第6章 第2話

ギルド本部を出て、第8エリアに戻る。


「うげっ」

エリアに戻った瞬間、ドリッピーがうめき声をあげる。


「あら、これはこれは。有名人のフィーアトさんじゃないですか。」

まるで偶然出会ったかのような挨拶。


「全く誰のせいだと思ってるのよ。」

相変わらずSeregranceの声は険しい。


『まさか、あれからずっとここで張ってたのか。』

声の主はHoneySwordだった。


「まさか。

 10日も見張り続けるなんてできる訳ないじゃないですか。

 たまたまですよ、たまたま。」

さすがにそこまで執念深くは無かったか。


「何人かの有志で交代しながらだったので。

 たまたま私の番だっただけです。」

『す、すごい執念だな。』

前言撤回だ。



「やっと引きこもりも終わりですか?」

『ああ、これから先のエリアに進むよ。』

「ふむ。逆走した意味もあまりありませんでしたし、

 私もまたエリアを進めなければいけません。

 あなたがたに同行させてもらっても良いでしょうか。」

内容を吟味するより先に、Seregranceの反応が気になり様子を見てみる。


「監視するのも、同行していれば探す手間が省けますし。」

追い打ちかけやがった。


「認める訳ないでしょう!」

ほら、やっぱりな。

「なんていう反応を楽しみたくて言ってるのよねぇ。別に同行しても構わないわよ。」

おや、予想外の反応だ。


「あれ?セレさん絶対嫌がると思ったのに。いいの?」

俺と同じ予想をしていたのか、ドリッピーがさらに尋ねる。


「どうせ断ったって監視するんでしょうし!

それなら同行してる方が、陰でコソコソされるよりよっぽどマシなんじゃないかしら。」


Seregranceが良いと言うなら拒否する理由は無い。

元々過激で知られるギルドのマスターなのだ。

今後、色々なプレイヤーから絡まれることが予想できる中、

HoneySwordがいることで避けられる戦いがあるかもしれない。


HoneySwordがいることで降りかかる災難もあるかもしれないが。


『俺は特に反対する理由は無いかな。リッピーはどう?』

「僕はそもそもスピセレ夫婦のお手伝いしてるだけだから、2人が良いなら。」

『リッピー個人としては?』

「何考えてるか分かんないから怖い!」

「あら、酷い言われようですね。見たまんまの穏やかな性格ですよ。」

「ほら、怖い!」

やれやれ、珍妙なパーティーになってきた。



『さて、足止めの理由も無くなった事だし。

エリア進めようか。』

「はいはーい。」

「そうね。それじゃダンジョンまでの道すがら、ハニーソードの略称でも考えましょうか。」

「…略称?」

HoneySwordが怪訝な顔で問いかける。


「えぇ。スピ、リッピー、私がセレ。みんな略称で呼んでるのよ。あだ名と言い換えても良いわ。」

Seregranceが、順番に指さしながら説明する。


「あぁ、そういう事であればハニーと」

「ニーソ、なんてどうかしら。」

涼しい顔のまま、Seregranceがかぶせる。


「なっ…何故そこで切るんですかっ!」

今までに見たことのないうろたえ方を見せるHoneySword。


仕掛けていったSeregranceに、ドリッピーが呼応する。

「ニーソさんね、オッケー!

 あ、でもニーソさんって言いづらいなぁ。

 ニーさん?兄さん?」

「普通は、ハニーかソードでしょう!?」

対戦するよりよっぽど効いてるんじゃないだろうか。

「ニードっていうのもありね。」


『こうなったら、もう逃げ道は無いからな。

 覚悟して諦めるんだな。』

HoneySwordにむかって囁く。


「せめて…ニードにして下さい。」

敗北宣言。セレリピの完封勝利だ。

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