第120話 10枚目:探索と発見

 さてそんな訳で、「第二候補」の暇潰しを主目的とした戦力過剰パーティによる砂漠探索を進めていると、所々、妙な地形がある事に気が付いた。

 いや、砂漠は砂漠なんだよ。砂の粒。なんだけど、なんだか妙に赤い場所があるんだよね。血でも零したみたいで不吉だなぁ。

 と思って、近くに来た時に調べてみた。ら。


『フィルツェーニクさん』

「はい!」

『手伝ってください。この赤い砂、可能な限り持って帰ります』

「はいっ! ……はいっ!?」


 ガッチガチに緊張したまま一向に態度の変わらないフィルツェーニクさんだが、今はそれより重要な事がある。エルルみたいに袋を作る技能は無いから、とりあえずざくざくと掘ってはそのままインベントリに投入だ。

 くっ、今まで見逃してた分の正体が分かったら惜しい! いや、他の人が採る分には近い方がいいのか? あぁとにかく、『本の虫』の人達には知らせないと!


「突然穴掘りを始めてどうしたのじゃ、「第三候補」」

『鉄です』

「ほ?」

『だから、この砂が赤くなっている場所、ほとんど全部鉄です。鉄鉱石が砂状になって溜まってるんです』

「……なんと。こんな形の鉱山もあるということかの」

『と、いう事でしょうね。まぁ、この空間特有のデタラメ現象かもしれませんが』


 戦闘に一区切りついたらしい「第二候補」が聞いてくるのに、ざくざくと砂を掘り出しつつ答える。つまり資源の塊だ。こんなの逃がす訳に行かないだろう。この一つの塊だけでいったいどれほどの鉄製品が作れる事か!

 が。大分困惑しながらも一緒に採取活動をしてくれているフィルツェーニクさん。首を傾げたようだ。


「……その、皇女様。お言葉を返すようですが……これ、あまり質は良くない、のでは?」

『そうですね』

「…………えぇと」

『今回の場合、質はあまり関係ありませんから。何より量がある、という事が大切です。というか、質についてはむしろ悪い方が都合が良い』

「はいっ?」


 まぁ正直、鉄そのものの質は悪い。素材ランクでいうとほぼ最底辺だろう。それは確かだ。けど、とにかく量がある、というのが大事なんだよ。特に今回、私が寝たログアウトした後の「第二候補」の足止めを考えるとね!

 今回皆が痛感したことだろう。生産スキルの重要性を。しかし、生産スキルを鍛えるにはまず素材が必要で、レベル上げの為には売り物にならない粗雑なアイテムをたくさん生産することになるだろう。もちろんそれらを再利用する事も出来るが、やはり手間がかかる分だけ大変だ。

 なら、素材の供給源を見つけて、粗雑な装備だからこそガンガン消費できる状況を作ってやればいいんだ。


『「第二候補」も手伝ってください』

「儂関係あるかの?」

『これで見習い職人が作った武器なら、武器破壊限定で手合わせ解禁だとしてもですか?』

「よーし任せるのじゃ、周辺一帯回収しつくしてくれるわ!!」


 そしてそれは、戦いにいつだって飢え続けている戦闘狂の暇潰しにもなる。生産スキルの平均レベルは上がり、「第二候補」は模擬とは言え戦闘出来て、相手になるプレイヤー達はスキル外の戦闘技能を鍛えられる。一石三鳥で皆にっこりだ。

 ふーはははー! と、恐らく電気系の魔法スキルで一気に赤い砂を吸い上げる「第二候補」を見て、その手があったか、と気づいた。【雷属性魔法】と【風古代魔法】を同時並行で起動して磁場を作り、雑ながらも磁石を作って一気に赤い砂をかき集める。


「???」


 フィルツェーニクさんが会話について来れず大混乱になっていたが、うん、ごめんな。大丈夫、戦闘狂をフォローするっていう仕事は間違いなく軽減される(はず)だから!




 ニビーさん経由で『本の虫』の人達に連絡を取り、「第二候補」の性格とさっきの案を伝えると、大急ぎ、と言った感じで街(廃墟)の中にあった鍛冶施設の修復が進んだようだ。

 戦闘力という意味で過剰極まる私達は、インベントリの容量という意味でも一般平均からすれば随分とぶっちぎっていたようだ。フィルツェーニクさんに隠れるようにして指定された資材置き場に赤い砂を持っていったら、まだ生き残っていた『本の虫』の人が目を丸くしてたからな。

 あ、そこで初めてはっきり確認したが、「第二候補」もインベントリを始めメニュー機能を獲得する事が出来ていたようだ。


『竜皇国にも大神殿があったんですか?』

「あったぞい。ほぼ遺跡状態じゃったから、ほれ、あの野良ダンジョンの報酬で出てくる建築素材じゃ。あれを使って修復する必要はあったがのう」


 と、いう事らしい。

 なるほど、と一つ納得して、それはそれで浮かんできた疑問がある。


『……竜族の始祖に当たる神は、ごく最近まで封じられていた筈なんですよ』

「なんじゃと?」

『直接お会いしてそのように話を聞きましたから、間違いありません。というか、私の種族レベルの本来のキャップは、最低で数万だそうですし』

「なんと。ん? という事は儂もそういう可能性があるのかの?」

『恐らくあるでしょうね。推定ですが「第一候補」にも。いえ、魔物種族はほとんどがそうだと言っていいかも知れません』

「うーむ、確かにあっさりと上限に辿り着いたとは思ったが……」


 恐らく。恐らくだが、「第二候補」の種族は不死族だ。世界三大最強種族の一角。「第一候補」も、同じく。あちらはそれでいくと、御使族、なのだろう。

 だからこそ、引っ掛かった。


『始祖である神の加護と祝福があって初めて、魔物種族は本来の成長を行う事が出来る。これは理が通っています。で、あるならば』


 赤い砂の陰に隠れて、一般召喚者プレイヤーからの視線に居心地悪そうにしている黒髪金眼の少年を……戦う仕事に就くにはあまりに年若い、その姿を見る。


『シュヴァルツ家が第14子。フィルツェーニク・ドーン・シュヴァルツ。古代から続く血筋の、現代に生まれた竜族。彼は』


 ――恐らくは。それこそが、召喚者という例外を除いた、古代竜と現代竜の違いだ。


『「始祖の祝福を受けていない」のか。或いは「何らかの方法で例外的に祝福を受ける術がある」のか。――さて、どちらなのでしょうね』

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