第110話 目指せ!Sランク!『イシカとホノリ』


 エメラルドのハチが緑の輝きを増し始めた。


 これほど強力なハチは恐ろしいほどの脅威だ……。


 それに非常に敵意を持っている。


 かつての古の世界でも、昆虫の災害が深刻ではあった。スズメバチの被害や、サバクトビバッタの蝗害、マラリアの元凶になる蚊などなど……。



 「ジンのだんな! あの空中で固定されてるのは、異空間固定呪文『故郷を離るる歌』やで! 異空間に魂と身体を連衡させて空間に固定させるんやっ!」


 「なるほどな! それでイシカやホノリの攻撃が効かないのか!」


 サルワタリが解説してくれた。本当に単なる情報屋か……? 魔法についてもめちゃくちゃ詳しくないか?




 「むぅ……! こいつ手強いであるゾ!」


 「ふぅ……! こいつ厄介なのだっ!」


 イシカとホノリもいったん手前に引き、ハチの様子を伺う。




 「テメエラニ……。ゾットスルモノヲ、ミセテヤル!」


 エメラルドバチがそう言って、魔力を高め出した。



 「ショウカンジュモン!」


 『千草、八千草、乱れ咲きて、花を褥(しとね)の夢おもしろと、おのずからなる虫の声々! チンチロリン チンチロリン! スイッチョ スイッチョ! ガシャガシャ ガシャガシャ! ガシャガシャ ガシャガシャ! 月ある夜半は秋の野面(のもせ)の楽隊おかし!』


 またしても、ハチが呪文を唱え出した……!


 これはまた新しい呪文……。ショウカンジュモン……ショウカン……召喚呪文かっ!?




 すると……!


 エメラルドゴブリンバチの周囲に無数のハチが現れたのだ。


 ハチの大群か!? おびただしいほどの虫の群れがエメラルドバチの周囲で飛び回る。




 「アイっ! なにか方法はないか!? ヤバそうだぞ……!」


 「はい。マスター。了解しました。」



 小さな虫が大量に湧き出てきた……。これに対抗するのに、こちら側が格闘術のイシカとホノリじゃあ相性が悪すぎる。


 かといって、アラハバキに変身させても小さい敵に対して巨人が対処するのも難しい。


 しかし、追い払おうにもあの空間に固定する魔法のおかげで、吹き飛ばすこともできない。


 魔法のチカラに対して、物理的なチカラで対抗しても効果がないのか……?




 「イシカ! ホノリ! 3分時間を稼いでください!」


 「「了解である! なのだ!」」


 「わしも参加させてもらうぞ!」


 イシカ、ホノリに続いて、ムカデ爺やも首を持ち上げた。




 『あめあめふれふれ、かあさんがぁ! じゃのめでおむかえ、うれしいなぁ! ピッチピッチチャップチャップ! ランランラン!!』


 「豪雨の魔法『雨ふり』じゃて!」



 おお! 急にどしゃぶりの雨が降ってきたぞ!




 (マスター。昆虫の羽根は湿気に弱く、その飛行能力を妨げると推定します。)


 (なるほど! ムカデ爺やのヤツ……意外と頭脳派なんじゃあないか!?)


 (おっしゃるとおりですね。これは改めてムカデ爺やの能力を最適化するように役割について早急に組み直し致します。)


 (うん。アイの言うとおりだね。それは任せるよ。)




 豪雨の中、ずぶ濡れの赤いロングテールの髪を振り乱して、イシカがその左腕から炸裂弾を発射する。



 「クラスター・ボム! 発射っ!!」



 周囲をクラスターが炸裂し、無数の虫たちに爆発が襲いかかった。


 さすがに、召喚された虫たちは動きが鈍っているところに襲いかかる爆裂に巻き込まれた何百匹かが消えた。




 さらに、ホノリがその右手を体の前に構えると、瞬間に腕から先が変形する。



 「武器腕モード……、電磁刀っ!」



 なんと! 腕が刀に変形し、しかもそこに高エネルギーが込められているのか、光り輝いて見えるほどだった。


 まるで……! いや、言及するのはやめておこう。




 その光る刀でもって、周囲の虫どもを一瞬で切り刻むホノリ。


 やはり、本体のエメラルドバチは魔力によって防御され、イシカとホノリの攻撃にも耐えられたが、召喚された虫どもはその耐久力もそれほどではないらしい。



 「オノレ! オノレ! ナラバ、クラエ!」


 エメラルドバチが新たな呪文を唱え出した。




 『ブーンブーンブーン! 蜂よブーンと飛び回れ! さあ、危害など加えない、森に野原に飛んでゆけ! ブーンブーンブーン! 蜂よブーンと飛び回れ!』


 虫たちが一斉にイシカとホノリに超高速で襲いかかった。


 そして、その超高速の衝撃波でイシカとホノリが吹き飛ばされた。




 『かけましょかばんを、かあさんのぉ! あとからゆこゆこ、かねがなるぅ! ピッチピッチチャップチャップ! ランランラン!』


 ムカデ爺やがさらに呪文を唱えた。


 雨がさらにきつくなり、まさにゲリラ豪雨のようだ。




 「爺や! 助かる! よし。オレも!」


 オレは周囲の超ナノテクマシンにイメージを伝えた。



 「喰らえ! 電撃ショーーー―ック!!」


 オレは雷が地を這う竜のようなイメージを浮かべ、同期しているあたりの数百兆個のスーパーナノテクマシンに命令を下した。


 ピカッ!!


 一拍遅れて衝撃音が巻き起こる。




 ドゴォォォォオオオオオオオオオオォォンンンッ!!!




 雷撃が龍のごとく無数の虫どもに炸裂し、焼き焦がした。


 ブスブス……。燃える火は豪雨で消される。


 しかし、やはりというか、エメラルドのハチだけはその空中に残っていたのだ。




 「マスター! おまたせしました!」


 アイが両手を天に掲げ構えた。



 「超伝導・氷結!!」


 急激にこの周囲の空気が冷え込み、豪雨が瞬間に凍って結晶になってしまうほどの冷気が呼び起こされたかと思うと、エメラルドバチさえも瞬間冷凍されたのだ。




 すると、さきほどオレの放った雷撃の残存していた電気エネルギーが、その冷気にさらされたイシカとホノリに一気にスパークしたのだ!




 「イシカ! ホノリっ!!」


 オレは思わず大きな声を上げた。


 「マスター。ご安心ください。あれを御覧ください。」



 アイの指す方をみると、イシカがその両の腕を体の正面に構え、両拳を指と指で絡ませ、右手の人差し指をピタリとエメラルドバチに向けて照準を合わせて立っていた。


 そして、その背中合わせにホノリがそのイシカの身体を支えて、後方の大地にまるで根を張るかのごとく構えていた。


 まるで、二人が一体となって砲台のようだ。




 「「イシカホノリEML固定砲台……、設置完了! アイ様!」」


 イシカとホノリが声を揃えて、アイに合図した。



 「イシカ! ホノリ! 撃てぇーーーーーーーっ!!」


 アイが叫んだ……瞬間。




 「「レール・ガンッ!!」」



 すると超高圧の電磁力を帯びた二人の身体に、周囲の超ナノテクマシンから一斉に直列につないだ電気エネルギーが直撃し、イシカとホノリの身体から、イシカの右腕、左腕を伝わった。


 非常に低い温度へ冷却したときに、電気抵抗が急激になくなり超伝導が起こり、さらに威力を増したのだ。


 それは、電位差のあるイシカの2本の腕の電気伝導体製の高圧電流とレールの間の超電流に発生する磁場の相互作用によって、その人差し指部分を弾として超加速して発射したのだ。








 チュィ……





 ……ッン!!




 「ナ……ナンダ……? ナンナノダ……? マサカ、マカクヲ、イチゲキ……トハ……。グハッ……!」



 エメラルドゴブリンバチの緑色の光が一瞬、輝いたかと思うと、大きく破裂し、割れて砕け散った。




 (マスター! レールガンの超エネルギーの破壊力を、その空間に身体を固定していたエメラルゴブリンバチはどこにも躱すことなくすべて受け止めたため、身体とその魂まで一瞬で破壊されたのだと説明可能です。)


 (な……なるほどな。そうだとは思っていたけどな。)


 (さすがはマスターでございます。)



 ま、そういうことだ。


 オレにはちんぷんかんぷんだったけどね……。



~続く~


©「虫の楽隊」(曲/田村虎蔵 詞/桑田春風)

©「雨ふり」(曲/中山晋平 詞/北原白秋)

©「ぶんぶんぶん」(村野四郎作詞。1947年発表。曲は、チェコ・ボヘミア地方で歌われていた民謡に、ドイツの詩人ホフマン・フォン・ファラースレーベンが詞を付したドイツ語曲 ""Biene""(蜂・花蜂の意、1843年発表。""Summ, summ, summ"" の題名も知られる。)

©「冬の夜」(曲/文部省 詞/文部省。初出は明治45年3月「尋常小学唱歌(三))



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