第47話 7枚目:ダンジョンボス
濃い霧で出来た壁は、たぶん2mぐらいあっただろうか。真っ白な中で真っすぐ歩いているかどうかの自信が無くなって来たところで、また唐突に視界は晴れた。
霧の壁を抜けた先に広がっていたのはまさしく戦場跡。鎧をまとった竜がそこかしこに倒れ、巨人が使うような巨大な剣が半ばで折れて地面に突き刺さり、辺り一面に焦げ臭いにおいが漂っている。
そしてその一番奥に、恐らく、あのセーフエリアになっていたドラゴンの骨と同程度に大きな影があった。イベントに入ったのか、自分の身体が勝手に歩みを進めるのに合わせて、その影がもぞりと動く。
『……性懲りもなく、また来たか』
鎌首をもたげ、前足を踏み出し、翼を広げるのは巨大なドラゴン。色は、多分元は白か黄だったような感じがするが、返り血か焦げ付きかで大半が黒くなってしまっている。
ドラゴンにしてはシルエットに違和感があるような……とよく見ると、翼にまで鎧らしい装備を着けていた。つまり、ドラゴン版フルプレートに近い。それでさっきから身動きで金属音がするんだな。
ぐっ、と背を伸ばすようにした推定ボスは、イベント扱いが終わったらしく足を止めた私の前で、カッ! と金色の目を開き、
『何度でも、何度でも! 返り討ちにしてや──』
戦意と殺意の滾る咆哮を響かせ……
『──る、ぞ……?』
……途中で、勢いがフェードアウトした。
『しん、にゅうしゃ……? は? え?』
うーん大混乱だな。……まぁ、そりゃそうか。相手がドラゴンだったのかそれ以外の種族だったのかは分からないが、少なくともあの乱戦を「真っ当に」潜り抜けてくる相手を想定していたのだろうから。
で、少なくとも大人の人間種族、あるいはパーティ、もしくは自分に匹敵するドラゴンを想定していたら……そこにいるのは、チビっこくへにょっとした、卵から孵って間もないようなチビ幼ドラゴン。
893の団体さんを想定していたら2歳児がよてよて歩いてきた、みたいな感じだろうか。……うん。大混乱だ! 中身は見た目では分からないからな!
『…………侵入者?』
「キュッ!(こんにちは!)」
『うん???』
張っていた胸を引っ込めて、ぐぐぐっと顔を寄せてくるダンジョンボスのドラゴン。元気にお返事したら更に混乱が加速したらしい。まぁ加速するのを分かっていてわざと元気にお返事したんだけど。
最初の威厳や戦意や緊張感や殺意が丸ごと何処かへ行ってしまうほど混乱しているダンジョンボスのドラゴン……というには色々足りないから、焦げドラでいいか。焦げドラをさておいて、きょろきょろと周囲を見回す。あのでっかい剣とか食べたらどんなスキルが入るかな。
それより鎧が優先か。防御を上げるのは大事だ。もしかしたら耐性スキルがレベルアップするかもしれない。
『しん、にゅう? いやだが、子供……? 何故だ? いや、というかおま、いや違う、君、親はどこだ。そうだ、親は何をやっているんだ!?』
「キュ(しらなーい)」
『知らない!? オイどこ行った親ぁ!!』
愉快な勘違いを始めたらしい焦げドラ。親、いないんだよなぁ。何せ他所の世界からの召喚者なもんで。そもそも行動半径の中で生きたドラゴンを見たことが無い。
手近な鎧の欠片らしい金属の塊に近づいて【鑑定】してみる。へー、竜合金っていうんだ。ドラゴンも鍛冶ってするのか。まぁ【人化】すればいけるのかな。遺跡(仮称)もあった事だし。
という訳で実食。端っこをがじっと……がじっと、うっわ硬い。今の私で噛み切れないとかどんな強度だ。少なくとも外のドラゴンの骨よりずっと硬い。……まぁ、自分の身体より柔らかい鎧とか、実質意味無いけどさ。
『こらこらこら、それは食べ物じゃない! かじるな!』
「キュー(えー)」
『ダ・メ・だ! お腹が減ったのか!? ええと食べ物……くそ、無い!』
とか考えながらチャレンジしてたら、焦げドラに首根っこひっつかまれて剥がされた。親猫が子猫を運ぶときみたいな感じで。ぷらーん、とぶら下げられながら抗議するが、怒られる。……まぁ普通の感性してれば、ちっちゃい子が金属鎧かじったら怒るわな。
しかしおかしいなー。ここ【屍竜の戦夢】とかいう割と物騒な名前の、難易度詐欺な高難易度ダンジョンのボス部屋の筈なんだけどなー。何この、迷子の子供と子供慣れしてない兵士さんみたいなほのぼの空間。
おっかしいなー。どうしてこうなった?(棒読み
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