第1章 第18話

HPが0になり横たわる自分の姿を、半透明になった体で見下ろしていた。

頭上には30秒からカウントダウンされる数字。

「すんません、そっちも初心者だったんすね。

 俺何度か負けてて少し慣れてたんで、

 一方的になっちゃいました。」

『…これ話しても聞こえるのかな。』

「ああ、見えてるし、聞こえてるっす。

 幽霊状態っていうらしいっすね。

 すんません、これでやっと初心者エリア卒業できそうっす。

 ありがとうっした。」

『いや、卒業の助けになったなら、なによりですよ。』

「すんません。そっちも頑張って下さい。」

無言で手を上げて応えたあと、そのままバイバイと手を振る。

…頑張って…か。少なくともこの世界で頑張る気にはなれないな。


カウントダウンが0になると死体と半透明の体が同時に消え、蘇生ポータルに転送された。

自分の名前の下に表示される 0勝1敗 の文字。

闘技場の入口に戻ると、先ほどの相手には 1勝4敗 の文字。

今まではプレーヤーの名前しか見えていなかったのだが

気が付くと皆、名前の下に戦績が表示されるようになっていた。


目を凝らして周りを見てみると、0勝0敗や1勝0敗のプレーヤーが多い中、

0勝5敗だとか0勝7敗だとか、負けが込んでいるプレーヤーがいた。

そんなプレーヤーに声をかけてみる。

『作り直しのプレーヤーばっかりで、

 対戦に勝てなくて困ってないですか。』


**********


「なんでこんな事してるんですか?」

『なんでだろうね。まぁ、ちょっとした事情ってやつだよ。』

「そうですか…」

『じゃ、手続き終わったから。あとは適当に倒しちゃって。』


**********


闘技場で負け続ける日々を送っていると、段々と名が売れてきてしまった。


- 対戦を申し込めば勝たせてくれるらしい。


こうなると、どうやって負けるか、ということは考えなくても良くなる。

申し込まれたら対戦を受け、ただ闘技場でぼーっと突っ立っているだけ。

相手が勝手に終わらせてくれるので、後はもう人間観察みたいなものだ。


相手が初心者なのか、作り直しのプレーヤーなのかも気にしない。

嬉々として斬りかかって来る者

本当に倒してしまっていいのか考えて動けない者

攻撃しながら話しかけて来る者

色んなプレーヤーの行動を見ながら時間が過ぎるのを待っていた。



1か月もすると、1日の生活が強制ログインを前提に回り始めていた。

3時間が経過しログアウトすると、安全に動ける1時間の中で

食事・風呂・トイレ・軽い運動や散歩など、

時間帯にあわせてやるべき事をやってしまう。

そして1時間が経過すると、強制ログインに備えて椅子やベッドの上で過ごす。


興信所に依頼している杉田医師の調査結果の確認をしたり、

様々なSNSやアンダーグラウンドなWEBの世界で捜索をしたり。

だが相変わらず杉田正美という名の医師は見つからない。


とても仕事に復帰できる状態でもなく、休職の延長手続きも行った。

脳神経科の高山先生が説明してくれたことも幸いしたのか、

延長はすんなりと受け入れてもらえた。

会社は「病状が回復するまで何年でも待つ」と言ってくれたが…

さすがに何年もこの状態が続くのは心が持たないだろう。一刻も早く解決せねば。

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