第2章 第18話
15880周目。
結局あのメイスはまだ強化していないらしい。
絶対的な予感が来るまでとっておくそうだ。
強化に関しては、小夜香の方が圧倒的に経験値が多いので、その予感に任せることにした。
『さて、日課やってくる。』
「行ってらっしゃい。
今日はなんとなく強化できそうな気がするわ。」
『お、ついにやるのかー。
まぁ、また装備も材料も集めてくるから、
消滅しても気にしないで行こう。』
最近はスキルの為なのか、強化のためなのか、ダンジョン周回の目的が分からなくなってきている。
が、苦痛なく消化できているのがせめてもの救いだ。
周回が始まってかれこれ19か月。
強制ログインが始まってからだと31か月、もう2年半になる。
生活のリズムが出来上がっているので、
今日すら見えないと、もがき苦しんでいた時期が嘘のように穏やかだ。
その分、惰性でこの生活を続けている気がする。
どこかで区切りをつけて先に進まないと、本当に小夜香がおばあちゃんに成りかねない…
★★★★★が実装されていない、
もしくは初心者エリアでは入手不可能に設定されている可能性だってある。
これが今日の30週目だ。この周回が終わったら、一度真面目に相談してみるか。
『command use skill slot number two end』
ダンジョン内の目につく敵を倒しながら、発火能力で狙った位置に火をともす。
大雑把な位置でよければ簡単に出せるのだが、ピンポイントで狙った場所に出そうとすると
これが中々難しく、周回ついでに練習するのも日課に組み込まれていた。
今では、敵の股下、顔の目の前といった場所でも5㎝誤差のレベルで出せるようになっている。
「ねぇ。」
ボス部屋を前にして、小夜香からフレンドチャットが届く。
「なんかね、強化成功する予感がするの。
…やってみていいかしら。」
『おっ、ついに強化の神が舞い降りてきた?
いいよいいよ。やっちゃおう。』
「ありがとっ…ほら、成功した!」
『いや、早いなっ!準備万端だったのか。』
「また成功っ!」
『え、なに続けてやってるの?』
「またまた成功!」
『ちょっ、どうなってるの?』
「あっ…」
『…』
「…」
『えっ、なにっ、急に黙らないで。どうなってるの?』
「えっとね、+49にはなったんだけど…
次は絶対に失敗する予感があるわ。」
『じゃ、じゃぁ、一旦やめようね?落ち着いてね?』
展開が早すぎて頭が着いて行ってない。
さらと+49になったとか言ってたけれど、なんだ?あのメイスが成功してるのか?
『えーっと…今どうなってるの?』
「今は、また予感が来るまで他の武器強化しまくってるわ。」
『い、いやそうじゃなくて、+45のメイスはどうなったの?』
「+49で止まってるわ。+50まで一気に行きたかったのにー。」
ようやく少し頭が追い付いてきた。
が、小夜香の思い切りの良さというか躊躇の無さには毎回度肝を抜かれる。
「ごめんね、周回中だったわよね。また行ってらっしゃい。」
『切り替えもはやいな…
こっちはようやく整理できたところだっていうのに。
それはそうと、もうすぐ日課が終わるんだけど、
終わったら一旦今後について話しをしたいんだ。』
「分かったわ。じゃぁ、先にログアウトしてリビングで待ってるわね。」
会話が終わったところで改めてボス部屋突入だ。
一気に部屋の真ん中に駆け寄る。
出てきたサイクロプスが吠え終わるまで待って一撃。
以前、出てくる途中に攻撃したら弾かれてしまった。
多分吠え終わるまでは無敵扱いなんだろう。
そのまま自分を攻撃する準備をする。
スキルの一覧をざっと確認して、腹をかっさば
『!?!?』
ギリギリで踏みとどまった。
危ねぇっ!完全に流れ作業で自分を殴るところだった!
★ 攻撃力向上3%
★ 回復力向上1%
★ ダメージ軽減1%
★★★★★
★ 状態異常抵抗3%
『あ、やっ、で、出たぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』
★★★★★スキルがリストに並んでいる!!!
小夜香に連絡だっ!
って、フレンドリストにいねぇ!
ああ、そうか、さっき先にログアウトするって…
ここでログアウトしても同じスキル出るんだよな…
でも万が一★★★★★が対象外とかだったら嫌だ…
もう1度16000周を繰り返す気力はきっと無い。
すまんっ、小夜香!事後報告にするっ!
これまでにない程慎重に、★★★★★スキルを選択する。
「本当にこの固有スキルで良いですか?」
大丈夫だよな、間違いなく★★★★★選んだよな。
何度もキャンセルしてはリストから★★★★★を選ぶ
という動作を繰り返し、満を持して固有スキルを決定する。
「おめでとうございます!初めての固有スキルを手に入れました!
これで初心者エリアは卒業となります。
さぁ、ここからがDance with The Weaponの本番ですよ。
楽しんで下さいね。」
景色が遠のき、見慣れない街の中に立っている。
きっと初心者エリアを卒業して、第1エリアに移ったってことだよな。
だが確認は後回しだ!
メニューを殴りつけるようにログアウトした。
**********
『出たっ!ついに★★★★★が出たぞっ!』
リビングにいる小夜香に駆け寄りながら、叫ぶように伝える。
「えっ!?うそっ!?ほんとに出たの!?」
驚いて椅子を倒しながら立ち上がる小夜香。
『出た出た!やっと出たよ!』
「きゃーっ!おめでとーっ!」
飛びつくように抱き着いてくる小夜香を受け止めて、二人ではしゃぐ。
「もーっ!
深刻な顔で話があるとか言うから、ギブアップなのかと思って
どうやって励まそうかすごく悩んでたのに!
なによっ!もうっ!」
ちょっと怒って見せるそぶりだが、笑顔が隠し切れていない。
『いやいや、本当は★★★★★を諦めようかって話をしようとおもってたんだよ。』
「やっぱりー!」
ひとしきりはしゃいでから、やっと落ち着いて席に着く。
「しかし、長かったわね。
周回初めてどれくらい経ったのかしら。」
うっすらと目に涙を浮かべながら小夜香がつぶやく。
『19か月だね。
始めたころには、下手すると1年かかるかもって言ってたけど1年半以上かかってるよ。』
「でも、私がおばあちゃんになる前で良かったわ。」
と言うやいなや、小夜香が勢いよく椅子から立ち上がる。
「来たわっ!」
そして寝室に駆けていく。
何が来たのか分からないまま、少しリビングで待ってみるものの戻ってこない。
寝室に様子を見に行くと、ベッドに横たわってデバイスを付けた小夜香の姿。
…あれ?ダンスにログインしてるのか?
『えっと…俺もログインした方が良いの?』
そっと訪ねてみるが、当然返事はない。
ログインするとまた3時間囚われの身となることを考えると、少しためらってしまう。
悩んでいるうちに小夜香が飛び起きた。
「私もできたわよっ!」
『…何が?』
「メイスッ!+50にしてきたのっ!」
今日が2人にとっての本当のスタートライン。
これまでは、後ろ向きにひたすら進んで来た。
けれど、ここからは違う。ゴールに向けて、やっと全力疾走できる。
力ずくで攻略するぞ、Dance with The Weapon!
杉田正美に辿り着く手がかりを見つけてやる!
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