第59話 ルネサンス黎明期 『楼蘭・始動』
翌日、朝早くー。
オレたちは『楼蘭』の町に降り立った。
町と言っても、まだ家は旧鼠の邸宅が1軒、ぽつりとあるだけだ。
どうやら、建物は持ってこれなかったみたい。そりゃそうか……。
上空の『霧越楼閣』とその真下に来た『楼蘭』の町をつなぐ、エレベーターを設置した。
超ナノテクマシンで見えない床板と、見えない空間で覆われたエレベーターが一気に、音もなく振動も抑えられた状態で、約7kmの距離を30秒ほどでついてしまう。
町の住民たちはこのエレベーターを『異世界エレベーター』と呼んでいた。
まあ、超ナノテクマシンがまったく見えないので、単に人や物が空中遥か上空に一直線に飛んで消えていき、まるで異世界に消えていくみたいに見えるのだ。
そこでつけられた名前が『異世界エレベーター』というわけだ。
まあ、今は逆に上から降りてきたのだけども……。
たしかに……異世界に通じているのかも知れない。
オレのいた世界が異世界か、この世界が異世界か……。
そして、オレたちが『異世界エレベーター』で降り立ったら、一斉に町の住民・月氏種族たちが集まってきた。
ああ……。なんだかハムスターがいっぱい群がってきた感じだ。
こういう動物と触れ合える施設があったような……。
んんー。かわいいな、おい!!
「ジン様! おはようございまチュ!」
「ジン様! おはようでチュわ!」
「ジン様ぁ! おはようございまチュ!」
「ジン様! おはようございやす!」
アーリくん、モルジアナ、ジュニアくん、ジロキチもいる。
みんな、黒い大きな目がクリックリッで、濡れている。
よし! この町をネズミーランドと名付け……ることはするまい……。
何やら暗黒の殺気めいたものを感じる。
Dの一族はチョサクケンに厳しいからな。
って、オレは誰に向かって説明してるんだ!
「あーあー。マイクのテスト中! 今のマイクのテスト中って言ったマイクのテストね……!」
オレがみんなに向かってそう言ったところ、誰も笑わなかった。
は! マイクってないのか……。オレの渾身のギャグが……。
「ジン様? ジン様?」
「お……おお! みんな、昨日はゆっくり休めたか?」
「はーい!」「はーい!」
「えっと、この町の今後について、話をしたいのだが、ジュニアくん、アーリくん、モルジアナも。あ、ジロキチもね。旧鼠さんのところに集合してくれ!」
「わっかりました!」
みんな、素直である。
みんなに挨拶しながら、オレたちは長老・旧鼠の邸宅に向かった。
そして、ジュニアくんたちと一緒に旧鼠の邸宅に入っていく。
「あ、ジン様、いらっしゃいませ!」
「うん、長老を呼んでくれる?」
「わかりました。」
鼠の使用人が奥へ行く間、入り口すぐ入った辺りの部屋で待つことにした。
ここはいつ来ても空調が効いててひんやりとした空間になっていて涼しい。
「それにしても……。この旧鼠さんの家はどうやって運んできたの?」
「ジン様。また新しく旧鼠様が建てたのでございますよ。魔法で。」
「モルジアナ! そんな魔法もあったっけ!?」
「マスター! レベル3の土魔法『たんぼの中の一軒家』でございますわ。」
「そうです! アイ様はさすがですね! もう『イステの歌』の魔法を覚えていらっしゃるのですか!?」
モルジアナがアイの記憶力に驚く。
「すっごいですねぇ……。僕なんか、モルジアナに何十年も習っても、覚えられないのに……。」
「僕も同じだよ……。」
「いや、アーリ様はともかく。ジュニア様はこれからちゃんと覚えてもらわないといけませんよ! もう当主なんですから、自覚を持ってくださいね!」
「ああーー。モルジアナ……。わかったよ……。」
なんだか、尻に敷かれるタイプだな。ジュニアくん。
「これから、町のみんなの家も、建築家のライゴウとテッソ、ミイデラの三匹が魔法でどんどん建てていきますよ。」
「へぇ。月氏の建築家か。」
「彼らは身体も大きく、月氏種族の肉体派の祖先ガテンの子孫で、ガテン系と呼ばれる月氏なんですよ。」
「ガテンの子孫だから、ガテン系なのか……。」
ガテン系ってそういう意味だったっけ?
そんなこんな話をしていたら、旧鼠がやってきた。
「これはこれは。ジン様。お待たせいたしました!」
「ああ。朝早くすまないね。旧鼠さん。」
「いえいえ。それでいったいどうなされましたか?」
「ああ。」
オレはここで、今後のこの町の方針を示すことにした。
「まずは、オレの自宅『霧越楼閣』の近所というか真下に引っ越し、お疲れ様。そして、ありがとう。
君たち月氏種族は、これからはオレの仲間だ。そして、この町『楼蘭』をこれからどんどん発展させていきたいとオレは思っている。」
「おお! ジン様。我らが月氏の忠誠は貴方様とともにありますぞ!」
「ジン様! 僕も頑張りマウス!!」
お……おぅ……。
「そこでだ。今まで行商集団『アリノママ』では主に物品を売っていたと思う。
それはもちろん継続して続けていきたいけど、それと合わせて、宅配の商売をしていきたいんだ。」
「タクハイ? それってどういうものですか?」
モルジアナが聞いてきた。
「うん。宅配っていうのは、売ったものをその場で渡すのではなくて、自宅に届ける商売のことだ。」
「へぇ! それは聞いたことがない商売ですね。」
アーリくんがそう言う。
「ああ。今後、商売を手広く行うためには、この宅配業が必要なんだ。」
うん。宅配サービスって便利なんだもん。この世界でも必要だよな。
「わかりました。じゃあ、そのタクハイに関わる者を選抜しましょう。」
ジュニアくんがそう言ってくれた。
「ああ。そうだね。まず、今まで通り、『ココヤシ酒』やスナイモの栽培、ラクダバの世話など農業をする者と行商をする者。
それに、新しくタクハイに関わる者に分かれるってことだね。」
「では、タクハイに関わるものを『大黒鼠衆』、今までの行商人業を『吉祥鼠衆』としてジン様の指示で働きますよ!」
大黒鼠に吉祥鼠か……。どちらも縁起がいいね。
「おっけー。では、そうしてくれ。あと、アイ! この『楼蘭』の町の防衛体勢を整えてくれ。」
「イエス! マスター!」
「それと、あとは陸路の交通手段をなんとかしたいな。ラクダバでもいいけど……。時間がかかるのがちょっとね。」
「『楼蘭』の引っ越しの時見た砂漠クジラほどではないにしても、大きな生物がいれば、飼い慣らして移動の手段に使えるかと提案します。」
アイがそう進言する。
「ふむ。我がこのサファラ砂漠上空を飛んでいる際に、南方の廃墟の街近くに、竜を見かけたことがあるぞ。」
そこで、コタンコロが、たった今気づいたとばかりに言った。
「うむ! それは砂竜じゃな。砂漠の竜……巨大な魔獣じゃ。普通の砂竜で10ドラゴンフィート(50m)、ボスの大きさはたしかその倍はあるかと思われますじゃ……。」
旧鼠が言う。
「そいつはいいね! そいつを生け捕りにしよう。そして、この『楼蘭』と『円柱都市イラム』を結ぶ『砂竜鉄道』の定期便にしよう。」
「おお! ジン様! さっすがぁ!」
「イシカが捕縛するのであるゾ!」
「ホノリが捕まえてくるのだ!」
ヒルコがはしゃぎ、イシカとホノリがやる気を見せる。
そうだな。それほど巨大な生物なら、こちらも巨大フィギュアの『アラハバキ』が適任だな。
「よし! じゃあ、イシカとホノリにその砂竜の捕獲は任せよう! 二人の補佐には、オレが行こう。」
「わーい! ジン様と一緒に行けるであるぞ!」
「いえーい! ジン様のお供なのだ!」
イシカとホノリが喜んでいる。
「ちょっと、マスター! ワタクシも行きますよ!」
「我も行くのだぞ?ご主人様!」
「僕もジン様といつも一緒だよーー!?」
「あ、いや、アイには別に頼みたいことがある。コタンコロもだ。あと、ヒルコは手薄になるこの『楼蘭』の町、及び『霧越楼閣』の守りをしてほしいんだ。
これから『楼蘭』は住宅の建築や、農場や牧場の開拓が必要になる。」
「そんなぁ……。マスター。」
「これはアイにしか頼めないことなんだ!」
「まぁ……。ワタクシしかできないことですか? それなら理解いたしました。」
「うむ。我もご主人様の頼みならもちろん引き受けるのだ!」
うん。よかった。アイもコタンコロも聞き分けが良くて。
「ぷぅーーーっ!! 僕はお留守番かぁ……。ジン様の言うことは守るよーー!」
ヒルコも素直ないい子だな。
オレは本当に仲間に恵まれた。そう思う。
~続く~
©「たんぼの中の一軒家」(作詞:マザーグース/イギリス民謡)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます