第117話 10枚目:事態確認
無謀をしようと思うだけの実力はあったのか、恐らくアラートの罠があったと思われる元凶の居場所は、そこそこ遠かった。具体的には、私がその上空へ到着する頃には、すっかりキノコ雲は晴れていた。
まぁ視界が良い分には困らないので、細長い放射型の頂点にして起点、本来は尖る形に森が削れていた場所の、今は円形に森が吹き飛ばされている場所を見下ろす。
ふむ。黒くて大きな何か。でもどうも焦げたって感じじゃないんだよな。元から黒い感じ。っち、蒸発させられなかったか。そのまましばらく様子を見ていると、もぞ、とその大きいのが動いた。その下から、服を着たガイコツが這い出てくる。
「うぬぉ……ちょっとちょっかい出してみただけじゃのに、酷い目に遭ったわい……」
「グルゥ……(いや爺さんありゃちょっとじゃないだろ)」
「お主もすまんのぅ。じゃが心配には及ばんぞ」
「グルル(いや心配はしてないんだけど)」
「なぁに大丈夫じゃ。何せ死なぬからのう! まぁ今も骨なんじゃが!」
「グルルーゥ(いやだから心配はしてないし不死族って時点でどう頑張って殺しても死なないだろ)」
「お主は心配性じゃのう。しかし、あの氷の壁と言い今の一撃と言い、中々腕の立つ奴がおるようじゃ。ふっふっふ、攻城戦も楽しみじゃのう」
「ガーゥ(ダメだこの戦闘狂爺さん早く何とかしないと)」
……。
…………。
……………………。
「キュァアアアアアアアアアア!!!(お前か「第二候補」ぉ――――っっ!!!)」
「なんじゃ――!?」
「ギャァーッ!?(何で俺までーっ!?)」
とりあえず、バフはかかったまま宝石ブーストは無しで、もう一発ブレスをお見舞いしておいた。
「なぬ!? あの砦は
『砦じゃなくて廃棄された都市の防壁なんですけどね。気づくのが遅ぇーんですよ「第二候補」』
接触を条件に切り替えた【吸引領域】を発動して「第二候補」の頭の上に乗り、魔力と体力を限界まで絞り続ける事で身動きを封じてこんこんと説明をする事半時間程。王冠のないリッチ、という姿の「第二候補」は、ようやく自分がやらかしたことを自覚してくれたようだ。
流石に2回目のブレスは直撃判定で入ったのか、その豪華な衣装も本体である骸骨も、その表面はこんがりと焼き上がった状態だ。私と同じく耐性スキルは上げているようで、黒く焦げはしなかった。っち。
そこから一切の回復を許していないので、こんがり焼き上がったスケルトン(服付き)がべしゃっとうつ伏せに倒れている、という姿勢になる。その頭蓋骨の上に猫サイズの銀色ドラゴンこと私が乗っている状態だな。
「のう「第三候補」。口調もそうじゃが随分儂に対して当たりがキツくないかのう?」
『うちの子に知らずとは言え手を出しておいて、ただで済ませる訳が無いでしょう? むしろ今すぐこの場で死に戻りさせなかっただけありがたいと思って下さい。それでなくても野放しにしたら確実に次の騒動を起こすでしょうに。この戦闘狂』
「うーむ否定できん」
……戦闘狂、と呼んだことを含めて否定しなかったことに、尻尾でべちりと一撃入れておく。「いだっ!? 老骨をいたわらんか!?」と文句を言うのをスルーして、べっちゃぁ、という感じで地面に伏せている、エルルの半分くらいなサイズの真っ黒くて金の眼のドラゴンに視線を向けた。
『で。あなたは?』
『申し遅れました!! 竜皇国が影の剣にして盾たるシュヴァルツ家第14子、フィルツェーニクです!! 皇家の方がいらっしゃるとは知らず!!』
『私は身体こそ竜族の皇女ですが、中身は召喚者なのでそこまで畏まらなくても良いですよ。とりあえず、楽にしてください』
『有難きお言葉!!!』
うーん何か色々出て来たぞー? 特にシュヴァルツ家ってとこだ。エルルの実家じゃないか。……そういや、「家族のことはあんまり楽しい記憶じゃない」とか言ってたな。
しかし何世代後か知らないけど、エルルの親族か。一応。それでなくても初めての現代竜族だし。怯えすら感じる畏まりっぷりにちょっと困惑気味だ。……いや、怯えはあれか。2回もブレスがほぼ直撃して死にかければそりゃ怯えるか。
『「第二候補」』
「なんじゃ、「第三候補」。そろそろ降りてくれんか?」
『降りません。彼とはどこで出会ったので?』
「何故じゃ。遺跡から見つけた魔法書を間違って発動してしまってのう。訳の分からんところに転移してしまった挙句魔法書自体が壊れてしまって途方に暮れておったら、喧嘩を売ってきたから叩きのめしたんじゃ」
『信用がゼロどころかマイナスだからに決まってます。そしてその話はどこからどうツッコめばいいのか分からないのでひとまず放置するとして』
相変わらず訳の分からないことになってるな。まぁそもそもこのイベントエリア内に出現した地点があの街(廃墟)じゃないって時点でイレギュラーか。
という事で「放置は酷くないかのう?」と言っている骨にべちりと尻尾ビンタをもう一発。視線を、楽にしていいって言ったのにまだべっちゃぁと地面に張り付いている黒いドラゴン……フィルツェーニクさんに向ける。
『えぇと、フィルツェーニクさん? 今の話は合っていますか? そしてその後どうしたので?』
『はい!! 不死族の方と気づかずアンデッドと判断して戦闘を挑んだ挙句返り討ちに遭いました!! その後騎士として配属されていた街に案内させて頂き、その後は「召喚者」という存在が何か分かるまで世話係を仰せつかっております!!』
「うぬ? 散々説明したのにまだ召喚者が何なのか分かっておらぬのか?」
「ガァ!?(異世界とか召喚とか精神は人間とか言われても不死族の暗号なんて分かる訳ないだろ!?)」
『落ち着いてください。それだと意味が通じませんよ』
『はっ!! 失礼致しました!!』
テンパっているのか、途中で【魔族言語】が解けるフィルツェーニクさん。うーん、こうして考えるとほんとエルルの有難みがすごいなぁ。テイムで現代知識を付与されたから召喚者とか異世界とかすんなり通じるんだもんなぁ。
そしてこのあっさり【魔族言語】が解ける感じ、もしかしなくても異種族交流に対して不慣れどころじゃないな? 通りで上から見てる分に全く会話が噛み合ってなかった訳だよ。
……さて。そろそろ真面目にどうするかね。
『そうですね。とりあえず、「第二候補」』
「なんじゃ、「第三候補」」
『人間種族は
「なん、じゃと……?」
『もっと砕くと、弱者に合わせるのが嫌なら交流チャンスを棒に振って出て行けと言っています。大人しくしているのであれば、召喚者の扱いや認識、竜族や不死族といった種族に関する情報をあげましょう』
「うぐ、むぅ……。……まぁ……なら…………仕方ない、のう」
いつまでも私が拘束具の代わりをしている訳にもいかない。なのでまず、戦闘狂の「第二候補」に特大の釘をさしておく。原則戦闘禁止、これをちゃんと守るのであれば、カバーさん達こと『本の虫』が何とかしてくれるだろう。
物凄く渋々ながら了承の返事が返ってきたところで、【吸引領域】をオフにしてべしゃっと倒れていた「第二候補」の頭(頭蓋骨)から、地面へと飛び降りる。ビクッとして更に地面にめり込むようにして頭を下げようとするフィルツェーニクさんに、こっちはこっちでどうしたものかな、と少し考え。
『フィルツェーニクさん』
『はい!!』
『竜族が最後に大陸外の人間種族と接触したのはいつか、分かりますか?』
『は? あっ、いえ!! えぇと確か……俺の爺ちゃ、私の祖父が大陸の海岸まで行った際、難破船を発見して救護したのが最後……の筈、だよな、たぶん、他に聞いてたら教えられてるし……です!!』
『成程。つまり、あなた自身は人間種族と接触したことが無い、という事でしょうか?』
『はい!! ……え、っと、皇女様におかれましては、竜皇国の大陸では、長年外部との交流はほぼ無いとの事を、ご存じの筈、では……?』
『その辺りも召喚者という存在と合わせて追々説明しましょう。ひとまず、【人化】は可能ですか?』
『はい!! 差し出がましかったですね!! 【人化】は可能です!!』
『忌憚ない意見は歓迎しますよ。気にしないで下さい。それでは【人化】して、一緒に来ていただけますか?』
『はい!!』
気になったことを確認して、「第二候補」と一緒に『本の虫』の人達にお任せすることにした。何でもかんでも丸投げ過ぎるだろうって? いやぁだって、どう考えても『本の虫』の皆さんの方が説明上手だし。
……。
しかし、竜皇国はいいとして、長年外部との交流がほぼ無い、ねぇ。
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