第3章 第12話

『さっ、もうそろそろですよね。』

「あ、ほんとだ。もう1時間経ちますね。

 話してたらあっという間だなぁ。」

ザッ、ザッ…

4人パーティーがボス戦の準備を始めたところで、

通路から灯りが見え、足音が近づいてくる。

どうやら、他のパーティーがボス部屋に来ているようだ。

『他のお客さんみたいですね。

 これでみなさんが居なくなっても話し相手に困らないかな。』


ザッ、ザッ、ザッ

「うーん、6人か。ちょいめんどいね。」

やってきた3人パーティーの先頭にいた小柄な男がつぶやく。

「別に大して強そうなのはいないし、

 1人は数える必要すら無いくらいの雑魚だし、余裕だろ。」


何の話だと思っていると、小柄な男が一歩前に出て話す。

「次ボス沸いたら俺らが入るから。

 お前ら勝手に入るんじゃねーぞ。」


「はっ?俺らももう2時間待ってんだよ。」

「そうだよ、ちゃんと順番待ちしろよ。」

4人パーティーが文句を言う。当然だ。


「はいはい、知ったこっちゃねーわ。嫌なら殺す。

 負け増やしたくないなら道空けろ。」

3人組を見る。


後ろの2人のうち、向かって右のデブは Zackey。ザッキーと読むのか。戦績は30勝8敗。スキルアイコンは銀。

もう1人のスキンヘッドは †翔†。ショウだろうか。戦績は34勝6敗。スキルアイコンは銀。

そして先頭の小柄な男は、戦績が52勝5敗。スキルアイコンが金。名前が Linehalt。…リネ…ライン…ハルト?

『ぶふっ…ラインハルト…

 スペルも間違ってるし、名前負けしすぎ…』

金髪の銀河の英雄を思い出し、思わず吹き出す。

「あぁっ!?雑魚が!殺す!」

金髪でも英雄でもないラインハルトが、いきなり斬りかかってきた。


ガキンッ

盾で受けつつ、Seregranceに話しかける。

『セレ、後ろの2人がきたら牽制よろしく。

 あっちの4人に攻撃させないようにしといて。』


そして4人パーティーに向かって伝える。

『ボス部屋空いたらさっさと4人で入ってくれ。

 1人でも対人戦の状態になっちゃうと、

 ボス部屋入れなくなるだろ。

 とりあえずこの3人は相手しとくから、

 あんたら4人で部屋に入って扉しめてくれればいいから。』


ボス部屋は、パーティー内の1人でも対人戦状態だと、中に入れない。

30秒間逃げ続けて対人戦状態を解除するか、相手を倒し切るかしないとボス戦に入れないし、

仮にパーティーメンバー3人が中に入った状態で、残り1人が対人戦に突入すると、

先に入っていた3人はダンジョンの入口に転送されるという酷いオマケ付きだ。


「えっ、でもそれじゃスピラーさんが…」

ガキンッ

ガキンッ

相手の剣を受け流しながら話を続ける。

『こいつら、少なくともあんたらよりは対人に慣れてると思う。

 まともにやり合ってもあんまり良い事無いよ。

 その点、俺は対人だけは抜群に慣れてるからね。』

まぁ、これは嘘なんだが、この戦闘数だけで言えば間違いでは無い。


[ボスが出現しました]


そうこうしている間にシステムメッセージだ。

後ろの2人が4人パーティーに向かって走り出す。

そこに槍を持ったSeregranceが行く手を阻む形で攻撃を繰り出す。

『はやく!この狭いエリアに大人数居る方が厄介だ!』

「わ、わかりましたっ」

4人パーティーがボス部屋の扉に手をかけ、扉が開いていく。


「待てやコラァッ!」

翔が4人に向かおうとSeregranceから距離を取る。

『セレッ、あっちを頼む。』

適当に受けていたラインハルトの剣を狙い、メイスを叩きつける。


ガキンッ

狙い通りラインハルトの剣を弾き飛ばす。

これで装備硬直含めて10秒くらいは無力化できる。


すぐさまザッキーに向かうが、すでにボス部屋目掛けて走り出そうとしていた。

即座に盾を投げ捨て、音声コマンドを入力。

『command equip wepon slot no6 end』

弓に持ち替えザッキー目掛けて矢を3連射。


ザシュ、キィンッ


1発外したが、1発はクリティカルヒット。ザッキーの足が止まる。

盾を拾い上げザッキーに走り寄りつつ、音声コマンドを入力。

『command equip wepon slot no5 end』

牽制目的なら槍が便利だ。

ザッキーを追い抜き、Seregranceと並んで扉の前に立つ。


もう間もなく扉は開き切る。

4人が中に入ってしまえばこっちのものだ。

「てめぇ!何しやがる!」

翔が叫ぶ。

「おい、ザッキー!あの4人誰でもいいから殴るんだよ!」

呼ばれたザッキーは、怪訝な顔。

「俺今何された?大剣で殴られたりしたか?」

「あぁ?弓で撃たれただけだろうが!

 それよりさっさとやるぞ!」

走り出そうとする翔に向かって、Seregranceが槍を繰り出す。


ゴゴンッ

扉が開き切った。

「翔!ザッキー!ダメージ貰っても良いから

 その2人を無視してあっちの誰かを殴れ!」

ラインハルトが駆け寄りながら叫ぶ。

『早く入って!』

「はい!すみません、入ります!」

駆け抜けようとする翔とザッキー。

Seregranceは、翔の足を槍で狩る。

見事軸足にヒットし翔が転倒。


ザッキーには牽制の槍を突いておいたが、横に大きく躱されそのまま駆け抜けられそうになる。

横に動く相手には、矢も当てづらい。

『command shortcut one end』

メイスに持ち替え、こちらも最短距離を走りザッキーとぶつかるだろう地点でメイスを大きく横振りする。


ザシュッ

バンッ


ザッキーが一撃で倒れると同時に、4人がボス部屋に入り、扉が閉まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る