第176話 吸血鬼殲滅戦・離『人ごろし城の花嫁たち』


 『人ごろし城』の上階へ上る階段の途中も、吸血鬼たちが襲ってきた。


 だが、オレやヘルシングさんが対処しようとする前に、アイの『シャドウアーム』がその吸血鬼たちの心臓を一瞬で握りつぶしていくのだった。


 雑魚の魔力の抵抗のない吸血鬼だと、超ナノテクマシンの侵入に対する抵抗もなく、あっさりと倒されてしまう。


 んん……。つか、最初から、アイ先生が本気になってたら瞬殺だったんじゃあねえの?




 「また部屋があるな! 気をつけよう!」


 「はい! ヘルシングさん!」


 オレたちの目の前にでかい鋼鉄製の重そうな扉がある。


 これは開けるのにチカラがいるぞ……。




 ギィイイイイイーーー……



 アイがその手で扉を押して、いとも軽々と簡単に扉を開けた。


 「あら? マスター。いかがしましたか?」


 「あ……、あぁ……。なんでもないよ。」



 なんだよ。まったく心配なかったな。




 「ジン殿……。奥になにかいるぞ!?」


 ヘルシングさんがさっそく注意喚起してくれる。



 扉の中は少し大きめの部屋になっており、絢爛豪華な装飾で彩られていた。


 奥にドレスを着た鳥の顔をした女性が立っている。


 その手にはブーケをした花嫁の生首を抱えていた。


 そして、その隣にツギハギだらけの巨大な筋肉ムキムキの大女が仁王立ちしている。




 「あら? 姉さん……。お客様がいらしてよ?」


 生首の花嫁が答える。


 「ほんとねぇ。呼ばれもしないのに訪ねてくるだなんて、下等種族はこれだから始末におえないわね。」


 「ちい姉さん……。あのコソ泥たちをやっておしまい!」



 ちい姉さんと声をかけられたツギハギだらけの筋肉ムキムキの巨人の女が唸り声をあげる。


 「ゔゔゔぅ……! いもゔどよ! ま……、まがぜなさいいぃいいいい!」




 ちょ……、ちい姉さんって、デカ姉さんだろ!


 あちこち縫い合わせたような巨大筋肉だるまのような巨人の女性が、これまたでかい棍棒を持ってオレたちの前に立ちふさがった。


 これは怪力で攻撃してくるタイプだろうな。




 ちい姉さんが巨大な棍棒を振り回してきた。


 オレたちはその場から移動し、それをかわした。


 だが、地面に激突した棍棒が、地面をえぐり取り、その破片が周囲に散弾銃のように撒き散らされたのだ。



 「くっ! サイコ・ガードだ!」


 オレとアイはオレたちのまわりに超ナノテクマシンの防御壁を張り、飛んできた破片を防いだ。




 すると生首だけの花嫁が呪文を唱えだした。


 「眠れ! 眠れ! レベル3眠りの魔法『アーユースリーピング』!!」


 『Are you sleeping? Are you sleeping? Brother John, Brother John, Morning bell are ringing, Morning bell are ringing, Ding ding dong, Ding ding dong!!』



 その呪文を聞いた途端、急激な眠りが一瞬、襲いかかってきた。


 やばい! 精神に影響する魔法か!




 (マスター! ご安心を! 医療ナノテクマシンよ! 覚醒ホルモン剤をマスターの体内に放出しなさい!)


 (お……、おぅ……。目がしゃっきり冴えてきた。……しかし、覚醒ホルモン剤って危ない薬じゃあないだろうな?)


 (マスター! 大丈夫です! ここは治外法権です!)


 (え……!? いやいや! それって危険ドラッグって言ってるようなもんですけどぉーーー!!)


 (気つけ薬のようなものとお考えください! 安全な薬ですよ!)


 (ほんとかなぁ……。)




 とりあえず、敵の眠りの呪文に抵抗は出来たようだ。


 ヘルシングさんは大丈夫なのか?


 と、横を見たが、ヘルシングさんはいち早く自身に結界封印の魔法をかけていたようだ。


 『かごめかごめ  「カゴ・メー カゴ・メー」 (誰が守る)かごの中の鳥は 「カグ・ノェ・ナカノ・トリー」(硬く安置された物を取り出せ)いついつでやる 「イツィ・イツィ・ディ・ユゥー」(契約の箱に納められた)夜明けの晩に 「ヤー・アカ・バユティー」(神譜を取り、代わるお守りを作った)鶴と亀がすべった 「ツル・カメ・スーベシダ」(未開の地に水を沢山引いて)後ろの正面だ~れ 「ウシラツ・ショーメン・ダラー」(水を貯め、その地を統治せよ!)』


 ヘルシングさんの身体がなんとなく輝いて見える。


 剣技を主に攻撃手段で使うヘルシングさんの魔法防御といったところか。


 以前に唱えたときより、効果範囲を自身に限定することで、魔力消費を抑えているのだろう。




 「ちっ! 姉さんの眠りの呪文が効かないなんて!」


 「フィッチャー! あなたも戦いに参加しなさい!」


 「姉さん! そうね。じゃあ、姉さんはちい姉さんに任せるわ!」


 そう言って、生首の花嫁を巨人の筋肉女に投げたかと思うと、その生首が巨人女の肩のところにピタリと吸い付くように一体化したのだ。




 「行くわよ!? ツギハギの妹よ!」


 「ゔゔゔぅ……! ねえぢゃんんんんーーー! わがっだぁあああ!」


 二人が一体となって再び構えてきた。



 つーか、ちい姉さんだったっけ?


 名前、ないのかよ!


 まあ、三人姉妹ってどこも似てねえけどな!




 生首の花嫁がまた呪文を唱える。


 『青葉茂れる桜井の里のわたりの夕まぐれ、木(こ)の下陰に駒とめて、世の行く末をつくづくと、忍ぶ鎧(よろい)の袖の上(え)に、散るは涙かはた露か!』



 すると、周囲の地面から草のつるが伸びてきて、オレたちに絡んできて動きを封じようとしてくる。


 「マスター! レベル2の植物魔法『青葉茂れる桜井の』です! この呪文自体は大したことはありませんが、あの巨人女の攻撃が合わさるとやっかいです!」


 「たしかに! ……って、おっと!」



 言ってるそばから、巨人女の棍棒がオレのすぐ近くの空を切る。


 間一髪、かわして、後方に下がる。




 一撃当たればそうとうなダメージをもらいそうだ。


 とてつもない膂力を持っていると見える。


 この城全体が、ヤツが攻撃するたびに振動している。




 「火炎放射ぁああっ!!」


 再び、オレは周囲の超ナノテクマシンに命じて、炎を出して、生首の花嫁の呪文の草木を焼き払った。




 そして、そっちに気を取られていたところに、鳥人フィッチャーが、その背中の羽根を大きく羽ばたかせた。


 『ダンカングレイ! カムヒアトゥ・ウー! ハ! ハ! ザ・ウーインゴット!』


 すると、羽根がすべてナイフのように武器に変わり、雨あられのように飛んできたのだ。




 「サイコ・ガード!」


 こちらもガードを入れ、それを防御する。


 が、そのスキを見計らったかのように、ツギハギのちい姉さんが棍棒で攻撃してくる。




 思わず後方へ飛んで逃げる。


 ヘルシングさんも羽根のナイフを叩き落とすので精一杯のようだ。


 なかなか連携が取れた敵だな。


 三姉妹……というだけはあるな。


 まったく似ていないが。




 「アイ! なにかいい手はないか!?」


 「超光熱で一瞬で殲滅するという方法がありますが……。マスターの助けが必要です!」


 「なんだ!? やるしかないだろ!」


 「それと、あの鳥娘はフリーになってしまいます! あの鳥娘をなんとか封じられれば可能でございます!」


 「なるほど! アイ殿! では、あの鳥女はオレに任せろ!」


 「ヘルシングさん! あの鳥娘は、まだ何か奥の手を隠しています。お気をつけください!」


 「はっはっは! 望むところだ! 燃えてくる展開……嫌いじゃあないぜ!」




 こうして、オレたちはいまいちど、フィッチャー三姉妹に対峙し直すのであった。




~続く~


©「アーユースリーピング」(曲/フランス民謡 詞/作詞者不詳)

©「かごめかごめ」(曲/わらべ歌 詞/わらべ歌/ヘブライ語)

©「青葉茂れる桜井の」(曲/奥山朝恭 詞/落合直文)





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る