第168話 繚乱(2)

しかし


ショックなのは


志藤の方かもしれなかった。




初めて


ゆうこへの気持ちを他人に吐露した。





『あなたを想って泣く、彼女が愛しくてたまらない』





もう


それしかなくて。





それが


彼女への恋心なのか


と言われたら



やっぱり


それはわからない。




自分の気持ちのどこかで


ものすごいブレーキがかかっている。




それを外すのが


怖い





そして



「白川さん、」



社にシルバーレコードの阿川社長の息子の翔太が仕事でやってきてきた。


廊下で会ったゆうこに声をかける。



「翔太さん、」



「ねえ、これウチのイベントのコンサートなんだけど。 良かったら行かない?」


と、チケットをゆうこに差し出した。



「え・・シルバーさんのコンサートですか?」



「ウン。 うちのアーティストたちは、ほぼ全員出るし。 豪華なコンサートになると思うよ。」



「なかなか手に入らないって評判ですね、」



「まあ、ぼくならね。 コレ、明日なんだけど・・ぼくも行くから。」



そこに志藤が通りかかる。




ん??




思わず隠れてしまった。




あれは・・


シルバーレコードの御曹司。



例の


白川さんに気があるという・・男か。




瞬時に理解した。




ゆうこは少し考えた後、



「ありがとうございます。 せっかくですから、行かせて頂きます。」


と笑顔で返事をした。




なんか


OKしてるし。




思わず聞き耳を立ててしまう。




「ほんと? よかったー。 終わったら、食事しましょう。 店も予約しておくし、」


翔太はホッとしたように言った。



「ありがとうございます、」



あれから


翔太は何度かイベントに誘ってくれたり、たまには食事を誘ってくれたり



友達でいい、と言ってくれたことを


きちんと守ってくれて、快く接してくれた。


ゆうこはそんな彼の誠実さに感謝をしていた。




彼と別れて、歩いて行くと曲がり角で志藤と遭遇してしまった。



「わ・・びっくりした。 どうしたんですか?」


ゆうこは胸を押さえる。



「あ・・いや。 ね、今のシルバーレコードの社長の息子?」


志藤は少々動揺しながら言った。


「え・・あ、ハイ。」



「彼から交際を申し込まれたって、ホントなの?」



志藤からいきなりそんなことを言われて、ドキンとした。



「なっ・・なんでそれを・・・」


思わず後ずさりした。



「や・・ジュニアが言ってたから・・」


「真太郎さんが?」



また、それも恥ずかしくて赤面した。



「そういう・・つきあいなのかなあ、とか。」



志藤は彼女から目を逸らす。



「いえ。 お友達としておつきあいしていきたいとお返事しましたから・・・。」


ゆうこはうつむいた。




何だか


志藤は


湧き出てくるものが抑えられなかった。


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