第54話 7枚目:初めての外
そしてえーと、イベント10日目。
「キュ!(太陽だ!)」
【無古代魔法】の中に応急修理できる魔法があるらしく、それでとりあえずの身なりを……というか、装備の修理をして、一応ボロッボロ状態を脱したエルル。ドラゴン姿の時はフルプレートな鎧に変わるその装備の胸元に入り込んで、私は、ゲーム世界で初めて直接浴びる日光に、歓声を上げた。
上昇方向から滞空する方向へとエルルが態勢を変えたのに合わせて周囲を見る。空は青い。太陽は1つ。足元の大きな亀裂が深い深い谷だろう。それ以外は……ジャングルかな?
『妖精族は大概、深い深い森の中に集まるからなー。上から探すにはコツがいる』
「キュ?(コツ?)」
グルル、と唸っているような【魔物言語】でエルルが説明してくれた。同じくぐるりと、上空から広大な森を睥睨する、白い鱗に黒い金属鎧をまとった、金の眼の大きなドラゴン。格好いいんだよなー! もー!
……うん。どこのラスボスかなとか言わない。確かに元難易度詐欺ダンジョンのボスだけども、戦いの夢に囚われたシリアスで哀しい兵士はもういない。ここにいるのは焦げドラことエルルリージェ、愉快な兄ちゃんだ。
実力に問題は無いんだ、気にするな! うん!
『一番大きいのは魔力の流れだ。魔力が多くてかつ安定した場所に集まるから、迷子になった仲間を集める為にもそういう場所を作ってる。まーもちろん偽装はしてるしダミーもあったりするからそこはもう慣れろとしか』
「キュー(慣れかー)」
『まぁなー。でもダミーには罠があるつっても、俺らだと大して痛くも無ければ効きもしないから、とりあえず適当に突っ込んで声かければ大丈夫だ』
「……キュ、キュ?(エルルの時代から結構時間経ってる気がするんだけど、ほんとに大丈夫?)」
『あー…………まぁ、そんときゃ諦めて、勝手に周りで探索するか』
んー潔い。流石軍人。もとい軍ドラゴン。
まぁエルルにしてみれば妖精族の悪戯、もとい抵抗なんて歯牙にもかけない程度みたいだしなぁ。何だろう、文字通り子供と大人? 私に来ても耐性スキル上げ美味しいやったね! にしかならないし。
そんな事を説明しつつ滞空して地上を見回していたエルル。やがて目星がついたのか、姿勢を変えて深い森の一角を目指して飛び始めた。
『んー……とりあえず、かなり時間が経ったらしいってのは否定できないか』
「キュ?(というと?)」
『今ちらっとだが、妖精族の姿が見えた』
「……キュゥ?(それって見えちゃダメなのでは?)」
『ダメだなぁ』
え、手乗りサイズの妖精がこんな上空から見える訳ないだろって? ……現実の猛禽系の視力舐めない方が良いぞ? 何なら調べてみると良い。「は?」ってなるから。
とりあえず、ゲーム的に相当な強い設定されている捕食者のドラゴンさんはそれだけのスペックを誇るという事だ。余程でないと隠れきれないし見つかったら逃げられない。どこの魔王かな? いいえ、通常モンスターです。
まぁそんな訳で妖精族を見つけたエルル。威圧するつもりはないようで、のんびりとした速度でそちらへ飛んでいく。……この大きさと武装で既に怖いって? うん。そうだね。
「キュー?(身を隠す系の警戒心も薄れてるって理解でおっけー?)」
『いいと思う。……流石に嫌だぞ? 俺。お嬢が実質最後の真なる竜の血族とか』
「キュッ。……キュ、キュー(どういう意味なの。……まぁそれは置いといて、確かに私も困る)」
最後の皇族の中身が異世界の異種族。……あー、それはすごく嫌だ。頼むから現地の皇族さん生きててくれ。それはそれでいろいろ面倒な事になる気がするけど、いないよりかはマシ。たぶん。
そんな事を話しつつもエルルは高度を下げ、妖精が見えた辺りに、器用に木を避けて着地した。うーん、実に深い森だ。おや? 足元に見慣れた草がいっぱい生えてるぞ?
『あぁ、魔力が多い所にしか生えない薬草の類な。そのまま食べられるし効能も高めだしで結構希少だった筈なんだが……』
「キュ?(ふつーに生えまくってるね?)」
『妖精族は使っても量があれだし、そのせいかもな』
妖精族は魔力が多く、かつ安定した所を好む。安定させるのは別として、土地自体に魔力の量が多い場所なのは前提条件として妥当か。
しっかし、うっかり者の妖精ねぇ。…………エルルの感覚が戦国過ぎるような気が、実はちょっとするんだよな。まぁ今は指摘しないけど。
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