第224話 空中戦『トゥオネラの船』
にゃんこの軍が3つに分かれて森林の中へと進軍していく……。
この『ウルタール』の街を守るため、先手必勝というわけだ。
取り囲まれたら、防衛するのは厳しいからね。
「よし! じゃあ、オレたちも向かうか……。『トゥオネラ』へ!」
「イエス! マスター! ほら、デモ子。出番ですよ?」
「はいはぁーい。まったく、使い方が荒いのよね……。」
「あ? なにか言いまして?」
「いえいえいえ!! とんでもないです……」
「デモ子殿。よろしく頼む。」
「デモ子ちゃん。よろしくねー。」
「うむ。デモ子殿のその特殊魔法……、大いに頼りにしている。」
「まあ、貴重な魔法使い……だわな……。見た目は関係ない。」
アテナさん、ニーケさん、グラウコーピスさん、エリクトニオスさん……。
こんな化け物姿のデモ子にまで、敬意を払うその態度……、感服するなぁ。
「マスター! 正体不明の飛行物体が、『トゥオネラ』方向から南方向へ向かっているのを感知いたしました! 体長は約2m……、約0.4ドラゴンフィートの1体の生物と推定されます。」
「なんだって!? 南方向……ってどこへ向かっているんだ?」
「およそ時速40ドラゴンフィート(約時速200km)で、向かうその直線上の先には……、『チクシュルーブ・クレーター』、かの『ジュラシック・シティ』の跡地がありますね。おそらく、『ジュラシック・シティ』との連絡が途絶えたため、その調査に向かっているものかと推測されます。」
「なるほど。うーん……。どうしようか……。無視して、『トゥオネラ』に向かってもいいが……。」
「我が主! ここは我にお任せあれ。」
「おお! コタンコロ! そうか! 頼めるか?」
「もちろんでございます。小うるさい蛾ごときは、叩き落としてくれましょうぞ!」
「では、コタンコロはその生物に向かってくれ。アイ! それでいいな?」
「イエス! マスター! 賢明なるご判断でございますわ!」
コタンコロにまかせておけば安心だ。
よし。オレたちは『トゥオネラ』の街の向こう側の高台へ向かうぞ。
「では、開け! 『異界の穴』!!」
デモ子がその能力で、異空間のトンネルを開き、オレたちはそこをくぐり抜ける。
トンネルを越えるとそこは……。
『トゥオネラ』の街を見下ろせる高台に通じていた。
「ふむ。ジン殿。見ろ! あの街の中心にあるのが『トゥオネラ』のドームだ。そこは全ての死者が赴く地下の収容場所であり、死者は善悪を問わずそこへ行くのだ。『トゥオネラ』は都市の名であるが、真の意味は全てのものが永遠に眠る、暗く生命のない場所の意味である。」
「そうなんですか!? まるで冥府の国……、まさに伝え聞く『トゥオネラ』ですね。」
「ほお? ジン様はかの街をご存知で?」
グラウコーピスさんが聞いてきた。
たしか、トゥオネラとは《カレワラ》の中の黄泉の国のことで、オレは昔、クラシックでそのテーマの曲を聴いたことがあった。
それは、『トゥオネラの白鳥』といい、その意味は(原題、(フィンランド)Tuonelan joutsen)シベリウスの連作交響詩「レンミンカイネン組曲」の第2曲のことだ。
あと、たしか、その『トゥオネラの白鳥』を詠んだ歌人がいたっけな……。
すると、オレの頭の中にその歌の記憶がパッと思い出されたのだ。
「『トゥオネラの白鳥』を繰りかへし繰りかへし聴く、日輪は過ぎ、月輪は過ぎ……だったっけな?」
オレはその記憶を頼りに歌人・松平修文の歌を声に出してみた。
「な……!? そ、その呪文は!?」
「ジン様!? そのとてつもない叡智を秘めた呪文は……、なんという!?」
「まったく聞いたこともない呪文には違いない……。が、とてつもない魔力を秘めていることはわかる……。」
「まさか!? 優れたシャーマンだけが祖先の教えを請うために、トランス状態で地下にある真の『トゥオネラ』に行く事ができるという……。そうなのか!?」
「いや……。オレは特にそんなつもりは……。」
オレはそう言ったが、すぐ目の前にまばゆい光に包まれた船が浮かんでいたのだ。
「ジン殿! さすがだ! 『トゥオネラ』に行くためには、魂は『トゥオネラ』の暗い川を渡らなければならなかったが、正統な理由があれば、魂を運ぶ船が来るという。今さきほどの呪文は、この船を呼ぶための呪文だったのか!」
「ジン様……。あなた様はどこまで深い叡智をお持ちなのだ……。」
アテナさんたちが驚きの表情を浮かべていた。
(マスター。どうやら、この『トゥオネラ』はかつてのマスターの世界の残滓を残していたようです。マスターの『トゥオネラ』に強く関連のある言葉に、反応したようです。街そのものに魔力が刻み込まれていた……と解釈いたします。)
(そうか……。今まで、この世界になかった『歌』をオレが口にしたから、化学反応……ではなく、魔力反応したってわけか!?)
(イエス! マスター! やはり、この世界はマスターの存在した世界と何らかの因果でリンクしていると推測されます。)
(うん。不思議な感覚だ。今やすっかり変わってしまったこの世界にも、たしかにオレのいた世界が時を経てつながっているんだね?)
(Exactly(そのとおりでございます)!)
「じゃあ、この光の船に乗って、『トゥオネラ』中心部に急ごう!」
「ええ。これで、まわりの川にいる死の白鳥たちを避けることができますね。」
アテナさんがニコリと微笑んだ。
「じゃあ、僕が一番に乗り込むよー!」
「イシカは最後に乗るゾ!」
「ホノリも最後なのだ!」
さすがはオレの下僕たちだ。
先頭と最後尾を瞬間に判断して分かれてくれる。
オレたちが光の船に乗り込むと、船は光の矢となって、『トゥオネラ』の中心地へ飛んでいった。
そのあとには、白鳥たちが街のあちこちに舞い乱れていたのだった。
****
『トゥオネラ』地下の空間に、サッカーでもできそうなくらいの広い空間があった。
そこに『不死国』の第五軍の将・ピグチェンがその軍団を整列させ、演説をしている。
「良いか? この『トゥオネラ』を発つと同時に一直線に『ウルタール』の街を攻め滅ぼすのだ! 儂らの侵攻を妨げるものなどおらぬ!」
「おおおおおおおおーーっ!!」
聴衆から歓声が湧き上がる。
「蹂躙だ! エルフどもに思い知らせてやれ! この世界の覇者が誰なのかを!!」
「おおおおおおおおーーーーっ!!」
さらなる歓声が巻き起こった。
その様子をじっと見ていた女性のエルフがいた。
「キップ! キヴタル! ヴァンマタル! 我が妹たちよ。よぉく見ておくのよ。あの方たち『不死国』の軍がこの『エルフ国』を蹂躙するさまを……。この『トゥオネラ』はその映えある栄光の第一歩となるのよ。」
「はい。ロヴィアタルお姉さま。」
「ロヴィアタル……。そうね。貴女の言うとおりだわ。お父様もお母様も『不死国』のいち員となってしまわれたのよ。従うほかないわ。」
「ああ……。可愛そうなお父様とお母様……。」
エルフの四人の娘はここ『トゥオネラ』の王トゥオニの娘たちであった。
「それに……。あの賢人が私達の味方なのよ。怖いものなんてないでしょう?」
トゥオニの娘達の中で、一番腹黒く、一番醜いとされる娘ロヴィアタルはそう言って姉妹たちにニヤリと不気味な微笑みをした。
『不死国』の第五軍・空軍、その軍勢が一斉に地下空間の開いた天井から飛び立ったのは、その直後のことであったー。
~続く~
引用:©松平修文『トゥオネラ』(ながらみ書房・2017年)
「トゥオネラの白鳥」を繰りかへし繰りかへし聴く 日輪は過ぎ、月輪は過ぎ
歌人・松平修文の『トゥオネラ』は第5歌集。2007(平成19)年から2016(平成28)年までの10年間の作品485首が収められている。
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あっちゅまん
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