第135話 ピリオド(2)

「も~~~、会いたかった~~!」



真尋は絵梨沙を抱きしめる。


絵梨沙は志藤をチラっと見て、



「ちょ、ちょっと・・!」


真っ赤になって彼から離れようとしたが、それを許さないほど彼女を抱きしめていた。




「・・5分ほど。 出てきましょうか?」


志藤が呆れて言った。



「あ、そーしてくれる? でも、5分じゃちょっと足りねえなァ~~」


真尋は志藤を見てニヤっと笑った。



「真尋!! もう・・」


絵梨沙はそっと彼から離れた。




志藤はため息をついて、


「ま、いっか。 今日はもう帰れよ。」


と真尋に言った。



「え? いいの?」



「ま、たまには。 おれも社に戻るし、」


志藤はカバンを持って、スッと出て行ってしまった。



「す、すみません・・」


絵梨沙は申し訳なさそうに謝った。



「いや。 沢藤さんとも明日打ち合わせあるから。 9時には会社に来て、」


志藤はニッコリ笑った。



「ハイ、」


絵梨沙は嬉しそうに頷いた。





まあ


普段から忙しい二人だから


彼女が来たときくらいは


ゆっくりさせてもいいかな。




志藤は帰り道、そんな風に思った。




二人は


これからどんな道を歩くのか。



学校を出たら


別々の道を行くことになるだろう。


そのとき


二人はどうするのか。




非凡な才能を持った二人だからこそ


同じ未来が待っているのか


幸せをつかめるのか



今はまだ


何もわからなかった。





翌朝、絵梨沙は約束の9時ギリギリになって会社に打ち合わせにやって来た。



「す、すみません。 寝坊をしてしまって。」


と、走ってきたようで少し乱れた髪を直しながら志藤に詫びた。



「昨日来たばかりで疲れてたんでしょう。 まあ、落ち着いて座って。」


と、ニッコリ笑ったが。





どうせ


夕べは二人でいちゃついて


寝かせてもらえなかったんとちゃうか~?




などと考えてしまったり。




ま、でも。


美女は


美女やな・・。





ふと微笑んだ。



「こんちわ。」



南がやって来た。



「南さん、」


絵梨沙は驚いた。



「きみの写真集を制作するに当たって。 この人がきみのスタイリストをすることになったから。 この前の雑誌の撮影も評判良かったし、」


志藤は言った。



「南さんが?」



「ウン。 あたしもうれしい。 あたしも少しずつ仕事に復帰したいって思ってたし。 その一発目がエリちゃんのプロデュースなんて。」


「結婚式でお忙しいのに、」


「ううん。 ようやく仕事やる気になってきたかな~って。 それが嬉しいの、」


南は笑顔を見せた。




ゆうこの話によると


この明るい人が


一時は何もできないほど憔悴していたらしい。



真太郎と籍を入れた頃は、寝たり起きたりなほどで


ようやく


以前の彼女に戻ってきた、と言っていた。




志藤は目を輝かせて絵梨沙と打ち合わせをする南をぼんやりと見つめた。


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