第93話 波紋と波動 『法国の盾』
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『カーズ法国』の首都アーカム・シティ。
そのオリュンポス山頂にある天球神殿にこの国の最高権力たる執政院がある。
その大統領ゼウス・オリュンポスは目の前にいる者たちを見て、ため息をつきたくなった……。
一人は、ゼウスの娘でもあり、防衛大臣……のはずのパラス・アテナである。
この国の防衛の要、防衛の長でありながら、自由闊達に国外に出てその信念のもとに行動する。
娘としては誇らしい……が、国の重責として考えるとまあ、あまりよろしくないとは言える……。
「アテナよ……。だまって行くとは何事じゃ!? 心配したではないか?」
「お父様……。いえ、大統領閣下。勝手しまして申し訳ございませんでした。しかし、かのシバの女王直々に助勢の申し出があったのです。ここは行かねば私の義が立ちません!」
アテナは毅然と答えた。
「大統領閣下。アテナは私の要請に応えたまでに過ぎませぬ。事後報告となったことお許しください。」
「ヘルメス……。お主もお主じゃ。なぜ、アテナを止めなかったのだ?」
「はぁ……。私が姉上を止められるわけないでしょう? 言い出したら聞きませんよ……。」
「こら! まるで私が聞かん坊みたいじゃないか!?」
「そう申し上げているのです。姉上。」
「ああー!? ヘルメス! 言ったなぁ?」
「ええええーーーっい!! だまらっしゃい! 父たるわしの前で姉弟喧嘩するんじゃなーい!」
ゼウスが雷を落とした。
文字通り、雷魔法が炸裂し、広間の床を焦がした。
だが、二人はまったく気にしない様子で、平然としている。
慣れっこになってしまっているのだ。
ゼウスは雷神でもあるのだから……。
「まあよい。……で、そのサタンとやらは退治されたってことじゃな?」
「はい。先程申し上げた『イラム』の冒険者ジンの活躍によって犠牲も少なく抑え込めたのです。」
「先日の魔力爆発の詳細はあいわかった。カリストとエウロパもご苦労じゃったな。」
「はい。タイオワ様との会談の帰路で、アテナ様と合流できたので良かったですわ。」
「本当によかったです。しかし、アテナ様が『死の平野』を突っ切ってくるとは……。危険でございますよ!」
「本当じゃぞ! アテナよ……。余は、余は……。心配なのじゃ!」
「はいはい。心配性なのです。閣下は。」
「ところで、『七雄国サミット』が開かれるそうじゃな? ヘルメスよ。」
「そのとおりでございます。そのジンなる冒険者のSランク昇格の話も上がっているとか……。」
「ふむ。『七雄国』以外にSランクの冒険者はなるべく置かないとの暗黙の了解があったはずじゃが……。たしか『円柱都市イラム』は、『海王国』のSランクパーティー『冒瀆の双子』の勢力圏ではなかったか?」
「ですねぇ……。独立でも企んでいるのでしょうか? バビロンの王は……。」
「うむぅ……。今までは我が『法国』、『海王国』、『龍国』の3国の庇護のもと、中立であったはずじゃのぉ?」
「そのジンという者……。事の次第では、排除せねばならんの?」
「なっ!? 閣下! いえ! お父様! ジンはそのような危険人物ではありません! 先の件も『イラム』を守ろうとしたゆえのこと! 冒険者としては当然の行為ですよ!?」
アテナがゼウスに対して大声で反発する。
ゼウスの目が、キランッ……と光る。
「アテナ……。おぬし……。そのジンに惚れたのか?」
「なな……! なにをっ……! 何をおっしゃるのですか!? お父様ったら! そ……そんなんじゃありませんわ!」
アテナは慌てて否定する。
「しかし、姉上がそこまで庇うのも珍しいことではありますよ?」
「へ……ヘルメス! 卿まで何を言うか……!?」
「ほほほ。じゃが、アテナもそろそろ婿を探してもいいのじゃ……。今まではどんな男にもまったく興味も見せなんだからのぉ?」
「もお! お父様まで! からかうのもよしてくださいませ。」
「おほんっ!! 話が脱線してますよ! お三方とも! アテナ様も俺に防衛を押し付けて、自分ばっかり楽しまないでくださいよ! そういうのは俺の役目じゃないスか!?」
ここまで黙って聞いていた『法国』の軍務大臣アレス・ウォール・カタストロフィアスが見かねて口を挟んできた。
先日のアテナの『イラム』遠征の際、防衛任務を押し付けられたアレスはご機嫌斜めであった。
「おお……。アレスよ。すまんのぉ。しかし、戦時ならいざしらず、平時の今は軍務としては防衛が主体ということでもあるのじゃぞ? 『法国』の盾であらねばならぬぞ!?」
ゼウスはやはりアテナに甘い。
「まぁ……。そうではありますが……。」
「たしかに。閣下のおっしゃる通り。軍として庇護下にあるとはいえ、3国の中立地域に我が『法国』の軍が赴くのは多少聞こえが悪い。侵攻と捉えかねられない。」
ヘルメスも同意する。
「まあ……。ジンと申す者については、様子見というやつじゃな……。」
「それより、『不死国』の暗躍はいかがしますか!? なんなら俺が叩き潰してやってもいいぞ!?」
アレスは矛先を変えて発言をする。
「まあ待て。そうはやるでない……。そのことを『七雄国サミット』で話し合おうと言うのじゃろ? ヘルメスよ。」
「はい。さようにございます。」
「ちっ……。まだるっこしい! さっさとあんな国は叩き潰せばいいんじゃないか!?」
「アレス。君はいつもそうだな? 軍を動かすには大義名分が必要なのだよ。特にこの『法国』は法の支配がすべて。仮に『イラム』を攻められたとしても、『イラム』は我が『法国』の領土ではないのだ。それを理由に戦争は起こせない……。あくまでも要請があって初めて動けるのだよ。」
「ぐぬぅ……。」
「ヘルメスの言うとおりじゃ。さすがはヘルメスじゃのぉ。」
「では『七雄国サミット』に向けて……。我が国の方針確認を……。」
「うむ……。」
『法国』はこの世界の警察的な役割も果たしている。
今後いかに動くかは『七雄国サミット』の流れ次第ではいかようにも変わるのである。
二百年ぶりのサミット開催に向けて、『法国』も忙しくなったのであったー。
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『ユグドラシルの十長老』が顔を合わせるのは、魔鏡を利用した遠隔であったとしても、百年ぶりか、それ以上にはなるだろう。
『エルフ国』では、ここ数百年は争いという争いは起こっていない。
ゆえに長老たちが顔を突き合わせる必要がなかったのだ。
ネイチャメリカ種族の長老タイオワと、ノヴァステカ種族の二人の長老オメテオトルとトラロック。シンインカ種族の長老ビラコチャ。ノイポリ種族の長老カーネ。
ネオマヤ種族の長老フラカン。ニュースオミ種族の長老ウッコ。白エルフの長老・妖精女王ホルダと妖精王オベロン。
みながおのおのの顔を確認し、挨拶もそこそこにタイオワの説明を聞いた……。
「……では、『エルフ国』としては、禁呪とされた『魔王』の使用については、その責めはレッド・キャップ種族にあるとして断固関係を拒否する。その上で背後で暗躍した『不死国』については、世界連合で対処していくことに賛成する……ということで良いのじゃな?」
タイオワが確認をする。
妖精王オベロンだけは、『法国』の意見を尊重すべきと考えを述べたが、他の長老たちはどうでもよさそうであった。
エルフは気まぐれ、自分勝手なものだ。種族を越えてまとまるのは危機が迫ったときぐらいじゃろうて……。
いずれにしても、『七雄国サミット』には『エルフ国』の代表として、タイオワとオベロンだけが参加することとなったのであったー。
~続く~
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