第4章 第21話

ドリッピーの予想通りHoneySwordが待ち受けていた。

いや、予想以上だろうか。

宿屋の入口を取り囲むように、ざっと見て20人以上。


「あなたには色々とお話しを伺いたいのですけれど、

 お時間よろしいしかしら?」


『えーと…わざわざ俺を勧誘するために、みなさんで逆走を?』

「誰が勧誘なんかするかよっ!このチート野郎がっ!」

取り巻きの1人が睨みつけながら叫んでいた。


あぁ…明るい未来は消えた。

というか暗い未来しか残っていない。


「おい、今は私が話しているだろうが。

 邪魔をしに来ただけなら、今すぐ消えろっ!」

今までのおっとりした雰囲気はどこへやら。

叫んでいた取り巻きをHoneySwordが一喝する。


「大変失礼しましたー。全く。

 話すにしても順序を考えられない馬鹿は困りものですねー。」

『こっちは、さっきの一言で大体の用件が分かったからね。

 手短でありがたいよ。』

「こういった場合、その用件を会話の中で探っていくのが

 醍醐味でしょうにー。」

分からなくは無いが、そういうのはもう少し穏便な場面でお願いしたい。


「まぁ、話が手っ取り早くなったのは間違いありませんね。

 ViertenSpieler…フィーアトさんと呼びましょうか。

 別にどこか片隅でチートを使って暴れているだけならば、

 誰かの通報でひっそりと消えていくだけだったでしょうに。

 よりによってエアスタ様の名前に似せている上に、

 エアスタ様を侮辱する意図が見え見えのその戦績。

 さすがに見逃せません。」

取り巻きの連中は、当たり前だといった風にうなずいている。

チート疑惑はともかく、この戦績すら侮辱のためと言われると

親衛隊というより狂信者の集団のようだ。


「既に運営への通報は済ませていますので、

 間もなく消える存在ですが

 その前にきっちりと謝罪していただかなくては。」


『しまった!その手があったか!』

そうか、何か色々やってアカウント停止に持ち込めば

強制ログインされない状況になったかもしれないのか。


「あなたが何考えてるかは分かるけど…今更よねぇ?」

『今更だよなぁ。』

さすがにこれだけ時間を費やして、ErsterSpielerに話も聞かずに

アカウント停止を試してみる気になれない。

今更まっさらなキャラクターで強制ログインが再開してしまったら

さすがに心も折れそうだ。



「私を無視するんじゃないっ!」

さっきまでの穏やかに見せかけた話ぶりはどこへやら。

険しい顔つきでHoneySwordが叫ぶ。


『おっと失礼。謝罪だったっけ?

 チートとやらに心当たりは無いし、

 エアスタさんを侮辱する気も無い。

 という訳で遠慮しておくよ。』


「ふんっ、白々しい。今ここで逃げたところで、

 お前のアカウントが停止されることは間違いないんだっ!

 今お前がここで誠意のこもった謝罪をするならば、

 その動画の公開をもって、これ以上の追求は勘弁してやる。

 それを拒むなら、アカウントが停止された後も

 それなりの覚悟をしておけ!」


『はぁ…面倒だな。

 あんたら既に運営に通報してるんだろう?

 その結果が連絡されるのはいつ頃なんだ。』


「明後日には結果が出るだろう。

 それと同時にお前はアカウント停止だ。」


『じゃぁ、こうしよう。

 明後日まで、俺は普通にプレイを進める。

 第8エリアでアクセサリ装備を解放するクエストを進めるから

 このエリアから進む事は無い。

 で、明後日の…そうだな、19時くらいであればいいかな。

 俺は変わらずダンスを続けているし、

 運営から俺の無実を証明する回答も

 そっちに届いているころだろう。

 19時にまたここで会って話をしようじゃないか。』


「ふん、馬鹿馬鹿しい。お前がアカウント停止されれば、

 ただ謝罪から逃げただけになるだろう。

 私はお前がどうかではなく、

 エアスタ様の名誉を守ることにしか興味が無い。」


「じゃぁ、明後日の19時に彼がアカウント停止されているなら

 私が代わりに謝罪しましょう。

 何なら私が彼の代理人だという宣言も

 証拠として動画で残しておいたらどう?」

Seregranceが横から割り込んでくる。


「ふん、お前だってそんなわずかな戦績でこのエリアまで。

 このチーターに付いてきただけじゃないか。」


「この際、私の戦績はどうだっていいでしょう。

 少なくとも私はアカウント停止されることは無いわ。

 それなら、明後日の19時に私しか現れなければ、

 その時にしっかり謝罪でもなんでもしてあげるわよ。」


「いいだろう…今日の会話も全て録画してあるからな。

 今更無かったことにしようとしても無駄だぞ。」


「そっちこそ、彼の無実が証明されたら、

 きちんと謝ってもらいますからね!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る