった右手方向は結構至近距離まで汚れ(仮)が迫ってきていた。結構早いな。


「キュッキュキュー(まー1回物量と労力であれだけの街を作る文明を撃退してるもんなー)」


 という訳でお掃除お掃除! ステータスの暴力を喰らえ! 敵だと分かったんだ、容赦せずに飛ばしていくぞ!

 今回はさっきと逆方向へ進んでみる。オートマップを見てみると、ご丁寧にというべきか。恐らくあの汚れ(仮)が再び広がった部分は、白かった通路表示が白枠の黒に変わっていた。うわ、結構既に広がって来てる。

 威力アップ系のバフをかけてから便利お掃除魔法3種セットを使うと、その効果範囲が広がる。だから魔法スキルを入れ替えつつ手持ちのバフを全部かけた状態で【飛行】で通路の真ん中を移動していく形だ。


「キューゥ、キュッ(しっかし神の力は通じにくいわ【鑑定】で正体が分からないわ、一体ほんとに何なんだこれ)」


 さっきとは比較にならないスピードで綺麗にしていく範囲を広げていると、さっきより早く推定モンスターが現れた。これはもしかすると、何か深度的な物があるのか?

 まぁ短発ブレスで吹き飛ばすんだけどね。万一触られたらどうなるかなんて嫌な予感しかしない。近寄んな。

 あぁそうだ。さっきの手書きの紙を見たのが「地図を見た」判定になったらしく、まだ行っていない通路が薄い灰色で表示されるようになった。分かりやすい。


「キ、キュッ(あ、一応推定モンスターが出てきた場所メモっとこう)」


 私では分からなくても『本の虫』こと検証班の人達なら何か分かるかもしれない。と、オートマップに印をつける。いや便利だなこの機能。【測量】スキルは普通に手書きの地図で、紙とインクが必要な上に距離は道具で測らないといけないし。

 レベルを上げれば自分がどれだけどの方向に進んだか体感で分かるようになるらしいが、それまでが長い。……原因を解決した後なら、この大迷路も【測量】とかのレベリングに良いのかもしれないけど。

 行くべき方向が分かっているのはありがたい。とりあえず、行き止まりを潰す方向で進んでいこう。さっき掃除した方向からの広がり方を見るに、汚れ(仮)はワープする訳ではなさそうだ。逆に言えば、一か所でも掃除し損ねればそこから広がるって事なんだけど。


「キュゥ、キュー(この通路が何のための物かは知らないけど、少しでも残せば増殖するのはきっついなぁ)」


 まぁ便利お掃除魔法3種セットをステータス(魔力)の暴力で叩きつける分には掃除し残しの心配はしなくていい。それは今も綺麗なままの行き止まり表示が証明している。

 出来れば他のわき道、というか入り口を見つけて、あの建物をプライベートなままにしておきたいんだ。どっちにしろ進入路ではあるから、移動させられる可能性は高そうだけども!




 そこからログイン時間ギリギリまで頑張ったけど、流石に広大複雑極まる地下通路を1人で何とかするのは無理だった。残念。まだステータスが足りないというのか。

 なので私は再び司令部ことクラン『本の虫』が腰を据えている建物へと移動。すぐに使わない物を集めて人を寄せないようにした倉庫に籠を置いて貰って、そこでログアウトした。

 フライリーさんは他の第二陣召喚者プレイヤーと交流しながらレベル上げをしていて、ルチルはその保護者役。「第二候補」は相変わらずブートキャンプという名の模擬戦三昧で、フィルツェーニクさんはその監視兼お手伝いだ。


「キュッキュ(結果私が一番フリーに動ける特級戦力だと)」


 はい。という訳で連休に入って午前中からログインだ! と上がっていたテンションが、ひたすら魔法的なお掃除という作業の前にダダ下がり中。カバーさん達も水と風限定で良いから【○○古代魔法】を習得してくれないかな。

 その八つ当たりも兼ねて便利お掃除魔法3セットをフルバフ状態でひたすら連打していく。残したら後が厄介になるのが分かり切っている以上、行き止まりやわき道は全部潰していくから余計に時間がかかるのは仕方ない。

 あー、もー! いっくら綺麗にしてもしてもしても、次から次へと!


「キューァッ!(しっつこいっ!)」


 オォアー、と言う感じで出て来た推定モンスターを、怒りを乗せた短発ブレスで消し飛ばす。単調! やっと1人じゃなくなってあの谷底から出て、オフラインゲームかと思うような1人で黙々とやる作業からは解放されたと思ったのに!

 なんで! このタイミングで! こういうのが出てくるかな!!


「キキュゥ……キュ(というか「第二候補」も魔法型なら手伝ってくれれば……いやダメだな)」


 ちょっと想像してみて、「ならば元凶まで一気に吹き飛ばしてしまえば良いじゃろう」と街(廃墟)ごと、文字通り跡形なく吹き飛ばす様子が簡単に思い浮かんだのでセルフ却下。

 いや、分かってるんだよ。街(廃墟)を守る程度の加減が出来て、でも使える魔法や能力の規模が大きいとなると私しかいないって言うのは。それこそルチルだって、これだけの範囲を綺麗にしようと思うと途中で魔力切れになるだろう。

 そういう条件で頼りになる、出来るイケメン士官軍ドラゴンなエルルは進入条件のせいでここへは来れない。だから、私しかいないのは分かってるんだ。分かってても1人で愚痴るぐらいは良いじゃないか……!


「……キュ?(あれ?)」


 そこまで考えて、何か引っかかった。そうだ。エルルが生まれるはるか前の時代の話だっていっても、最初のアラートと言い今回の大掃除と言い、エルルがいればあっさり解決してた筈だ。

 で。フリアドは、基本的にあらゆる物事に理が通る。理が通らない所には何かがある。今回のこの汚れ(仮)と推定モンスターもそうであるように、それこそゲーム的なご都合主義に見える事だって、そこには理があった。

 じゃあ? 何でエルルは来れなかった? それは、種族レベル1001以上はダメだという進入制限がかかったからだ。……「何故」?


「キュ、キュゥッ?(あれ、もしかしてまだ何かあるのか此処?)」


 恐らくそれは、「詰み」になる可能性があるか……他の場所で必要か、だ。

 「詰み」になる可能性としては、あの汚れ(仮)が、寄生や支配系の特性あるいはスキルを持っていて、それが耐性とか抵抗とか関係なく貫通する類である事。まぁ確かにエルルが全力で敵に回ったら私でも正直抑え込む自信は無い。

 あるいはバックストーリー的に、このイベントエリアと言う名の亜空間の耐久度的な物が実はそうでもないのかもしれない。散々「第二候補」が暴れていたり私も好き勝手しているが、それでも種族レベル約1万3千のエルルと比べれば弱いだろう。


「キュ、キュゥ……(となると、他の場所で必要な可能性は……)」


 …………本来の空間への、状況持越しがある場合、とか、かな……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る