第96話 8枚目:外洋渡る鯨
同行、というか、もふもふ目当てで付いてきていた人間種族
なんだかんだやりつつもエルルの移動速度がすごいので、結局イベント期間はまだ1日と半分ぐらい残っている。
『何で渡るってつくかっていうと、そのまんま、中でも大きい奴の背中に鞍みたいに船をのっけて、それで大陸から大陸へ客を運ぶからなんだよな』
『スケールのでっかい渡し守だね?』
『そうだなー。で、その船を乗せる奴が
『そうなんですねー!』
という訳で空の旅。ルチルも移動するときはカナリア姿に戻って私にくっついている。流石に一緒に飛ぶのは無理だし、なら【人化】せず小さい姿の方が邪魔にならずに済むって話だ。
毎度おなじみ快適快速エルル急行でほどほどの高さを『スターティア』の方面へ向かう。今回の目的地はその先だ。
……『スターティア』と言えば、あの時後を着けてきてた何者か達は諦めたのか、それともまだしつこく探しているのかどっちなんだろう。
『……お嬢、ルチル。ちょっと高度上げるぞ』
『え? うんいいけど』
『どうしましたー?』
文字通り余計な事を考えている間に、エルルが何か見つけたらしい。戦闘時に近い声をかけてきた。当然、こちらからは何も見えないので許可は出すが。
ぐんっ、と下に引っ張られるような力がかかって、十分遠かった地面が更に遠ざかる。その分遠くまで見通せるようになる訳だが、詳細はさっぱりわからないんだよなーこれがなー。
『……まずいな。二人とも、しばらくしっかり掴まってろよ!』
『『はーい!』』
まぁそれでも、エルルには何かが見えたらしい。そしてそれは緊急性が高いようだ。私は私で【風古代魔法】を使って自分とルチルを包む風のドームを作り、ルチルは短く歌ってエルルに速さ系のバフをかける。
直後、さっき高度を上げた時以上の力がかかった。うーん風は防御してこれだから、重力も加算してほぼトップスピードではなかろうか? それだけ緊急性が高いって事なんだろうけど。
『えーとエルル、急いでるとこ悪いけど説明とか』
『渡鯨族が何か巨大な相手と戦ってる』
『おーけー理解した。参戦だね了解』
成程それは緊急事態だ。……イベント最終日だし、『スターティア』から行くのに無理のない範囲(気軽に行ける訳ではない)だし、魔物プレイヤーも道中に加わっただろうから、何かイベント成立したか?
とか思っている間にぐんぐん景色が変わっていく。しばらくすると私にも見えるようになってきた。遠くの海、海岸からそれなりに離れた場所に……うん。何かいる。
かなり暴れているようで、大分高い波が起こっているようだ。その何かを何隻もの船が取り囲むように展開していて、その船の周りにも何かいるらしい。……もしかして、あの船とその周囲が例の渡鯨族だろうか?
『あ、これ間に合わせるにはちょっと乱暴にいくしかないな』
『間に合わない方が致命的だからやっちゃえエルル』
『バフ積みますねー!』
その、最初は小さく見えた船が恐らく5階建てぐらいはある豪華客船のような大きさだと分かったのは、その甲板で動いている色の点がヒトだという事に気付いてからだ。
そこから考えると、その巨大な……なんだろう、アサリまみれの蛸……? いや、イソギンチャクをびっしりくっつけたヤドカリ……? とりあえず何かこう、無数の殻と触手を持つ巨大な謎生物としか言いようのないそいつは、高さだけでその3倍ぐらいはあるだろう。
改めて考えるとでっかいなおい。15階建ての建物っていったら見上げると首が痛くなる高さだぞ。それが海で暴れてるとか、うーわ。
で。そんな相手にエルルはまず。
落下速度を上乗せた勢いをそのまま乗せて。
飛び蹴りからのサマーソルト尻尾攻撃を叩き込んで上空離脱後、ブレスで追撃した。
うん! 容赦ないな!
しかもエルルはあれだ、【人化】してる時は例の軍服だけど、ドラゴン姿の時は金属(たぶん竜合金)製の鎧になる専用装備で全身固めてて、爪も尻尾も破壊力が増してるんだよね。
つまりはまぁ、あれだ。エルルが一旦上空へ退避してホバリングに移った所でその3コンボが入った部分がどうなったかというと。
『蹴りで殻も触手も吹っ飛んだ上にざっくり切り傷かつ焼け爛れてると。ナイス痛撃!』
『まぁ掛けて貰った強化に加えて不意打ち補正もあっただろうけどな。しかしデカいなおい』
『どういたしましてー! でもエルルさんでも知らない相手ですかー?』
気のせいか船の方も混乱しているような動きを上空から見下ろす形で様子を見る。向こうから説明が来たらいいんだけど、流石にそれは無理かなぁ。
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