第222話 空中戦『竜公ピグチェン』


 『トゥオネラ』の街ー。


 天地は宇宙卵より発生し,冥府トゥオネラ(Tuonela)の川には白鳥が泳いでいると民族詩カレワラは述べている。


 その『トゥオネラ』の街は『不死国』により攻め滅ぼされた。


 そして文字通り冥府の街となったその街に死の白鳥の群れが舞い、氾濫していた。




 それはこの街のかつての守護者、魔女レダの魔力によるものであった。


 魔女レダは死して蘇り地獄の王と化したトゥオニ王と、その妻トゥオネタル王妃に仕えるため、やはり同じく蘇ったのだ……。


 吸血鬼として……。




 「トゥオニ、トゥオネタル、魔女レダよ。我が『不死国』の軍門に下りし貴様らには、盛大に働いてもらおうではないか?」


 今や、『トゥオネラ』の実質的支配者となった『不死国』の空軍こと第五軍の長ピグチェン竜公が三人の元『トゥオネラ』の支配者たちに声をかけた。



 「ははぁ! 偉大なる吸血鬼の竜公爵ピグチェン閣下! 我がすべてを捧げましょう!」


 「夫君に完全に同意ですわ。」


 「……。従います……。」




 「魔女レダよ……。不服であるか? おまえは『法国』の出身であったな……。しかし、死から蘇りしはこのピグチェンの偉大なるチカラによってであることを忘れるな?」


 ピグチェンがそう言ってレダを睨む。


 「滅相もございません。私にはトゥオニ王に身命に誓って仕える御方でございます。その王が決めたこと……。不服などあろうはずがありません。」


 レダもまっすぐにピグチェンを見返しながら言う。




 「ふん……。まあよい。いずれにしても、その生命は我が連なりによるもの……。我が手中にあることをゆめゆめ忘れるでないぞ……。」


 「ピグチェン閣下。それより、この近隣に巣食っていたあのネズミどもと異形な猫どもを手なづけたのはお見事な采配でしたな。」


 そう発言をしたのは、トゥオニの娘ロヴィアタルであった。


 フィンランドにおける冥府の王トゥオニの娘達の中で、一番腹黒く、一番醜いとされる娘で、様々な邪悪の元凶とされている。


 そう、『不死国』の軍を『トゥオネラ』の街へと手引したのは、この娘ロヴィアタルであったのだ。




 「ふむ。ロヴィアタルか……。そなたもよくやったぞ。」


 「は。ありがたきお言葉。」


 「あのネズミに異形猫たちは、我が配下の随一の賢者が仕切ったのだ。のお? クロロック伯爵。」


 「ええ。まったくそのとおりです。かの霊山に眠っていたヤツを蘇らせたのは、まさに英断でございましたな?」


 「ふふふ……。それは彼の者の進言があったからだ。」


 そう言ってピグチェンが指差した方に立っていたのは暗き霧のような恐怖を身にまとった蛇人間であった。




 「おお!? そなたは……?」


 「我が名はハン。暗き者ハンである。『ダグラス=リーン』より参りし者。以後、お見知りおきを……。」


 「な……!? そなたが『ダイラス=リーン』の予言の神ハンか!? 『ハン・グレムリン』のリーダーであるな……。」


 「誠にそのとおりである。」


 「蛇神イグのご子息か……。すると……『海王国』は『不死国』に味方していただけると……?」


 「いや……。あくまでも利益に基づく共同戦線というところであるな。だが我がイグ派に属するものは味方であると考えて良いぞ?」


 「そうか……。だが、『海王国』のイグ派の方々が協力していただけるのは、大変に心強い。そして、こたびの目的地は……『ウルタール』である!!」


 「……猫の街ですな? 猫など蛇の獲物にしか過ぎない……というわけですな?」


 「がーっはっはっは! さすがハン殿。ユーモアも一流ですな。」




 竜公爵ピグチェンは、黒の大蛇で翼を持ち、家畜の血をすするという。


 皮膚が触れただけで死ぬという猛毒を帯びた硬い毛を持つ危険生物なので、ピグチェンが棲んでいる木ごと大きな布で囲い、逃げないようにして木に火をつけて退治しなければいけないと言われている。


 不死身の『不死国』の軍長の中でも特に危険視される軍長である。


 また、ピグチェンの率いる軍は『空の軍隊』であり、その機動力は『不死国』の中でも随一なのだ。




 「ふむ。竜公爵よ……。我が『ラグナグ王国』の偉大なる真祖王パイア陛下からも、失敗は許さないと言われている……。しかと心得よ?」


 そうピグチェンに言ったのは、王直下の近衛軍から派遣されたラーン=テゴスであった。


 ラーン=テゴスは、王直下の兵の中でも、特に複雑怪奇な姿をしていて、先がハサミ状の六本の足に丸い胴体、その上に丸い頭部があり三つの魚のような目、長い鼻がある。


 鰓を備え全身を覆う毛と思しきものは実は触手で先端に吸盤があり、そこから血を吸うのだ。




 「ラーン=テゴス殿……。この儂(わし)が今までに失敗したことがあったと……?」


 「いえいえ……! とんでもない! 俺は真祖王のお言葉をそのままお伝えしたまで……。」


 「ふん……。まあ良いだろう。真祖王にはこう伝えよ……。任されよ……とな?」


 「承知した。まあ、百に一つも心配はないであろうがな……。だが、あのエリザベート嬢配下の青ひげ男爵が名もなき冒険者ふぜいに敗れ去ったと聞き及んでおるのでな……。」


 「青ひげ……か……。ヤツは所せんはひよっこよ……。それにエリザベート嬢といえば……。『ウシュマル』で勝利を収めたと聞いておるぞ?」


 「これはこれは! お耳が早いことで……。そう。西の『ウシュマル』を完全に手中に収めたと報告が来ておりますな。」


 「であれば、この『トゥオネラ』と『ウシュマル』で『ウルタール』の街を挟撃すれば、ミュルミドネス(蟻戦士族)の這い出る所も無いであろうて……。」


 「恐れながら竜公爵閣下……。ミュルミドネス(蟻戦士族)の穴から堤も崩れる……と、なりませぬように、決して注意を怠りまするな……。」


 「ええーい! わかっておるわ!」






 「そういえば……、プルーハとペナンガランの女吸血鬼どもはどうした?」


 「は! ピグチェン閣下。それが……、『ジュラシック・シティ』に派遣されているはずですが……。」


 「どうした? クロロック伯爵。」


 「はあ……、それが『ジュラシック・シティ』とまったく連絡がつかなくなりました……。」




 「なんだと!? あの街はかの『暴君ティラノ』陛下が支配しているはず……。かの暴君を味方に引き入れるのには苦労したんだぞ? まさか、離反したというのか!?」


 「まったく詳細がわかりません……。」


 「むぅ……。『這い寄る吸血蛾 』モスマンよ! 調査に向かえ!」


 「わっかりましたぁー! まっかせておくんなせぃ!」


 「なんだか調子狂うなぁ……。おまえ……。」


 「うえっへっへ! あっしにかかれば『ジュラシック・シティ』までひとっ飛びでさぁ!」


 「まあ……。まかせる……。」




 そう言って体長は約2mほどの腕はなく、背中に大きな翼を持つモスマンは、ネズミやコウモリに似た「キィキィ」という鳴き声を発して、その翼をはばたかせる事なく、自動車よりも速く飛行して行ったのだ。


 見てたものの多くは、モスマンを一瞬しか見ておらず、モスマンの顔はあまり詳細まで覚えてはいないが、目がギラギラと赤く輝き、目と目の間隔が大きく開いていることだけは、覚えていた……。




 「その『ジュラシック・シティ』の件は気にかかるが……、今は目下のところ、『ウルタール』の街が標的である。皆のもの! あの街の猫どもを大いに蹂躙し、その血を啜ろうではないか!」


 ピグチェン竜公がみなに声をかけると、一同大いに歓声をあげ、士気を高めるのであった……。



~続く~



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あっちゅまん



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