第6章 第13話

「まいった!最後の連続攻撃、あれはなんだい!

 全く手も足も出なかったよ!」

『あれが、俺の奥の手です。

 俺だけでなく、装備を貸してくれたり、練習に付き合ってくれたり。

 ここにたどり着くまでに助けてくれた、恋人と友人達全部の力です。』


「すげーな!かっこいいな!

 負けても嬉しい戦いってのは本当に久しぶりだ!」

『ええ、本当に楽しかった。心の底から楽しかった。

 でも、あなたの戦績に傷をつけてしまうのは本意では無かった。』

「いいんだいいんだ。あんな熱い戦いができたんだ。

 この1敗はむしろ誇れる傷痕だよ。」


「あっ!スピッ!アンクレットを私に!」

Seregranceが後ろから声を上げる。

「今ならまだ間に合うから!はやく!」


言われた通りSeregranceにトレードを開き、アンクレットを渡…せない。

装備を外していなかった。


「何してるのよスピ!はやくっ!!」

『ちょっとまって。装備したままだったんだよ。今外すから。』

メニューを操作して装備を外していると、Seregranceの声が続く。


「アイテム奪取メニュー決定もキャンセルもしちゃダメよ!

 それであと10秒くらい稼げるから。」

『あ、ごめん。メニュー操作するのに邪魔だったからキャンセルしちゃった。』

「バカっ!!!

 エアスタさんが蘇生ポータルに転送されるまでの30秒以内に

 私のスキルが使えればっ!」

…そうかっ!1日1回は戦績悪化なしの蘇生が使えるのかっ!


しまった。あと15秒くらいか!

奪取メニューさえキャンセルしてなければ、

転送までのカウントダウンも始まらなかったのに!

俺のバカっ!!!


急いで外し終えたアンクレットをSeregranceにトレード、

決定ボタンを連打する。

あと10秒。


「焦るな、焦るなわたし」

アンクレットを受け取ったSeregranceがメニューを操作する。

あと5秒。

間に合え…間に合え!

「command use skill slot no1 end!」

Seregranceの指が複雑に動く。


「エアスタさん、はいを選んでっ!」

Seregranceが叫ぶ。


「え?あ、はい。」

いままさに転送されようとしていた、その直前。

Seregranceの迫力に気圧されたように、ErsterSpielerの手が動く。


横たわっていたErsterSpielerの身体が立ち上がる。

「良かった、間に合ったー…」

Seregranceが空を見上げ、大きく息を吐き出す。



一連のやりとりが理解できないHoneySword。

「死者蘇生では、どのみち戦績は悪化します。

 あなたがたがエアスタ様の事を想って動いてくれたのは理解します。

 ですが…残念ながら」

「うわ、すごいな。これも君たちの奥の手なのかい?」

蘇生の終わったErsterSpielerの声。


3875勝 9敗

なんとか戦績は守れたようだ。

ErsterSpielerの姿を見て、少しだけ状況を理解したらしいHoneySword。

なんだか泣きそうな顔で皆を交互に見ている。


『これは彼女の奥の手ですね。

 俺はすっかり忘れてましたよ。』

「私も使うのは初めてだったから、直前まで忘れてたわ。」


「あたしはさ。本当に戦績は気にしてなかったんだ。

 だから、君との戦いが終わった後はすごく満足してた。

 でも、今こうやって自分の数字を見たときに、

 どこかほっとしたような気持ちを感じたのを否定できない。

 自分で思っていたよりも、この数字に思うところがあったのかな。」


「君と全力で戦って破れたことは間違いないし、

 この1敗が誇れる傷跡だと想っているのも間違いない。

 だから、自分のこの感情は整理ができていないんだけれど、

 ひとまず今はお礼を言っておきたい。

 あたしの戦績を助けてくれてありがとう。」

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