第7章 第6話
ドリッピーとHoneySwordには、話が終わった事と共に、
ErsterSpielerも一緒に12エリアまで行く事になったと伝える。
HoneySwordは、平静を装っているのに、喜びが滲み出ているのを隠せていない。
分かりやすくて面白いキャラだ。
クエストは大した事もない内容らしいので
一週間後に再集合と決めてパーティーは一度解散。
久しぶりにSeregranceと2人だけでのクエストだ。
『やっと話せたなぁ。』
「そうねぇ。長かったわね。」
『かけた時間に見合うかはともかくとして。
自分が何かの思惑に巻き込まれてるのは分かったし。
次の手掛かりを探すための手掛かりは見つかったかな?』
「次はどうするの?」
『一週間あるからね。
さっきも言った通り、ひとまず強制ログインの回避が出来ないか試してみよう。』
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慌ただしい1週間だった。
帽子の内側にアルミホイルを貼り付けたり、頭部をすっぽり包んでみたり。
電波吸収体でヘルメットを作ってみたり。
だが、どれも無駄に終わった。
わずかでも隙間があると、電波というのは届いてしまうらしい。
頭部を完全に覆うのが不可能な以上、遮断するのは難しいだろう。
次に試したのは電波暗室での電波遮断だった。
本来は電波を発する機器の電波が、外に漏れないようにするために使う部屋らしい。
だが、外に漏れないということは、外からの電波も遮断できるはず。
少々高くついたが3日間レンタルして滞在してみた。
結果は…
なんと3日間で1度も強制ログインされずに過ごすことができた!
数年ぶりに自分の体を使い続ける事ができる感覚に、
喜びを感じると共に、ErsterSpielerの事を思い出し申し訳なさも感じてしまう。
だが、移動には常に小夜香に付き添ってもらう必要があるし、
電波暗室からの帰宅途中は、実際に強制ログインをくらい、
小夜香を大変な目に合わせてしまった。
これで日常を取り戻したとは到底言えない。
根本的な解決方法は引き続き探す事にはなるが、
自宅に電波暗室を作ることで、今よりマシな生活環境が手に入るだろう。
かなり高額になるらしいが、現状の改善には必須だろう。
**********
次に訪れたのは高山先生の元だった。
ErsterSpielerの施設の助力が得られれば、高山先生と協力してもらうことで
もう少し状況が好転するかもしれない。
『高山先生、お久しぶりです。』
「お二人とも、お久しぶりです。」
『すみません、しばらく顔を出していませんで。』
「いえ。むしろ病院の世話にならずに済むのは良い事ですよ。
どうですか?何か進展はありましたか?」
そこで、ErsterSpielerとの会話で知ったことを伝える。
彼女もチップが埋め込まれていること。
医師としては存在しなかった杉田正美が、実は医療機器の研究者として存在していたこと。
そして、4年前に既に亡くなっていること。
俺には、正規のチップの他に正体不明のチップも埋め込まれているらしいこと。
合わせて今後の計画について相談する。
電波暗室に入ると強制ログインが停止したことから、自宅に電波暗室を作ろうと思っていること。
ErsterSpielerのチップと自分のチップの埋め込み具合を比較して、不明チップを特定して除去できないか調べたいこと。
「随分と状況が明確になったんですね。
電波暗室に関しては、脳波のモニタリングも止まってしまうので、何かあった時にこちらからの初動が遅れる可能性があるという点では、若干不安はありますが。
自宅内ということであれば、緊急を要するような事は無いかもしれませんね。」
「チップに関する調査も、計画は理解しました。相手方の施設からの承認が得られたら、私も協力させて頂きます。」
『ありがとうございます。』
「ちなみに、今日お時間は大丈夫ですか?
あれから3年くらい経ってますし、丁度3時間後にCTスキャンの予約が取れるので
今のうちに直近の状況をスキャンしておきませんか?」
『今のうちにやっておきたい事はあらかた終わったかな。
自宅の改修は時間もかかりそうだし、後はエアスタさんの問診待ちか。』
「そうね。後1週間と少しは、エアスタさんとも一緒のパーティーなんだし、
ゲームを楽しみながら他に気付けることがあると良いわね。」
自宅に戻り、小夜香とのんびり食事を取る。
電波暗室が出来上がれば、行動範囲はともかくとして、リアルで過ごす時間が確保できる。
強制ログインが始まった直後に比べれば、随分マシな生活になりそうだ。
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