第48話 7枚目:ダンジョンボス戦
『あぁくそ、何なんだ、というか此処は戦場のど真ん中だぞ、何でこんなチビっ子がほいほいと入ってこれるんだ……』
「キュ?(はなして?)」
『離したらまた何かかじりに行くだろうっ!?』
「キュー(やーん)」
結局、そこからうっかり私を離しては、私が何かをかじり、慌てて首根っこを掴み、という事を繰り返した焦げドラ。したぱたと手足を動かすが、口先でぷらーんとぶら下げられている現在何もできない。
器用に唸り声で喋っている焦げドラだが、どうやら空気的に頭を抱えてしまっているらしい。……まぁ、そりゃそうか。今までの発言からして、焦げドラの認識的にこの場所は戦場、それも侵略戦争真っ最中のど真ん中だ。
そんな中に、ようやく立って歩けるようになりました、みたいなチビっ子がいれば、ねぇ?
「キュー?(はなしてー?)」
『ダ・メ・だっ!! あぁもう、ほんと親はどこで何やってんだ……!』
「キュ(しらなーい)」
たぶん、まともなヒトもとい竜だったんだろうなぁ。ただ、ダンジョンの名前が【屍竜の戦夢】って事は、うん。良くてアンデッドなんだよな、焦げドラ。下手すれば本人が夢。クリアしたら消えちゃう系だ。
もったいないなーと思いながらチビっ子演技を継続していると、『うがぁあああ……!!』みたいな唸り声を上げる焦げドラ。完全に迷子の自覚が無い迷子を見つけちゃって途方に暮れてる兵士さんだ。
今更シリアスに戻せないしどうするかな。というか、この見た目でシリアスやるのは無理があるよなーとか思いつつ口先で首根っこくわえられてぷらぷらされていると、ふと焦げドラの唸り声が止まった。
『……ん? 待てよ、ちょっと待て?』
「キュ?(なに?)」
『いや違う。話しかけたんじゃない。いやそれでもいいのか。えーとだな。一回下すぞ。下ろすけど、じっとしてろよ? いいな? どっか行くなよ?』
「キュー(えー)」
『えーじゃない。いいから、じっとしてろよ』
えぇぇまさかそんな嘘だろ? みたいな声と共に念を押してくる焦げドラ。このまま走ってでかい剣にかじりついてやろうかとも思ったが、とりあえず大人しくしておく。
壊れ物を扱うようにそっと地面に下ろされると、とりあえず焦げドラを見上げてみた。焦げ焦げで全身斑に黒くなっているでっかいドラゴンは、数十秒ほどたっぷりと、じぃ、っと穴が開くほど私を眺めて
『……見間違えであってほしかった……っっ!!』
呻き声以外の何物でもない声と共に、ガン! と地面に自分の頭を叩きつけた。おう? 大丈夫? いや、大丈夫じゃないからそうなったんだな?
はて? と首を傾げて自分の身体(アバター)を見る。鱗は薄く、丸く、魚の鱗みたいに透明だ。そしてその内側に、毛足の短い銀色の毛が生えそろっている。目は自分では見れないが、以前の第1回イベントで【人化】した時のことを考えると、銀色なんじゃなかろうか。
銀色一色。割と好みだから文句は無い。もうちょっと虹色がかってたらさらに綺麗かなとは思うけど。属性の問題になるよなぁ。
『なんっっで……真なる竜の血族が……それもこんなチビが……戦場のど真ん中に……っっっ!!!』
「キュー(チビとはなにをー)」
『卵から孵って1年経ってないだろが!』
チビっ子演技で反論すると、地面に半分埋まってるんじゃないかというほど深く下げていた頭をガバッと上げて言い返してくる焦げドラ。ほほう、それはそれとして良い事を聞きました。
真なる竜の血族、というのは、やっぱり【真・竜の血脈】が関係しているのだろう。いやー、卵時代にスキルを進化させられて良かった。間に合わなかったら違う色になってた可能性があるからな。
そしてどうやら、少なくとも貴族扱いされるようだ。ふふふ、つまり、リアルお姫様だな。「第一候補」の直属で国の運営実務を取り仕切るとかいう意味ではなく。
『……あれ? そうだよな。真なる竜の血族だよな? こんなチビがいれば、戦争を中止してでも祝う筈だよな? 見間違い……じゃないな、うん。水晶の鱗と銀の内毛だし。あれ?』
「キュ?(どしたの?)」
『いやだから何でお前がこんなとこに居るかって話、だ……』
……おや? 焦げドラの様子が……?
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