第4章 第19話

「私が何本も何本も強化しては消滅を繰り返して、

 やっとたどり着いた至高の逸品なのよ!」

「これセレさんが作ったのか…すげぇ…」

「強化しながら強化値による攻撃力の変化を調べてたんだけど、

 当然ながら強化値が大きくなれば大きくなるほど、

 元の攻撃力にかかる倍率が大きくなるわ。」

「うん。それは知ってる。

 +25くらいまでは攻略サイトにも倍率が書かれてるね。

 +10で1.5倍、+15で2倍、+20で3倍、+25で4.5倍だっけ。」

暗記でもしてるのか、スラスラと答えるドリッピー。


「そうそう。

 それで、それ以降の倍率をメモしておいたんだけど、

 +30で7倍、+35で10倍、+40で14倍になるわ。」

「14倍…って初心者武器の攻撃力でどれくらいなの?」

『初心者武器だと2100だから、リッピーの武器の倍近いね。』

「うへぇ…初心者武器でも馬鹿にできないんだね…」


そのままSeregranceが続ける。

「ちなみに+41以降の倍率はもっとすごいわよ。

 +44までは1つづつ、+45から+49までは2つづつ倍率があがって

 +45で20倍、+49で28倍になるわ。」

「28倍…ちなみに…」

「攻撃力は4200ね。」

「はぁ…すでに意味分かんない。」


「最終強化の+50だと、

 そこから一気に増えて40倍になりまーす!」

ドヤ顔のSeregrance。

「無理だーっ!」

天を仰ぐドリッピー。


「意味わかんない強さの理由は分かったけど、何それ!

 そこに辿り着くのにどれくらい時間かかったの!?

 ずーっと初心者エリアだったんでしょ!?」


『これは理解してもらえない部分だと思うから

 あえて話してないんだけど、

 どうしてもダンスを進めないといけない状況になってね。

 ただ、さっきも言った通りキャラクターは作り直せない。

 だから酷く負けが込んだ状態から進めなきゃいけない事態を

 なんとか打破するために頑張った結果かな。

 別にやりたくて19か月も初心者ダンジョンを

 周回してた訳じゃないんだよ…』


「ジュウキュウカゲツ…ボクニハムリダ…」


ボフッ


ドリッピーがベッドにうつ伏せに倒れ込んで呟く。

そのまま顔だけこちらに向けて尋ねてきた。

「で、その進めなきゃいけない状況ってのが、

 ランキング1位のエアスタさんに会って話す

 って事に繋がるってわけ?」


『そうだね。正直なところ、

 ダンスはある目的を達成するための手段であって、

 これで強くなることや、最新エリアに辿り着くことが

 そもそもの目的じゃないんだ。

 エアスタさんと話す事も、ランキングが1位だから

 とかじゃないんだよ。

 たまたま目的のための重要な手がかりを、

 エアスタさんが知ってるかもしれない、

 というだけなんだ。』


「うーん、すごい分かりづらいけど…リアルで重要な事があって

 それをエアスタさんが知ってるかもしれないから

 なんとか話しをしたい。

 リアルじゃ連絡手段がないから、

 ダンスで話しかけられるところまで

 頑張って進むことにした。

 でも戦績が酷かったから、超頑張った。

 こういうことかな?」

『正解!』

「なんか回りくどいことしてない?」

『自分でもそう思うよ。

 でも、色々足掻いてみたけどどれもダメで、

 これくらいしか手段が残ってないのが正直なところなんだよ。』

「スピさん…なんかめんどくさい事になってんだね…」


「ともかく!事情は分かった!強さの理由も分かった!

 どっちも教えてくれてありがとう!

 リアルの問題も、僕が手伝える事なら手伝うから

 必要なときは言ってきてね!」

ベッドから起き上がったドリッピーは、もう元気も復活したようだ。



「でさ。さっきボス戦始まる前にスピさん何か言ってたよね。

 自分の事を知ってる人がいたとかなんとか。」

『あぁ、そうだった。

 HoneySwordって名前のプレーヤーが居たんだよ。

 うっかり+50メイスで門番殴り倒すのを見られてた上に、

 どうも元々俺の事を知ってたみたいで、

 俺を見つけられてラッキーだった、とか言ってた。』


ドリッピーは若干考え込んだ後、口を開いた。

「スピさん。

 エアスタさんに一気に近づけるか、

 ものすげーめんどくさい事になるか、

 どっちかになるんじゃないかな。」


一拍置いてドリッピーが続ける。

「たしかHoneySwordって、

 いくつかあるエアスタさんの私設親衛隊の中でも

 相当過激なギルドのマスターだったはずだよ。」

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