第221話 空中戦『戦に備えて』
「つまり……だ。『不死国』の空軍・第五軍ピグチェン竜公が現在、駐屯しているのは『トゥオネラ』の街。この『ウルタール』まで北に約200ラケシスマイル(約300km)、東へ約400ラケシスマイル(約600km)の距離ということじゃ。じゃが、やつらは空を飛べる種族で固められた軍……、直線距離で飛行してくるじゃろうて……。」
にゃんどるふ将軍がそう分析する。
「直線距離だとどれくらいの距離なんだ?」
アテナさんの従者・梟の騎士グラウコーピスさんが尋ねた。
「え……!? えぇ~……っと……?」
にゃんどるふ将軍は授業中に急に当てられておどおどする生徒のように、挙動不審になった。
まさか……?
わからないのか?
いや、そりゃ、オレもそんなに勉強ができたほうじゃあないけど。
北に200ラケシスマイル、東に400ラケシスマイルだろう?
ほら!? あれだよ。
直角三角形の三辺の比が……ってやつだ。
さすがのオレも知っている。
たしか……。aの2乗+bの2乗=cの2乗……だったな。
つまり、√200000だから、えーっと……。
くぅ~……!!
電卓がほしいところだな……。
(マスター。√20万=447.2135955……ですわ。)
(さすが、アイだな。そうか。アイは超人工知能だったわ。電卓いらずだな……。)
(いえ。マスターはすでに答えにたどり着いていなさったわ。さすがなのはマスターのほうです!)
(あ……、あはは……。)
「にゃんどるふ将軍。約447ラケシスマイルですよ。」
オレが計算結果を伝えてあげると、にゃんどるふ将軍はしゃきっと背筋を伸ばしてこう言った。
「そうにゃ! まさにそれを今、言おうとしていたにゃ!」
ま……、なんでもいいけど、話を進めようね。
「ほお? なぜわかったのだ? この『ウルタール』から『トゥオネラ』の街まで直線では行くことは能わず……。なにか魔法でも?」
神官アタル様がオレに聞いてきた。
「いや……。簡単な計算で……。」
オレは答える。
「計算……だと!? そ……そんなことが? そなたは、すごい知恵者なのだな? ジン殿……。」
「いえいえ……。そんな、それほどでも……。」
「そのとおりです! マスターの知恵はとてつもなく素晴らしいものでございますわ!」
「そうだよー! ジン様は古代の叡智を知り尽くしているんだよー。」
「そうだそうだ。ジン様はイシカの創造主であるゾ!?」
「うんうん! ジン様はホノリをゼロから生み出したのだ!」
「うむ。我がご主人さまの知恵は計り知れない……のである。」
アイ、ヒルコ、イシカにホノリ、コタンコロまでが褒め称える……。
やめてくれぇ~。
恥ずかしい。
「やはり……。ジン殿の知恵は並の魔法使いをはるかに凌駕しているな……。」
「ああ。アテナ殿。オレたちも今までその知恵に幾度となく救われた……。彼は……ひょっとしたら勇者をも凌ぐやもしれないな……。」
ああ……。
アテナさんやヘルシングさんまで……。
これくらいのことはオレのいた時代では、中学3年でみんな習うんだよなぁ……。
「ふふふ……。ジンさんはやはり底が知れませんねぇ……。」
「まったくですねぇ……。やっぱ、あーたもそう思う?」
「な……! あなた! いつの間に!? ……き……、キモっ!!」
「そんなぁ~! 同じ『異界の穴』使いじゃあないですかぁ!」
「い……、一緒にしないでくれる!?」
サルガタナスさんとデモ子、意外と気が合うのかもしれないなぁ……。
「にゃんどるふ! ところで、その『竜公ピグチェン』らが直線で攻めてくるとにゃると、急ぎ防衛体制を固めにゃいといけないのにゃ?」
「うむ。タマコよ。そのとおりにゃ! それに、近隣のハセグやニルの村が心配にゃ!」
そんな話をしているところ……。
バァーーーンッ!!
大きな音がして扉が勢いよく開いた。
「ご報告致します! ハセグの村、ニルの村がズーグ族、土星猫・サターンキャットどもに襲撃されたとの報せが入りました!」
報告をしてきたのは、うさぎのような猫のような、兎猫キャビットだった。
キャビットは、スコットランドで猫とうさぎの間に生まれるとされた未確認生物、多数の目撃情報があったが多くはマンクスやホプテイルキャットなどの見間違いだったらしい……。
まさか、ここでは実在しているとはね……。
「にゃんと!? ハセグやニルの村が!?」
「くぅ!! ズーグ族にサターンキャットのヤツらめ!」
「ハセグやニルの村が襲われたとなると、やはりヤツらもこの『ウルタール』を狙ってきておるな!?」
「おそらく……『ハン・グレムリン』どももこっちを目指してきおるだろうなぁ……。」
「一気に来られると守りきれないぞ!?」
サボテン猫カクタスキャット、魔女の飼い猫グリマルキン、怪物猫タッツェヴルム、山神の使い猫コア、山猫霊ルシフィーたちが騒ぎ出した。
「ご安心ください! 空から攻めてくる『不死国』の連中は、マスターとワタクシたちが片付けて差し上げます! あなた方は地上を這い寄る者どもをお相手してくださいませ!」
アイが声高らかに進言した。
……つか、ええええええええっ!?
空の軍をオレたちだけで相手するの?
「聞いてないよぉーーっ!」
オレはオレのいた時代の芸人さんのギャグじゃあないけど、思わす声を出してしまった……。
「ジン殿! 卿らの実力はもちろん知っている。いくら『不死国』のピグチェン竜公といえど問題ないのであろう……。しかしながら、私も微力ながら助勢いたそうぞ!」
アテナさんがそう言ってくれたので、オレはもちろん二つ返事で了承する。
「ちっ……。でしゃばりオンナが……(ぼそり)」
「ん!? アイ? なにか言った?」
「いえ。なにも?」
「そ……、そうか……。」
「ジン殿……。アテナ殿……。本当にかたじけない……。では、地上のズーグ族、サターンキャットどもは我々『ウルタール』の猫軍が死力を尽くして相手しましょうぞ!」
神官アタル様がそう言うのだ。
猫たちは大いに士気を高めた。
「ふむ。もちろん、妾たち『地底国』の者も参戦しようぞ? なあ? 我が愛息マヘルよ。」
「もちろんですよ。母上。」
「余……こほん、我もチカラを貸すぞ?」
バースト女神猫にその息子さんのマヘルさんのもとに、偉大なる猫マウアーが声をかけた。
なんだかマウアーさんのほうが偉そうな気がするけど、気のせいか……。
「それに……。世界中の猫の民たちがすぐに駆けつけてくれるだろう。妾が報せを出しておいた。」
「ええ!? バースト様! いつの間に!?」
「うむ。ここに向かってる道中でにゃ……。猫の集合呪文『ねこふんじゃった』を使ったのにゃ!」
「ならば……心強い……。いっとき、時間を稼げば、いずれ、あの方たちが来てくれよう……。」
「ふむ。闇のデーモン使いのあの方や、あの元Sランク冒険者パーティーの猫獣人、それに気ままな風来坊の御付きの方か……?」
「間違いないにゃ!」
あの方たち……。
いったい誰なのかはわからないが、味方が増えるのはありがたい。
「じゃあ、私たちはまた……、北の地で監視と防衛に当たらせてもらうわね?」
「ああ。サルガタナスさん。よろしく頼みます。」
「ふむ。では、オレたち『ヴァンパイア・ハンターズ』は、遊軍として動こう。まあ、まずは、そのズーグ族、土星猫たちをなんとかしなきゃだがな……。」
ヘルシングさんが全体の守備に目を光らせてくれるのは、絶対的な安心感があるな。
防衛の体制は決まったようだ。
決戦の時は……近いな。
~続く~
©ねこふんじゃった:丘灯至夫(おかとしお)作詞「ねこふんじゃった」、曲/外国曲
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あっちゅまん
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