第7章 第5話

杉田正美も強制ログインの被害者だって?

『じゃぁ彼が亡くなったのは…』

「君がさっき言ってたよね。いつ事故に遭うかも分からないと。」

全て聞かずとも理解ができた。


『彼が強制ログインに遭っていた原因は分かったんですか?』

「ああ。」

『!』

「その原因、教えてもらえませんか!」

Seregranceが思わず食いつく。

「ごめんなさい。辛い話をしてもらった直後に。でも」

「分かってる。気にしなくていいよ。

 あたしも、彼のことを知ってもらいたくて前置きが長くなってしまったね。

 彼が強制ログインの被害に遭っていた原因。

 それはさっきも話した正体不明のチップが増えていたことだ。」

『そのチップというのは?』


「彼が開発したコントローラ一式には存在しないはずのチップ。

 本来は、頭部の近くにセットした外付けのデバイスから

 頭部のコントローラを起動することでログインするんだが、

 この不明チップは、外部から受け取った微弱な電波を増幅して

 コントローラをログイン状態にしていたらしい。」

『ということは、俺にもその追加チップがあるかもしれないということか。』

「あたしも、彼が亡くなった時に共同開発者という人から聞いた話だからね。

 あまり細かいことは理解できてないが。

 少なくとも正美さんと同じであれば、正規のコントローラチップ以外に

 追加されたチップがあるのかもしれないね。」


「エアスタさんには、その正体不明のチップは埋め込まれてないんですか?」

Seregranceの質問にハッとする。


「うん。彼の事故の根本原因が分かってから、あたしも検査されたんだけど

 あたしにはそのチップは埋め込まれてないらしい。」

『そうですか。それだけは不幸中の幸いなんですかね。』

「どうだろうね。あたしはどうせベッドで寝てるだけだからね。

 何の目的があるのか分からないけど、あたしには意味が無かったのかもね。」



『すみません。切羽詰まってたとは言え、エアスタさんの大事にしていたものを

 掘り返すような事をしてしまって。』

「良いんだよ。正美さんの事はこの4年で整理がついてる。

 むしろ、君のおかげで彼のことを共有できる仲間が増えたのかな。」

言葉のとおりErsterSpielerの顔は、穏やかだった。


「エアスタさんのお話。杉田正美さんの理念は素晴らしいと思います。

 このコントローラが正しく運用されるのであれば、

 救われる人が必ずいるであろうことも。」

Seregranceの顔は、言葉とは裏腹に険しい。


「でも、杉田さんの研究を邪な目的に利用している人がいるとしか思えないわ。」

『そうだな。目的は相変わらず分からないが。

 誰かが介入していると思っていいだろうな。』

「それについては同感なんだが、あたしじゃどうしようもなくてね。

 無理はしなくていいんだが、もしその誰かに辿り着いた時には…」

『分かってます。その時は杉田さんの無念、きっちり晴らしましょう。』

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