第7章 第3話

「彼はね、あたしの言葉で閃いてしまったんだ。」

うつむくErsterSpieler。

そして、またゆっくりと話し始めた。


「最初は大きな機械だった。

 病室に物々しい機械と、沢山のセンサー、そしてヘルメット。」


「全部をセットされた後、

 頭痛がしたり、眩暈がするかもしれない

 と言われ、気が付いたら見たことのない場所にいたんだ。


 何も無いだだっ広い空間。

 君達も見ているだろう。あのチュートリアルの時と同じような場所だよ。

 そして、目の前には無機質な人の形をした物体。

 でも、私はそこに ”立っていた” んだ。」


「動けはしないけど、周りは見渡せた。

 そして目の前の物体が、語りかけてきた。」


 「ゴメンネ イマ ハ マダ ウゴク コト モ デキナイ

  デモ ハナス コト ハ デキル ハズダヨ」


 「ア アー エ ナニコレ」


 「ヨカッタ ウマク イッテルネ」


「これが、あたしと君に埋め込まれているチップの最初の姿さ。」

顔を上げたErsterSpielerは、少しだけ悲しそうな顔をしていた。



「難しいことは、あたしには分からない。

 脳波を読み取ったりなんだりで実現してたらしい。

 そこから、あたしはその機械を、もっと良いものにするための

 実験に付き合うようになった。」


「病院から、別の場所に移った。

 ちゃんと両親の承諾も得てたんだぜ。

 実験に付き合うことの謝礼金だって支払われた。

 少しでも親孝行できたのが嬉しかったよ。

 何より、ずっと正美さんと居られるのが嬉しかった。」


「あの頃の正美さんが一番素敵だった。

 あの機械をより良くするため、ものすごい情熱を傾けていたよ。

 あたしが少しでも楽しい人生を感じられるようにしたいと言ってくれていた。

 そして完成すれば、あたしだけじゃなく

 あたしと同じように苦しんでいる世の中の人に

 同じ経験をしてもらえるようになると。」


「あたしを人体実験のようにしてしまって申し訳ない

 と、いつも言っていた。

 でも、あたしはそんなこと全く感じていなかったんだ。」


「日々あたしの世界は広がった。

 何もなかった空間には木々が生い茂るようになった。

 天を仰げば青空が広がった。

 無機質だった物体も人の姿を取り、

 会話をする声も、まるで人のようになった。

 足を出せば体は前に進んだ。

 隣を見ると彼がそこにいた。」


「7年かかったけれど、彼はあたしの希望を叶えてくれたんだ。

 唯一足りなかったのは、繋いだ手に感じるはずの彼のぬくもりだけだったな。」

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