第98話 波紋と波動 『黄金都市エル・ドラード』


 黄金郷ー。


 世界で一番繁栄しているキラキラ輝く黄金都市……。


 そう言われるのが『エルフ国』最大の商業都市、それが黄金都市『エル・ドラード』だ。



 この街は金の採掘と装飾技術が発達し、交易が盛んで繁栄している。


 街のいたるところに黄金が使われ、黄金で光り輝く街……。


 そして、『エルフ国』と『法国』、『龍国』、『巨人国』、『高天原国』などの物資や人的資源の交易の中心地になっている。




 また、『黄金都市』の周辺地域で採掘できる黄金はもちろん有名なのだが、実は魔法のチカラを持った鉱石・魔鉱石の採掘が盛んな都市でもあるのだ。


 世界中の一攫千金を目指す者たちがこの街へ夢を見てやってくる。


 だが、夢を実現できる者はほんの一握りしかいないのは言うまでもない……。





 この都市の周囲に壁はない。


 代わりに回転する魔力で動く木の馬車、回転木馬車が周遊している『トロットワール・ルーラン(動く歩道)』と呼ばれるエリアがある。


 ここに許可なく立ち入ったものはこの魔力で動く木馬に襲われ、木馬の仲間にされてしまい、一生ここで囚われてしまうという。




 だが、この街の住民にとっては恐れることはなく、ぐるり周囲を回転木馬車が周遊していて住民の移動の手段となっているという。


 さらにこの都市の守護をしているのは都市長である『ユグドラシルの十長老』の一人、長老ウッコの近衛兵団、『黄金妖精兵団』である。


 疲れを知らない不滅の軍隊で、この黄金都市を昼夜問わず防衛しているのだ。




 そんな黄金都市の正門の前、木馬乗り場にやってきたのはカシム・ジュニアとジロキチの二人だ。


 ここまで来るのもひと苦労あったのだが、その話は今は割愛しよう。


 リンヌンラタ天の川やヒーシの森を越え、ようやくたどり着いたのだ。




 『霧越楼閣』から『エル・ドラード』まで、実に直線距離でも3ドラゴンボイス近く(約4800km)はあるだろうと思われる距離を、竜馬で10日かけてやってきたのだ。



 「あ、あそこに門番の黄金の兵団の方がいますね。ジュニア様。」


 「そうだね。ジロキチ。黄金都市との交易許可証出しておいてね。」


 「了解でございやす。」





 黄金仮面の男が無言で許可証を出せというジェスチャーをする。


 ジュニアの父・カシムが文字通り命をかけて手に入れた『エル・ドラード』の交易許可証。それを差し出すと、やはり無言で木馬の方を指差された。


 「あ……。どうも。」


 とりあえず、適当な挨拶をして会釈をしながら、ジロキチと二人、木馬の方へ進むジュニア。




 巨大な木馬から人間大の木馬まで数多くの木馬が周遊している。


 そのうち、1頭の巨大木馬が荷台を引いて、ジュニアたちに近寄ってきた。



 「ヒヒヒーン!」




 「うわぁ……!! 大きいね!」


 「ジュニア様! これは魔導木馬でございやす! 魔法のチカラで自動で動いていやす!」


 「すごいねぇ……!」




 二人はその巨大な回転木馬車に竜馬ごと乗り込む。


 そして、周回する流れに乗り、街の中心部へと進んでいく。


 この街は住民が1000万人は超えるだろう大都市だが、魔法で防衛を強化された魔法都市なのだ。




 街の中心部の馬車駅に着いた二人は、巨大な木馬から荷物を竜馬車に降ろした。


 「ジロキチ! 街が黄金でキラッキラだねぇ……。」


 「待ちゆく人々もみな輝いて見えますね……。拙者たち、田舎モノに感じるでやすな……。」


 「たしかに……。みんな黄金の精神を持ってそうだねぇ……。」


 「街に吹く風の色まで黄金色に見えてきやす。」



 この街はすべてが輪状に展開されていて、街中が黄金色でキラキラ輝いていて二人は圧倒されっぱなしだった。




 二人は円形の街の通路を進みながら、商業ギルドを探す。


 この街の特産品は黄金や魔鉱石、岩塩の鉱物資源はもちろんだけど、黄金羊やコムギトの麦、シダの花、など豊富な農作物や畜産物も世界の食糧事情も支えていると言って過言ではないのだ。


 そんな交易の一手を握っているのが商業ギルドだ。




 この黄金都市の商業ギルド長はイルマタル・ルオンノタル。彼女はこの都市の宰相ワイナミョイネンの母でもある強い影響力を持っている大物である。



 「こんにちは! カシム・ジュニアと言います。ギルド長にお取次ぎをお願いします!」


 ジュニアは丁寧に挨拶をして、受付に向かった……そこまでは勇ましかったのだが……。




 受付には三人の乙女たちがいたのだが、これがみなそれぞれ美しい女性のエルフであった。



 「あ……。あ……。えぇ……。えーと……。」


 「坊っちゃん! あ、いや。ジュニア様! 用件をしっかり伝えてくださいやす!」


 ジロキチがツッコむ。それはそれは見てられないくらいジュニアが照れてしまっていたからだ。




 「あーあー。拙者たちは『円柱都市イラム』からやってきた商人です。ギルド長のイルマタル様にお取次ぎをお願いしやす!」


 ジロキチが見かねて申し出る。


 ギルドの受付嬢は『3人の乙女たち』と呼ばれ、3人の美しいエルフだ。


 その中の一人が前に進み出てきた。




 「黄金都市のギルドへようこそ。受付のクララ・デレブーズです。遠くからお疲れ様です。」


 彼女は信心ぶかくて純潔な乙女で、見た目も本当に清純なイメージだ。



 「では……。あちらのお部屋にどうぞ。」


 クララは手で奥を差し、ジュニアたちを部屋に行くように促した。




 「あ、はい。ジュニア様。行きやすよ? ……ジュニア様!」


 「あ……。ああ。そ……そうだね。」


 あいかわらず、ジュニアはぼぉーっとクララに見とれていたのだが、ジュニアの首からかけられていた丸いダンゴムシのようなネックレスのようなものが赤く光った……ように見えた。




 「ぶる……。な、なんだか冷気が……!?」


 「え? ジュニア様。何言ってるんでやすか!? 早く行きやしょう!」


 「う……。うん。わかったよ。」



 ジュニアとジロキチはギルドの奥の部屋に向かった。





 奥の部屋に案内され、クララがフィーカという飲み物を出してくれた。


 熱い飲み物で、初めて見る黒い見た目のいい薫りのする珍しい飲み物だった。


 原材料はコヒノキという植物から抽出した液らしい。




 「いただきます……。」


 「いただきやす!」


 二人はおそるおそる口をつけたが、これはなんとも深みがある味わいだった。



 「「美味い!!」」




 「お気に召してよかったです!」


 クララがにっこり笑いながら答えた。


 ぽわぁ……。温かい飲み物のせいなのか、ジュニアは頬を赤らめた。




 「おまたせしましたね。商業ギルドのギルドマスター、イルマタル・ルオンノタルなのよ!」


 入ってきたのは美しい乙女であった。


 彼女は『大気の乙女』とも呼ばれている、年齢不詳の女性だった……。






 ****



 ジュニアとジロキチがイルマタルに対面していたちょうど同じ頃、この黄金都市にある最大の農場『コルキス大農園』に二人の人影があった。



 「ようやく……落ち着けたな。ここの管理人の『黄金の龍』は月と魔術等を司る、冥界の龍ペルセーイスの息子なのだよ。夜の魔法を使う者同士のよしみでなんとかコネで仕事にありつけたよ……。」


 「うん。よかったぁ! ずっと野宿だったもんね!」


 「そうだなぁ……。すまないな。不便をかけた。」


 「んーー? 平気だよ。楽しかったよ!?」




 そう言って、赤いマントの男と、妖精の幼女は笑いあったのだったー。




~続く~


※東京近郊に在住でない方はわからないかもしれないネタがありましたので、解説です。

 西武グループの豊島園が運営する遊園地・としまえん(東京都練馬区)にある世界最古級のメリーゴーランド「カルーセルエルドラド」。

としまえんの公式サイトによれば、カルーセルエルドラドは100年以上の歴史を持つ世界的に貴重な文化遺産として、2010年に「機械遺産」に認定された。

こちらの回転木馬(カルーセル)は1907年、ドイツの機械語術者ヒューゴー・ハッセによって制作。当時は「トロットワール・ルーラン(動く歩道)」と呼ばれたという。


エルドラドは日本最古の回転木馬にして、としまえんでも50年近くの歴史を持ち、すべての彫刻が木製で、手彫りでできているのが特徴なのです。



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