第121話 10枚目:掃除と探検

 一応ギリギリ、日付変更直後に滑り込むような形でルチルと合流。無事をしっかり確認してフライリーさんの事も聞いた上で改めてカバーさんに「第二候補」の暇潰し……もとい、【鍛冶】強化合宿の説明をした。

 アラームによるモンスターの無限湧きは止まっている。道中の森に出てくるモンスターはそんなに強い訳でもなく、むしろ完全に崩壊してしまった西方向の防壁を修理する為の良い建材調達相手なのだそうだ。

 なのでルチルに後の事を任せ、効果なしの建物の内1つをプライベート用として貰って、そこで改めて寝たログアウトしたのだった。


「キーゥ(さてあれからどうなったのかなっと)」


 で、翌日。まだ平日は続くのでまたしても夜になってからのログインだ。カバーさんから貰った籠の中で丸くなっていた姿勢から起き上がる。

 耳を澄ませてみると、建物の周囲からわいわいと人が活動してる感じの声が聞こえてくる。無事(?)イベントは平和に進んでいるようだ。

 平和な状態を確認した所で、改めて周り、というか、貰った建物の内部を見回す。……生産設備が一通り揃ってるから、結構いい建物なんだよね、此処。当然対応するスキルがあれば普通に使える。


「キュッ(なら私も生産スキルを鍛えにかかろうか)」


 周囲にメモ書きや伝言の類が無い事を確認して、ぴょいと床に飛び降りた。そのまま、【鍛冶】スキルで使う筈の炉と金床がセットになっている設備の前に移動する。

 大丈夫だ。ちゃんと自分の分の赤い砂、砂状になった鉄鉱石は確保してある。どうやって猫サイズで道具を使うんだって? ははは。人魚族の所で生産作業した時どうしてたと?

 なーにスキル自体は【飛行】になったけど別に【浮遊】としての力が使えなくなる訳じゃないんだ。それでは、レッツ鍛冶仕事!




 鍛冶仕事というのは結構環境的には過酷扱いになるのか、それなりに【環境耐性】のレベルが上がったりしつつひたすら設備とセットのハンマーを振るい続ける事、内部時間で2時間ほど。

 何故か【幽体離脱】や【魂体操作】のレベルが上がってるんだけど、何これ。え? もしかして魔力じゃなくて魂でハンマー振ってた? でも【魔力操作】と【精細動作】も上がってるしなぁ。

 相変わらずフリアドの謎システムに首を傾げつつ、まぁ強くなる分にはいいかと考えを放棄した所で現実(※ゲーム)に戻る。


「キュゥ(これもある種ステータスの暴力か)」


 つまり。うん。素材を使い切ってしまったのだ。おかしいな、結構な量をインベントリに入れてた筈なんだけど。出来上がった装備の出来? ……素人が作ったにしてはまぁまぁ使えるんじゃない?

 しかし誰からも何も反応が無い。ウィスパーどころかメールすら来ない。忙しいんだろうか。いや、忙しいだろうけど。

 しかし結構人が行き来してる気配がするから、外に出るのもなぁ……と思いつつ、もう一度内装を見回す。……最低限の掃除はした、という感じの、石造りというよりコンクリート打ちっぱなしに近いような部屋を。


「……キュ(掃除でもするか)」


 鍛冶で使った炉の火を落とし、【飛行】の自分への発動を意識して1m半ぐらいの高さに滞空する。【風古代魔法】と【水古代魔法】を一緒にメインに入れてと。

 あ、今更ながらの話だが、魔法スキルというのは何か特殊な処理をしているらしく、使えるアビリティの数が一定数を越えるごとに、使えるようになった順番にアビリティの詠唱が省略できるようになるらしい。

 まぁだから、【火属性魔法】を使い込んで思いっきりレベルを上げた後に他の【○○属性魔法】を習得したりすると、結構威力の高い火属性アビリティはぽんぽん連射できるけど、他の属性は初級でも詠唱が要る、という事になる訳だ。


「[クリーン]!」


 何が言いたいかというと、かなりの数の魔法スキルをまんべんなく鍛えている私は、初級から中級の入り口ぐらいまでなら大概のアビリティは無詠唱で発動できるのだ。

 いやぁ、便利だね【○○古代魔法】。これは【風古代魔法】の初級あたりにあるお掃除アビリティなんだけど、一発で部屋から埃っぽさが一掃されたよ。

 なんでこっちが残らず使い勝手の悪い方が残ったのかなーと思いつつ部屋を移動し、同じように魔法一発で綺麗にしていく。いやぁ、楽でいいね。現実でも使いたい。


「[ウォッシュ]! キュー(からのー) [ドライ]! [クリーン]!」


 流石に水場だっただろう場所はしつこい汚れが残っているので、【水古代魔法】の汚れ落とし魔法で綺麗にする。【風古代魔法】で乾かしてから綺麗にすれば、はい、ぴかぴか!

 ……しかし思ったけど、これ、詠唱と言うかアビリティ名は一体何語を喋ってるんだろうね? 鳴き声喋りと一緒で自動変換されるからよく分かってないんだけど。英語かな。

 とか思いながら、何と2階と地下室まであった建物の内部は綺麗にし終わった。ふ。私、実に有能。まぁステータスの暴力なんだけど。魔力最大値って意味で。


「キュ?(ん?)」


 掃除は上から下へ行うもの、って事で、最後に綺麗にしたのは多分倉庫として使われていただろう地下室だった訳だ。

 掃除しても微妙に空気が悪い感じがするなーと思っていたら、綺麗に掃除した筈の部屋に、既に汚れが復活していることに気が付いた。

 もう一度便利お掃除魔法3セットを叩き込んでも、その部屋の隅に当たる場所は、見ている間にじわじわと黒いカビだか水染みだかみたいな汚れが広がっていく。ナニコレ?


「…………キュー(お約束と言えばお約束だけども)」


 【火古代魔法】もメインに入れて、明かりをつけてその場所を調べてみると、どうやら地下室の定番、床板が外れて、更に地下へ続く道があるらしい事が分かった。

 どうやらいくら掃除してもしつこく広がる謎の汚れは、この更に地下から上がって来るらしい。汚れって言うかスライムとかの一種かな。他の場所を見て回っても広がってる様子が無いから、放置してもこの地下室がちょっと湿気て掃除しきれないだけだろう。

 逆に言えば、この更に地下をどうにかしない限り、少なくともこの地下室は完全には綺麗にならないって事だ。


「キッキュー。キュゥ!(そんなの行くに決まってるじゃん。どうせ暇だし!)」


 壊されて困る装備どころか、普段から装備らしい装備がないしね。

 とりあえず【鍛冶】スキルを鍛えるのに作った沢山のそんなに質が良くない武器を上の部屋に山積みにして、置いてあったメモ帳に『地下を探検しに行ってきます』と書き残しておく。

 その次のメモに地下室までの地図と、地下室の隅を黒く塗りつぶして矢印を書いておいた。これでルチルや『本の虫』の人達が私を探しに来ても、何処に行ったか分かるだろう。


「キュッ、キューッ!(では、いざ探検!)」


 エルルから貰ってインベントリに入れてあったご飯を一皿食べて、準備完了。地下への蓋を浮かせてどけて、便利お掃除魔法3セットを叩き込んで綺麗にしながら、縦長の通路へと入っていった。

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