第36話 赤の盗賊団 『犯人しか知り得ない事実』
サタン・クロースとレッド・マントが転移呪文で転移しいなくなった後―。
オレたちが『赤の盗賊団』の残党を倒し、戦闘が終了したところに、ちょうどコタンコロが戻ってきた。
上空から巨大なフクロウがふわりと舞い降りると、ギルガメシュ、エンキドゥ、オット、ウントコが地面に下ろされた。
コタンコロは人間大に小さくなり、フクロウの頭を持った鳥人の姿になった。
「ご主人様。ヤツラを片付けて参りました。」
「コタ。ご苦労だったな。助かったよ。ありがとうな。」
「いえ。もったいなきお言葉。我はジン様の下僕が一つ。遠慮なく使ってください。」
「うん。これからも頼むよ。」
「イシカもホノリもよく来てくれた。ありがとね。」
「うん、当たり前だよ~ジン様。イシカは下僕であるからな。」
「そうそう。当然なのだ、ジン様。ホノリは下僕なのだぞ。」
「アイ。オレも基準を明確にしていなかったのが悪かったな。今度からはもっと意思疎通を行うとしよう。」
「いえ。マスター! 謝らないでください! マスターの御心を汲み取れぬワタクシが悪かったのです!申し訳ございません!」
「いや、いいんだ。『仲間』とそうじゃないかは・・・またゆっくり考えていこう。」
「イエス。マスター!」
「ヒルコもよくやった。」
「あーい。僕もジン様のお役に立てて嬉しいですよー。」
ギルガメシュ兵長たちがやっと空酔いから醒めたようで立ち上がってきた。
「ジン殿・・・。本当に助かった。礼を言う。」
「ああ。本当に危なかった。コタンコロ殿には窮地を救っていただいた。」
「間に合ってよかったです。」
そこへアテナたちも駆けつけてきた。
「おお! ギルガメシュ殿! 別動隊の方はいかがした?」
「いえ。申し訳ありません。我々のほかは全滅です。」
「な・・・。そうだったか。それは大変だったな。」
「ふがいなき結果で言葉もありません。」
「いや。卿らだけでも無事でよかった。」
アテナはそう言ってオットのほうを見た。
「オット。ウントコ殿は大丈夫か?」
「うん。ギルガメシュさんがくれたパナケイア薬をさっき飲んだので、あと数刻もすれば目覚めるかと思う。」
「そうか。卿らはイラムの街へ引き返すがよいぞ。竜馬を使うと良い。えーと、付添いは誰かおらぬか!」
「グースカ衆の者をつけましょう。おい! 誰か!」
マザーさんがそう言って配下の者に指示をした。
「は! 私が行きましょう。」
「じゃあ、頼んだぞ。」
「ギルガメシュ。別動隊へ襲撃してきた中に、ヴァン・テウタテスたちはいなかったか?」
そこにヘルシングさんがギルガメシュ兵長に尋ねた。
「いや。私は見てはいないが・・・。エンキドゥ! 君はどうだ?」
「いえ。ギルガメシュ様。私も見てはいません・・・。ヘルシング殿。だが、テウタテスたちは『赤の盗賊団』の被害者ではないか?」
「ああ。だが、ヤツラはどうも臭い。血の臭いがしたのだ。」
ギルガメシュ兵長が驚き、ヘルシングさんに聞く。
「それは、ヤツラが吸血鬼だと言いたいのですか?」
「まだ確証はない・・・。が、テウタテス、エスス、タラニスの三人は怪しいとオレは思う。」
「なるほど。では、これから向かうミトラ砦にヤツラもいるかもしれないですな。」
「ヘルシングさんも、やはりあのテウタテスたちが怪しいと見抜いていたんですね?」
「というと、ジン殿もか?」
「はい。あいつらが生き残っていることがすでにおかしかったんです。」
「それはどういうことだ?」
マザーさんがそこで質問をしてきた。
「ええ。あの妖精族のペッコくんは見逃されましたが、他には生き残ったものは今までいませんでしたよね?」
「ああ。たしかにな。だが、冒険者のウマヅラハギが犠牲になったから・・・というわけではないのか?」
マンさんがそう指摘する。
「たしかに。ですが、今まで生き残りがいなかったからこそ、その正体がつかめなかったのも事実ですよね? それほど『赤の盗賊団』は慎重に行動してきたということです。」
「なるほどな。それはそのとおりだな。テウタテスたちの時には三人も逃している・・・。『赤の盗賊団』にしては抜かり過ぎというわけか。」
グラウコーピスさんがそう賛同する。
「だが、それだけで怪しいとは断言できはせぬのではないか?」
今度はエリクトニオスが指摘した。
「それだけならそうですが、ペッコくんはこう証言しましたよね? 『む、おまえは悪い子ではねぇな・・・。いね、いね。』と言われて見逃されたと・・・。」
「そうだったな。たしかに、それはオレもなぜペッコのやつだけが見逃されたか疑問に思ったから尋ねたんだ。」
ヘルシングさんがそう付け加えた。
「そうです。つまり、ペッコくんは子供だったから見逃されたと。ならば、オトナのテウタテスたちが見逃されたのはおかしいんじゃないかと思ったんです。」
「それはたしかに怪しいな。すると、ヤツラはミトラ砦で待ち構えている公算が大だな。」
ツンさんがそう言って、ミトラ砦の方角を仰ぎ見た。
「すごいですね。ジンさんって、あの時にそんなことまで考えていたなんて! ねぇ? アテナ様。」
「ああ。誠にその観察眼には感服する。ジン殿。」
ニーケとアテナがオレをなんだか尊敬するような眼差しでじっと見てきたので、オレはなんだか照れくさくなってしまった。
「ジン様! それにしても、仕立て屋のヤツも絡んでいたって、どうしてわかったんですか?」
今度はジュニアくんがオレに質問をしてきた。
「おお! たしかジン様はテラーが怪しいとすでに見通していたんでございやしたね!?」
ジロキチもそう言ってさらに加えてくる・・・。
「なに!? ジン殿はどれほどの慧眼をお持ちなのか?」
出発の前には少し侮っていた様子のツンさんも今やオレに尊敬の念を抱いている様子でこちらを見ている・・・。
オレはこれ以上、みんなの注目を浴びるのが恥ずかしいなと思った。
「マスターはあの仕立て屋に最初に会った時、ワタクシに『あいつ・・・、なぜオレたちがサンドワームを倒したことを知っているんだ?』ってこうおっしゃったのです!」
「え? ああ! そういえば! たしか、ギルド長のアマイモンさんは情報を抑えていたって言ってましたね。」
「そうでやしたね。なるほど。たしかに言われてみれば、あの時、テラーのやつがその情報を知っているはずがなかったでやすね!?」
ジュニアくんとジロキチも気づいたようだ。
「ああ。そうだよ。犯人しか知り得ない事実ってやつだな。サンドワームは『赤の盗賊団』の魔法で操られていた。
で、サンドワームをオレたちが倒したっていうことは、あの時点では『楼蘭』にいた者か、ギルド関係者、それ以外は・・・『赤の盗賊団』の者だけだ。」
オレはそう、あの時、仕立て屋のヤツが『赤の盗賊団』の一味なんじゃないかと思ったんだ。
「すっげぇ! ジン様! かっけぇ!」
ジュニアくんのしっぽがぶんぶんに振られている。
「いや。初歩的な推理だよ。ワトソンくん。」
「え? いや、僕はカシムですけど・・・。」
「あ・・・あぁ。気にするな。」
シャーロック・ホームズのネタが通じないとは・・・。
「マザーさん。これからどうしますか?」
オレは話題を変え、これからの動きについてどうするか、この一団のリーダーであるマザー・グースカさんに聞いた。
「それについてだが、ここはジン殿。あなたに指揮を採ってもらいたいと思うのだが。」
「え? いやいや。オレなんて。ほら? まだ新人冒険者ですよ? それなら、ギルガメシュさんとかアテナさんとかもっと適任者はいるでしょう?」
「しかしだな。『赤の盗賊団』の奇襲もジン殿たちは見切っていたし、別動隊の全滅を免れたのはまさにジン殿一行のおかげだからな。適任かと思うのだ。」
「うーん・・・。困ったな。ただ情報をいち早く得られただけなんだけどな。」
「うむ。オレもジン殿なら適任だと思うぞ。」
ヘルシングさんもそう賛成してきた。
「私も賛成するわ。悔しいけど、私とパックが生き延びられたのは、ジン・・・さんたちの仲間の助けがあったからなのよ。」
「うん。トムもシドもジムも死んじまったので、おいらたちにはもうできることは少ないけど、援護くらいはさせてもらう。」
ベッキーとパックもそう言って賛成の意を示してきた。
「いやいや・・・。アテナさんでよくないです!? 身分も戦闘力も経験も申し分ないと思いますよ!」
オレはこういう何かのリーダーとかになるのが大の苦手なのだ。全力でお断りさせてもらいたい。
「ふむ。たしかに、ジン殿が適任かと私も思うのだが。」
アテナさんまでそう言ってきた・・・。
「いや! シバの女王様から任務を受けたのは、ギルガメシュさんですよね! なら、ギルガメシュさんが指揮を取るべきです!!いや間違いない!」
オレは断固たる決意で断った。
「むぅ・・・。そこまで言われるなら仕方ない。私が指揮を取ろう。だが、ぜひそのお力を貸してほしい。」
ギルガメシュさんが頭を下げた。
「いえいえ。頭を上げてくださいよ。オレもギルドの任務を受けてるんですよ。協力するのは当たり前ですから。」
なんとか、ギルガメシュ兵長がこの残った一団の指揮を執ることでまとまったようで、オレは内心ホッとしていたのだった―。
~続く~
★第33話の【読者への挑戦状】の回答編が今回の話で明らかになりました。
第17話『盗賊団のアジト』で仕立て屋テラーはなぜか知らないはずのことを喋っていました。
みなさんはおわかりでしたでしょうか?
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