第140話 七雄国サミット『街の噂』
『法国』の首都『アーカム・シティ』の中央にはミスカトニック川が東西に流れていて、その北部に魔導列車『シルバーピレン』の駅がある。
魔導列車の動力は魔鉱石でその魔力で動く列車である。世界広しと言えど魔導列車は『法国』以外に存在しない。
そして、この列車がどこへ向かっているかと言うと、東方へは東の都市『スペードナイツ・シティ』、西方へは『セイクリッドハート・シティ』、それと分岐地点で北方へは『ダイヤモンドゲート・ザ・シティ』へ、南方へは『クラブ・ツリー・シティ』、そして山岳を登る列車があり、『オリュンポス山』を登り『天球神殿』へと至る線がある。
このオリュンポス山がやっかいなことに遠くから見ると山は見えるのだが、近くに来ると目には見えないのだ。
厳格な法を遵守する者にしか登ることを許されない魔法の山というわけだ。
そのオリュンポス山の頂にある神殿は、近くで見ると天空に浮かぶ天球に神殿が建っているように見えることから『天球神殿』と名付けられたとか……。
山からはウルズの泉という泉が湧いていて、そこから流れ落ちる豊富な水がミスカトニック川を潤している。
ジェイムズ・シェパードは街の医師で、街の東部フレンチヒルにある家に住んでいる。
街の人からはフレンチドクターズ・ハウスと呼ばれている。
今日もジェイムズは、噂好きの姉キャロラインと話をしていた。
「それでね、ジェイムズ。ミスカトニック川に見上げるように巨大な巨人が現れたのよ? 川岸を散歩していたラドレット老もびっくりしていたわ。すごかったわよぉ。見せてあげたかったわ。あなたにも。」
「うんうん。姉さん。それは驚きだね。『巨人国』の巨人でもその大きさは珍しいね。」
「なんでも、かつては『法国』で囚われていた巨人らしいわよ。でも、今は解放されて『巨人国』にいるんだって。」
「へぇ。そいつは……。でもなんだってその巨人が『法国』にやってきたんだい?」
「そりゃあ、『七雄国サミット』が行われるからじゃろうて。」
キャロラインとも仲の良い老婆ガネットが教えてくれる。
「そうよ。ジェイムズ。あなた知らなかったの? 街中、その噂で持ちきりなのに! ああ、あの『龍国』のアヌ龍王が来訪されたときもすごかったのにぃ!」
「そうですねぇ。龍が突然、街の上空に現れたときは、みな肝を冷やしましたのじゃ!」
「ねえ。ガネット。龍ってもっと凶暴だと思ってたけど、意外とおとなしかったわねぇ?」
「そりゃそうじゃ。『法国』で暴れたりすればすぐに討伐じゃて。」
「まあね。防衛大臣アテナ様が黙ってないものね。」
「それに。ヒュアースさんところの宿屋『ヒュアデス』に『海王国』の皇太子殿下が泊まってるって!」
「ああ。ハスター殿下じゃな?」
「そうそう。それに外交代表のニャル……なんとかさんも来てるって! それって珍しいよねぇ?」
「そうじゃなぁ。暗黒のファラオと呼ばれるかの御仁に関わるとろくなことにならんと言うからのぉ……。」
「ほぉ? 邪悪の皇太子と暗黒のファラオが揃うなんてそうそうないことだね……。」
「ああ。ジェイムズ。さすがのあなたも知ってるのね? 『海王国』は海王クトゥルフ様がずっとお眠りになってるって言うからね。覇権を争っておるからね。」
「姉さんの各国の王室マニアっぷりには負けるよ。」
「はっはっは。そりゃあね。王室ウォッチャー・キャロラインとはあたしのことだ!」
「ほんにキャロラインは物好きじゃな。」
「いやいや、ガネットばあちゃんにはかないませんよ?」
「ほっほっほ。年の功じゃて。」
「やあ。みなさん。おはよう。何を話してたんですか?」
大富豪アクロイドの秘書をやっているジェフリーがやってきた。
「あ。ジェフリー。いえね、『七雄国サミット』の話よ。あなたも誰か見たぁ?」
「ええ。私は『地底国』のあの『太陽の船』を見ましたよ。キラキラして綺麗だったなぁ。」
「ええ!? 『太陽の船』!? それって空を飛ぶっていうあの!?」
「そうですよ。空からひゅーーってやってきて、ハングマンズヒルに着地したのさ。すごかったよー。」
「すごいねぇ! 見たかったわぁ。ねえ? ジェイムズ!」
そう言ってキャロラインがジェイムズの方を見る。
「ああ。そうだね。姉さん。何か起こらないといいけどねぇ……。わたしには何か嫌な予感がするんだ……。」
ジェイムズ・シェパードは何か考え事をするかのようにそれっきり黙ってしまったのだ。
****
魔導列車『シルバーピレン』の駅『キムリンゲ駅』に執政院専用列車が到着していた。
この駅は選ばれた超英雄族のものだけのために作られた駅で、普通の住民は利用できないのだ。
『シルバーピレン』の車掌は、都市警備隊『スプリガンズ』のトリスタンから推薦された元船乗りのフェリーマンである。
「では、乗車の際にはコインをお願いいたします!」
フェリーマンが駅で待っている各国の代表陣に声をかけた。
「なんじゃ? 金取るのか……。」
『エルフ国』の長老タイオワがいち早く文句をつけた。
「まあまあ。タイオワ長老。規則ですから。」
「むぅ。オベロンのぉ。お主はずいぶんと『法国』に染められたのぉ? まあ、よいわ。ほれ! 渡してやれ。ト・バジシュ・チニよ。」
タイオワは文句たらたら言いながらも、護衛の戦士ト・バジシュ・チニに金貨三枚をフェリーマンに渡すよう指示をした。
ト・バジシュ・チニ(水のために生まれた者)とナーイー・ニーズガニはネイチャメリカ種族の双子の戦士で、ナーイー・ニーズガニ(敵を打つ者)は、好戦的でかつての大戦時には世界中のモンスターを退治してまわったという。いなづまを走らせる黒い火打石でできた鎧を身に着けている。
「まいどありぃ!」
フェリーマンが元気よく金貨を受け取る。
「タイオワ様。私たちは後から乗車いたしますので、先にお乗りになってくださいませ。」
妖精女王ティターニアがタイオワに先に乗るよう促した。
都市警備隊の職についているオベロンは各国の要人たちが無事に乗車を済ませてから乗車するようだ。
「ふむ。忙しいのぉ。そなたらも。」
続いてやってきたのは、『北部帝国』の皇帝ブラフマーの一団と、『南部幕府』将軍マハーの一団であった。
「では、コインをお願いします。」
「ああ。ではこれで。」
「うむ。まあこれも『法』であるか。」
そう言って、サヴィトリが人数分の金貨を渡す。
「あなた。ブラフマー皇帝陛下とマハー将軍閣下がご一緒とは本当に稀有ですねぇ?」
「そうだな。ティターニア。これは今回の世界会議は波乱が起きるかも知れぬな。」
続いて乗ってきたのは、『巨人国』の一団である。
巨人たちは身を小さくする『身縮』を使い、人間大の大きさになっていた。
「コインをお願いします。」
「ふむ。『法国』はけちであるな。まあよい。そら。」
巨人王ウトガルティロキはそう言って三人分の金貨を渡す。
「まいどありぃ。」
お次は『龍国』である。
龍王アヌらも『身縮』を使っており、人型サイズになっていた。
「ではこれで。」
警備隊長ゾフィエルが人数分の金貨を渡し、乗車する。
次は『地底国』の一団だった。
「今朝船で着いたばかりでお次は列車の旅か。こたびもなかなか楽しめるなぁ? オシリスよ。」
「まあ、なかなかでありますな。」
「ふん。さっさと会議とやらを済ませたいものだな。」
セトは相変わらずの態度だが、ここはおとなしく乗車する。
「まいどありぃ。」
最後は『海王国』であった。
「では、コインをお願いします。」
「うむ。ではこれを。」
ハスターがそう言って金貨を三枚渡した。
「では、行くとするか……。列車の中の弁当が楽しみだにゃ……。あ、いや、楽しみだな。」
浅黒い暗黒の男がそう言ってハスターに問いかける。
「貴様は……緊張感というものを知らんのか。」
「はっはっはぁ。まあ良いではないか。」
「ふん。早く乗るぞ。」
ハスターの体の周囲に相変わらず霧が覆っている。
ハスターがスタスタと列車に乗り込む。
「ああ。待っておくれよぉ!」
そう言って、暗黒の男が二人続いて列車に乗り込むのだった。
「え……えーと、コイン3枚。たしかに3人分、まいどありぃ!」
フェリーマンが金貨を確認し、オベロンとティターニアが金貨を渡して乗り込んだところで、列車の扉が閉まったのだったー。
~続く~
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