第113話 10枚目:戦線状況

 なお、出来る子であるルチルはカバーさんに内緒話を頼み、私が隠れていられるスペースを本棚の一部に作ってくれた。これで万一時間切れとかで魔法が解けても大丈夫だな。うちの子が賢い。

 ……まぁ、解ける可能性がある程度にはガッツリ戦ってくる必要があるって事でもあるけど。バフ能力をメインに評価されているようだが、ルチルの本業はヒーラーだ。小回復を連打するタイプの。

 そして、初級ぐらいの魔法なら、同じか下手したらそれ以上の速度で連打できる訳でさ。一発一発の消費魔力が低い上に、ルチル、魔力の自動回復関係のスキルもかなり鍛えてるみたいだったから……イベントの時の掲示板から言い方を借りれば、弾幕カナリアさんだ。面制圧ならお任せあれ。一番得意な相手は数頼みの雑魚敵です。


「はい。それでは続いて東方向の修復に動きましょう。浮いた戦力を集めてください。南方向は強力な助っ人が来てくれましたので、その分の増援を回しましょう」


 という訳で、戦場となった安全地帯の防衛戦司令部の様子を見ている訳だが、うん。楽しいね! あんまり戦略系ゲームはやってなかったからなぁ。こういう作戦を立てて戦力のバランスを考えてってしてるのを見るのは新鮮だ。

 そしてその様子を見るに、アラートが発動したのは西方向のようだ。現在の主戦力がほぼ全て投入されている。次点で厳しいのが南方向だったようだが、こちらはルチルが向かったので現状維持。北方向は現在の戦力で拮抗していて、東方向がやや優勢、と言ったところらしい。

 もともとこの安全地帯ははるか昔に廃棄されたものの、まだ十分人が住める、という状態の街の廃墟だったらしい。そしてこのフリアド世界の街というのは、対モンスター、対戦争の備えとして、砦を兼ねた防壁がぐるりと周囲に張り巡らされている。


「街内部の施設の修復状況はどうなっていますか? ……なるほど。とりあえず基礎だけ修復出来たら防壁の方へ資材を回してください。いくら全体補正がかかると言っても、防衛ラインを抜かれれば元も子もありません」


 で。街であったからにはその内部には様々な施設があり、それはモンスターからドロップする(今更な話だが、【解体】で残るモンスター本体とは別に直接インベントリに入るアイテムの事だ)神殿にも使える建材を使って修復する事が出来る。

 そして修復すると、建物ごとに設定されている効果が発動するらしい。大神殿とかだったら召喚者プレイヤーのステータスに微補正が入るとかね。まぁそれも、一番最初のパニックになっているときにモンスターの侵入を許してボロッボロにされた上に、まだ街の中のモンスター駆逐が終わっていないから、一からどころかマイナススタートになってるようだけど。

 幸いと言うか何と言うか、建材を落とすモンスターは向こうからやってくる。インベントリにも容量があるから、整理するついでに寄付する形で資材を司令部に置いて行くようお願いしているのだそうだ。


「建設資材の使い道は、最優先は防壁の修復で、次点が迎撃兵器です。施設はマイナスの補正を脱したらそこまでにして、修復アビリティを持っている方は他に回って下さい」


 なお、施設を修復するだけならスキルもアビリティも必要ない。必要ないが、【鍛冶】等一部の生産スキルには、修復を促進したり、同じ素材を使ってもより多く耐久値を回復する事が出来るアビリティが存在する。

 施設修復の効率に直結するので、少しでも早く修理したい、完全に壊れてマイナス補正が発生している施設には、そういう人達が向かっているようだ。と言ってもやはりその人数は少ないらしく、手が回っていないようだが。

 ……戦闘力に繋がりそうな補正が発生する施設の内、完全に壊れているのは、あと3割と言ったところだろうか。この安全地帯、廃墟となった街の地図を覗き見る限りは、だが。


「ポーションや矢などの消耗品は? ……やはり、供給が追い付きませんか。矢は仕方ありませんが、回復は出来るだけスキルで行うようにもう一度周知して下さい。ポーションは、それでも間に合わない時に緊急的に使用するようにお願いします」


 そしてまぁ分かっていたけど、こういう時に響いてくるのが生産関係の人口の少なさだろう。今回は、珍しい素材が大量に手に入る、という事で、生産関係をメインにしているプレイヤーもそれなりに参加している筈なのだが、全く需要に供給が追い付いていないようだ。

 ま、素材が向こうからやってくる、とは言え、それが消耗品に使えるかどうかはまた別の話だ。素材が無ければ作れない。だから、ジリ貧になるのは当然だろう。

 その前に防壁を修復しきるか、それともやってくるモンスターを全滅させるのが早いか、という問題、なのだろうが。


「…………ここまでの推移を見る限り、嫌な予感は当たっているようですね……。やはり、モンスターの元となるアラートの罠は、あれからずっと起動したまま・・・・・・・・・・・・・なのでしょう」


 そっちかー。と、私も隠れたまま顔を覆いたくなった。

 何が最悪って、このスタンピートじみたモンスターの群れを防衛しつつ、それを突き破って、「無謀をした先の奥地」まで行って、アラートの罠を解体するか壊さなければならない、って事だ。

 正直、無理ゲーもいいところである。……エルルが居れば、東の防壁の上から【人化】解除でのブレス一発で片付いただろうけど。居ないから仕方ないね。おのれ人間種族の神め。(※原因と決まった訳ではありません)


「防衛までは、まだ、何とかなるにしても……どうしたものでしょう」


 え、私がブレス使ってもいけるんじゃないかって?

 たぶんいけることはいけると思うけど、それ以外に何がどれだけ巻き込まれても、知らないよ?

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