吸血鬼殲滅戦・波
第166話 吸血鬼殲滅戦・波『妖精軍参戦』
『世界樹共和国』、通称『エルフ国』はその支配領域のすべてを森林とする君主が存在しない国家(共和制の国家)である。
複数の妖精種族がそれぞれ、代表者である長老をたてて、その長老たちの合議で国家として成り立っている。
その長老たちのことを『ユグドラシルの十長老』と呼ぶ。
多数派の種族から選ばれし十人の長老たちが、それぞれの森を統治しているのだ。
主だった種族は、ノヴァステカ種族、ネオマヤ種族、ニュースオミ種族、シンインカ種族、ノイポリ種族、ネイチャメリカ種族、白エルフ種族、海エルフ種族などである。
他にも少数種族のディノエルフ種族や、レッドキャップ種族、黒エルフ種族、アマゾネス種族など数多の種がいる。
西方を『法国』と接し、北方はアプスー(淡水の海)、南方は死の平野からバビロン地方、『フウイヌム国(馬国)』となっていて、東方は迷いの森、エーギルの海がある。
北東部全域の暗闇の大森林、メメント森を隔てて、北東方向に死の火山があり、その麓に『ラグナグ王国』、通称『不死国』が存在する。
『法国』ともっとも近い国境を接したミュルクヴィズ(黒い森)は白エルフ種族が統治している。
白エルフ種のオベロンは、『法国』へ居所を移してもいる。
川を挟んだヤルンヴィド・鉄の森は、フェンリルの棲まう森として、白エルフ種、ネイチャメリカ種、ニュースオミ種の三種族で共同管理地となっており、死の平野に面したリンヌンラタ(天の川)沿いのヒーシ森の一部をネイチャメリカ種が、リンヌンラタ(天の川)とケルラウグ川の間のヒーシ森の大部分をニュースオミ種が、それぞれ統治している。
ケルラウグ川とケルムトとエルムト川が交わる交点に世界樹の名の示すユグドラシルという巨大な大樹がそびえ立っていて、その周囲の森をホッドミーミルの森と呼ぶ。
この大森林の中心地・ユグドラシル付近をノヴァステカ種が統治・管理していて、ヒーシ森からホッドミーミルの森へとかかる広い部分をネオマヤ種が、ホッドミーミルの森の南西部をシンインカ種が、ホッドミーミルの森の南東部から迷いの森付近までの地域をノイポリ種が統治している。
また、東方の海・エーギル海は海エルフ種の支配域である。
そして、北東部に広がるメメント森は少数種族や、未開の地となっていて『不死国』との国境の緩衝地帯となっていたのだ。
だが、今、その緩衝地帯のメメント森は『不死国』の支配域となってしまったのだ。
『ユグドラシルの十長老』たちは緊急動議を開き、対『不死国』戦へ『エルフ国』の国家として対処することを決めた。
そのうちオベロンとホルダの白エルフ種族は、『法国』との連携係を務めることとなり、実際に動くのはその他の種族の軍ということになった。
ネイチャメリカ種の長老タイオワは、『帝国』の動向を監視しつつ、フェンリル監視の務めにあたる。
この機に乗じて『帝国』が動いたり、またフェンリルの動きに異変があった場合に備えてのことだ。
ナナポーゾがまた悪さをしたりしないか危惧されたが、ネイチャメリカ種の誇りある善意の女神ハシェバードがいる限り、問題はないと判断された。
淡水の海アプスーに近いリンヌンラタ(天の川)上流にある『黄金都市エル・ドラード』では、ニュースオミ種の長老ウッコの指示により、魔術師ワイナミョイネン率いる『ワイナミョイネン軍』と、超魔戦士レンミンカイネン率いる『レンミンカイネン軍』の二軍が東方のケルラウグ川を越えて攻め込むために進軍を開始した。
ホッドミーミルの森南西部の街『マチュピチュ』からは、シンシンカ種の長老コニラヤ・ビラコチャの指示で、太陽神インティの率いる軍が派遣された。
ユグドラシル中央地域の街『天上都市オメヨカン』からは、最大規模の動員がかかり、ノヴァステカ種の長老オメテオトルの指示で、ケツァルコアトル軍、テスカポリトカ軍、シペ・トテック軍、ウィツィロポチトリ軍の四大隊が、長老トラロックの指示で、トナティウが軍を派兵した。
『黄金都市』を取り巻く森林ヒーシ森から、ユグドラシルの周囲の森ホッドミーミルの森にかけての広い地域を統治しているネオマヤ種からは、南方にある長老フラカンが住まう街『樹上都市トゥラン』からは、英雄フン・アプフーの第一軍と、奸雄ア・プチ率いる第二軍がそれぞれ北上する動きだ。
中央の街『チチェン・イッツァ』からは、聖なる泉のほとりの水の魔法使いククルカンが自ら軍を率いて参戦するとの知らせがあった。
また、『テオティワカン砦』からも、投槍器フクロウの異名を持つアトゥラトゥル・ミクトランテクートリが援軍に出ると報告があったのだ。
そして、海エルフ種のエーギル長老は連絡がつき次第、海から参戦するであろう。
最後に最も遠方の南東部の支配域を持つノイポリ種のカーネ・ミロハイ長老からは、軍ではないが、Sランク冒険者パーティーで半神の英雄タファキ率いる『大艦隊(Great Fleet』とAランク冒険者パーティーで超絶美形妖精のヒナ・イカ率いる『ヒナと使徒』が戦地へ駆けつけるという。
軍隊ではないにしても、機動力を持った超特大戦力というわけだ。
****
「ワイナミョイネン! レンミンカイネン! 貴公らの働きにこの国の存亡がかかっておる!」
『黄金都市』の都市長にして『ユグドラシルの十長老』であるウッコが雷の如き檄を飛ばした。
「ははぁ! このワイナミョイネンにお任せあれ。」
白く長いあご髭を持った老人が応える。
「さすがは、不滅の賢者ワイナミョイネンよ。頼もしき言葉じゃな?」
「このレンミンカイネンにかかれば、『不死国』の吸血鬼どもなど、すべて滅してくれましょうぞ!」
血気盛んな若者が応える。
「ふむ。武術も魔術も特級のお主に任せておけば安心であるのぉ?」
「こたびはレンミンカイネン! そちに我が『エルフ国』が誇るSランク冒険者パーティー『がんばれベアーズ』を預けよう。何かあれば森の中で最も崇拝すべき英雄カルフの言うことを菊が良い!」
「おお! カルフ様のお力添えが頂けるなら、『魔神に魔剣』でございますな!」
「うむ。では吉報を待っておるぞ!」
「「はっ!」」
****
「親愛なる我が息子たちよ! この戦は勝たねばならぬ! 心してかかれよ?」
世界樹ユグドラシルが天を衝くほどの高さでそびえ立っており、その樹の天の一番上にある『天上都市オメヨカン』では、音楽、歌、踊りが絶え間なく行われ、また綺麗な美しい鳥(極楽鳥など)が飛び、永久的な喜びの場所と言われているが、今だけは音楽も止まり緊張が包んでいた。
その静寂を破り、長老オメテオトルが声を発した。
男女の二面性を併せ持つその姿は量子論的な状態の重ね合わせで存在しているのだ。
「父上であり母上よ。心配めさるな。この俺様に任せておけば吸血鬼どもなど逆に血を搾り取ってくれるわぁっ!」
オメテオトルの長男、闇の魔術師ヤヤウキ・テスカトリポカが猛々しく吠えた。
「はい。父母よ。ご安心ください。」
オメテオトルの次男、妖精龍エエカトル=ケツァルコアトルが応えた。
「兄上たちの言うとおりですよ。父と母。我ら兄弟にお任せあれ!」
オメテオトルの三男、『皮を剥かれた我らが主』シペ・トテックが応えた。
「そうです。父上または母上よ。我ら兄弟に敵なしでございますよ!」
オメテオトルの四男、軍神ウィツィロポチトリが最後に応えた。
その四人の息子たちを眺めながら、オメテオトルは大きく頷き、宣言した。
「今より『ラグナグ王国』との全面戦争である! 行けぃ! 吸血鬼どもを根絶やしにせよ!」
「「おおぉっ!!」」
****
同じくノヴァステカ種のもうひとりの『ユグドラシルの長老』トラロックも『天上都市オメヨカン』近くの洞窟で、戦神トナティウを呼び出していた。
「トナティウよ。軍を率いて、敵国『不死国』に鉄槌を食らわせてやるのじゃ!」
「おおとも! トラロックのぉ。全開バリバリでいいんだな?」
「かまわぬ! 思い切りやってやれぃ!」
「くっくっく! ありがたい! では、軍の選抜は任せてもらってよいのだな?」
「一任しようぞ。」
「さすがはトラロック長老だ。あのオメテオトルのところの四兄弟どもより戦果をあげてきてやるぜ!」
「ふむ。それくらいが頼もしいわい。」
各地で、続々と戦争へ参加する軍隊が派兵されていくのであったー。
~続く~
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