第1章 第15話
「ふーっ!もうちょっとで3時間かなー?
だいぶ上がったねー!」
『ですね。熟練度が20を超えてます。』
「最後のほうなんて、普通に戦ってるような感じで
剣振ってたもんねー。
あんな風になると、型っていうのも理解できるかも。
キャンセル出来るようになってる行動も、
いくつか増えてると思うんだよねー。
5あがるごとに増えるのかなぁ?探してみないと。」
結局、2時間以上ドリッピーの熟練度上げに付き合って過ごしていた。
3時間経ったらすぐにログアウトしたいことを伝えて、
少し早めに切り上げてもらったところだ。
メニューを開きっぱなしにして常に見えるようにしているが、
ログアウトはまだできない。
「スピさんも気付いたら教えてねー。ボクだけに!」
『はは、分かりました。』
「それじゃボクは、ダンジョンでも行って色々試してくるよ。
初心者エリアのダンジョンは
パーティー単位で個別に作られるタイプだから、
他の人に見られる心配が無いからねー。
スピさんの場合は、ダンジョン入れるようになるまで
もうちょっとクエスト進めないといけないけど、
ダンジョンに行けるようになったら、
ダンジョンの中で色々試したい事試してから
初心者エリアを卒業する方のがオススメだよ。
そのうち分かると思うけど、
初心者ダンジョンは一度クリアしちゃうと
初心者エリアまで卒業させられちゃうから気を付けてねー。
それじゃ行ってくるねー。」
ドリッピーは、話したい事を話し終わったのか、そのまま街の入口の方に走っていく。
あっちにダンジョンの入口があるということか。
ログアウトはまだできない。
一人になると急に不安が押し寄せてくる。
本当に3時間でログアウトできるようになるのか。
自分の体は今どうなっているんだろうか。
また病院に運び込まれているのか。
さすがに地面に突っ伏したままでは無いと願いたい。
ログアウトはまだできない。
病院を出たのは15時頃だったろうか。
家の近くまで歩いていたからログインしたのが15時半とすると、今は18時半頃か。
気温も下がるような時間帯ではないから、最悪外に放置されていたとしても大丈夫だとは思うが…
ログアウトはまだできない。
怪我は悪化してないだろうか。
財布もカバンに入れっぱなしだ…盗られてると面倒だな…
クレジットの停止やら免許の再発行やら…
家の鍵もカバンの中か。くそっ!
ログアウトはまだできない。
ダメだ。どうしても焦ってしまう。
まだ3時間経っていないのか?
実はもう3時間過ぎているのに、他の条件をクリアできていないだけじゃないのか。
街に戻って色々試してみるべきか。
歩き出そうとしたその時、メニューの[ログアウト]が半透明から黒い表示に変わった。
「やっぱり3時間ってことか…」
よく分からなかったログアウトの条件が分かっただけでもマシなのだろうか。
ともかく、はやく自分の体の安全を確認したい。
殴りつけるように[ログアウト]を選択し、即座に[はい]に触れる。
景色が遠のくと、薄緑ではない見慣れた天井を見上げていた。
体を起こし、痛みがこないようベッドの端までゆっくりと移動する。
新調したばかりのクィーンサイズのベッドが、こんな時には恨めしい。
ベッドに腰掛け時計を見ると、やはり18時半だった。
キッチンからはわずかに物音が聞こえ、良い匂いが漂ってきている。
立ち上がりキッチンに移動する。
想像通り、小夜香が夕食の支度をしてくれている。
どんな台詞にしたものか若干迷い、声をかける。
『…ただいま』
その声に驚いたのか、ピクッと肩を震わせ、ゆっくりとこちらを向く小夜香。
泣き顔のような微笑みを浮かべながら
「…おかえり」
と声に出すと、涙のしずくがポタポタとこぼれ始めていた。
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