第164話 吸血鬼殲滅戦・序『ククルカン』


 『チチェン・イッツァ』の街で休息を取ったオレたちは翌日、街の中心地に位置する『カスティージョ』と呼ばれるククルカンの神殿に出向いた。


 この街の統治者ククルカン・クグマッツに会うためだ。


 入り口の門番をしているリザードマンたちに出向いた用件を伝えると、奥から目が緑色に輝くジャガーの獣人の男が出てきた。


 よく見るとその目が翡翠で出来ている。



 「我はバラム。ククルカン様の配下の者だ。Sランク冒険者『ヴァンパイア・ハンターズ』のヘルシング殿。お初にお目にかかる。いざ、奥へ参られよ。」




 「ああ。よろしく頼む。バラム殿。」


 ヘルシングさんも挨拶をして、バラムさんについていく。


 オレたちも一緒に行こうとすると、リザードマンたちが持っている槍を目の前でクロスさせ、オレたちの行く手を遮った。



 「立ち入りを許されしはヘルシング殿だけである! 他のお連れの方々はここでお待ちいただこう!」


 そう言って、オレたちの侵入を遮ったのだ。




 「なんですって!?」


 アイがその言葉を聞き、前へ出ようとしたので、オレはそれを制した。



 「いや。アイ。報告するだけなんだ。オレたちはここで待てばいい。ヘルシングさん、お願いします。」


 「ん……? いや。バラム殿。ジン殿はこたびの危機の対処に非常に重要な助けとなろう人物だぞ? 通ってよいだろ?」


 「いえ。たとえ、ヘルシング殿の申すことでも、それは許可できませぬ!」


 「ああ、いいよ。オレはここで待ってますから……。」




 「何を騒いでるんだね?」


 そこへオレたちの後ろから、誰かが声をかけてきた。


 振り向くとそれはトキイロコンドルさんだった。


 そのお供に鷲の顔をした鋭い目をした者がいる。




 「トキイロコンドル様! いや、こいつらがぽっと出の冒険者のくせにククルカン様に拝謁しようなどと不届きなことを言うものですから、止めておったんですよ!」


 リザードマンの兵士たちが言う。



 「ん? おや? そちらはジン殿ではないですか!?」


 トキイロコンドルさんがオレに気がついたようだ。




 「トキイロコンドルさん! 正式にご報告もせず、失礼しております。」


 「いやいや。お付きのジロキチ殿やサルワタリ殿から聞いておりますゆえ。それにスチュパリデスとカラドリウスからも報告が上がっております。『爆裂コショウ』の群生地、取り戻してもらい、助かりました。お約束どおり、ジン殿には特別に卸しますゆえ、商売に励んでくださりますように。」


 「ああ。そう言えばそんなお約束して頂いたんでしたね。ありがとうございます。」


 「それにしても、ククルカン様の神殿でお会いするとは……。何かありましたか?」


 「いや、それがですね……。」




 「あ……、あの……、トキイロコンドル様……。こやつらとお知り合いで……?」


 「んんー? ああ、私の大切な『爆裂コショウ』の土地を不穏な輩から取り返してくれた信頼する冒険者パーティー『ルネサンス』の方々だが、何かあったのか?」


 「こ……、これは失礼しましたぁ! トキイロコンドル様懇意の方々とは知らず!」


 「も……、申し訳ございませーん!」


 「失礼しましたぁ! お通りくださいませ!」




 リザードマンの兵士たちもジャガーの戦士バラムも急に態度を変えた。


 さすがトキイロコンドルさん。


 この街ですごい影響力を持っているようだ。




 こうして、オレたちは全員がククルカンの王の間に通されたのだった。


 トキイロコンドルさんのお供の者はその鋭い目をちらりとオレに向けたが、すぐに体勢をぴんとして言った。


 「これはジン殿。私はトキイロコンドル様の護衛、クアウトリでございます! 以後、お見知りおきを!」


 「ああ。ジンと言います。クアウトリさん。よろしくね。」




 『チチェン・イッツァ』の統治者ククルカン・クグマッツ、その人は蛇の頭をしたスラリと背の高い男だった。


 その眼光は鋭く、心の中まで見通すかのようだ。



 「おもてをあげよ。ヘルシング殿。そして、ジン殿。トキイロコンドルも息災で何よりじゃ。」


 「「「はっ!」」」


 みんなが声を揃えて返事をし、顔を上げた。




 「して、ヘルシング殿。この街に危機が迫っているとのことだそうだが……?」


 「はい。吸血鬼どもの国『不死国』の魔の手が伸びてきております。『ジュラシック・シティ』はすでにヤツラの手に落ち、『ウシュマル』も危ういかと……。」


 「なんじゃと!?」



 ククルカンさんの顔色が変わった……。


 いや、正確にはヘビ顔なので、変わって見えないけど焦ったかのようには見える。




 「やはり……、イツァムナー様からの知らせは本当であったと言うことだな……。」


 ククルカンさんがつぶやいた。


 「ククルカン様! イツァムナー様からの伝令通り、我が『チチェン・イッツァ』も戦闘準備に入らねばなりませぬな!?」


 ククルカンさんの隣に立っていたやはりヘビ顔の鎧を着て王冠をかぶった戦士らしき人が声を発した。



 「うむ。クラウン・バジリスクよ。全兵の指揮はおまえに任せよう。トキイロコンドル殿……。支援をよろしく頼む。」


 「はい。もちろん、この街の危機のようですからな。手前どもも金を惜しんでいる場合ではありませんな。それと、ジン殿にも協力をお願いしたい。」


 トキイロコンドルさんも協力を承知したが、オレにも協力を仰いできた。




 「もちろんです! 今、オレの仲間が『ウシュマル』に調査に行ってます。『ウシュマル』の情勢はすぐにわかるでしょう。」


 「おお!? さすがは、ジン殿だな。動きが早いな。」


 「ほお? ジン殿をヘルシング殿やトキイロコンドル殿が推薦するのも納得であるな。ジン殿! 我からもよろしくお願いする。」


 ククルカンさんからもお願いされてしまった。


 断れないなぁ、これはもう……。




 「はい。わかりました。」


 まあ、オレももちろんここまで来て逃げるわけには行かないと覚悟はしている。



 「それと、これは極秘情報であるが、『法国』と『エルフ国』、あとひょっとすると『龍国』や『海王国』までもが、『不死国』に対して戦争を始めるようだ。」


 ククルカンさんが重要なことを打ち明けてくれた。




 「ほお!? 『エルフ国』と『法国』が動いているのか……! それは心強いな。『龍国』が動いたならば『不死国』へ挟撃ができるな……。」


 ヘルシングさんがここで戦況の見通しを述べた。



 「ククルカン様。『エルフ国』はどれくらいの戦力をこの地に動かしているのでしょう?」


 アイがここでククルカンさんに質問をした。



 「おお!? そなたは……? 非常に美しい……。天女か……?」


 ククルカンさんがアイに問いかける。




 (質問に質問で返すとは……。愚かな……。)


 アイの思念が伝わってきた。


 いや、アイさん……。頼むからそれ、口に出さないでね?



 「はい。ワタクシはアイと申します。ここにおられますマスター・ジン様の忠実なる下僕がひとつでございます。」


 「なるほど。ジン殿のパーティーのメンバーであるか。そうよの。我がネオマヤ種族は全軍、『トゥラン』からも正規軍が動くであろう。『黄金都市』や『ミタクエ・オヤシン』、『オメヨカン』はもちろん、『マチュピチュ』までも軍を差し向けると報告が上がってきている。」


 「なるほど。理解しましたわ。南方からと西方からの二面作戦……というわけですね?」


 アイがニコリとほほえみ答えた。




 「な……!? なぜ、その作戦を知っているのだ!?」


 クラウン・バジリスクが驚いて声を上げた。



 「初歩的な推理ですよ。バジリスク閣下。」


 アイがなんでもないことのように答えた。





 いよいよ、オレたちは大きな戦争に巻き込まれていくのだな。


 やはり、種の壁は越えられないのか……。


 互いの利害が衝突し、大きな争いになっていく。


 まさにその流れの渦中にいると思い知らされたのであったー。




~続く~



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