第169話 繚乱(4)

「でも。 ああやって誘ってくるってのは・・そういう対象として彼は見てるってことじゃないの?」



志藤は尚も続けた。



もう、やめろって・・。



もう一人の自分が言う。



「わかりませんけど。 でも、翔太さんはすごくいい人で。 自分のことを鼻にかけたりもしないし、気さくで優しいし・・」


ゆうこも戸惑いながら言う。



「つきあおうとか、思わなかった?」



もう、いいって!




「え・・」



ゆうこは志藤を見た。



志藤はそんな彼女の表情にハッと我に返って、自分でもわかるくらい顔が赤くなってきた。



「いや・・ゴメン。 余計なこと、」


彼女にそれを悟られたくなくて、すぐに背を向けて行ってしまった。




いったい彼女の口から


何を言わせようとしているんだ。



アホか。


彼と彼女がどうなろうと


おれには関係ないはずだ。





「あー、コンサート久しぶりだった。よかった、」



ゆうこは翔太に誘われたコンサートの帰りに、彼と食事に行った。



「よかった。 喜んでくれて。」


翔太はニッコリ笑う。




見た目は派手そうなのに、彼は本当に紳士で


あやふやなつきあいを承諾してくれた。




「もう12月ですね、」


ゆうこが窓の外を見ながら言う。



「何だか年取ると。 時間が経つのが速くて。」



「そんなに年じゃないでしょう?」


ゆうこはクスっと笑った。



翔太はそう言って少し考えた後、上着のポケットから封筒を出し、ゆうこの目の前に差し出した。



「え・・」




「叔父の会社が函館にホテルをオープンさせて。 そこがとても景観がいいらしくて。 年末に行こうと思ってるんだけど。 白川さん。 一緒に行かない?」



彼はゆうこを真っ直ぐに見た。




それは


函館行きの飛行機のチケットだった。



彼が何を言いたいのか。


そればかりを考えてしまった。



「きみと会うたびに。 ずうっと考えてた。 考えても、考えても。 もう、きみしかいないような気がして。」



ゆうこはチケットに落とした視線をゆっくりと彼のほうに向けた。



「ぼくと。 結婚を前提におつきあいをしてください。」




はっきりと


そう言われた。





もう、その後は


何をどうしていいのかもわからず。




「考えておいて。」



と優しく言われて、彼にタクシーを拾ってもらい乗せてもらった。




どうしよう。




ゆうこは苦しくなるほど


真剣に考えた。




翔太さんは


そんな風に


あたしのことを


思ってたんだ・・



頭が


混乱してきた。



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