第120話 ノクターン(2)
お話は現在です。
真尋は仕事先のNYからいきなり帰国して事業部にやってきますが・・・
「お・・おまえ・・帰ってくるの明後日とかやなかった??」
志藤は若干、ビビりながら真尋に言った。
「ちょっと遊んで帰ってこようかと思ったんだけど! 絵梨沙から電話があって!!」
もう
怖いとしか言いようがない顔だった。
「事業部、辞めるってホントかよ!!」
ことさらの大声で言った。
え・・。
それを知らなかった夏希と玉田と八神は驚いた。
志藤はギクっとしたが、
「・・も・・くるし。 離せっつーの! 今、メシ食ってきたばっかだっちゅーのに!!」
真尋の手を何とか振り払った。
「なんでおれに言わないの!? 絵梨沙に言って終わりかよ!」
彼のでっかい声が耳にビンビン響く。
「あ~~。 もうちょっと音量絞れっつーの。 ちゃんと言おうと思ったよ! おまえが帰ってきてから!」
志藤が耳を手で押さえながら言ったので、
真尋は気が抜けたように
「本気かよ・・」
しばし呆然とした。
「おれ絶対にヤダかんな!!」
真尋は子供のようにダダをこねた。
「おまえはもう別におれなんか必要ないやろ。 斯波もおるし、」
「斯波っちのことは、信用してっけど! そーゆーんじゃなくて! 別にここからいなくならなくてもいーだろっ!」
「会社にはいるよ。 ただ、ここにデスクがなくなって、秘書課に移るだけやんか、」
「そうじゃねーだろっ! あんたはここにいなくちゃダメだろ! ・・志藤さんがいなくなったらどーなるんだよっ!」
あまりの真尋の動揺ぶりに、
「ま、真尋。 落ち着いて。 まあまあ。 加瀬、 さっきお客さんからいただいたフルーツケーキあったやろ?それ持って来て。 紅茶と一緒に、」
南はとりあえず彼を落ち着かせようと、夏希に声をかけた。
「は・・はい、」
夏希は反射的に席を立つ。
「もうな。 おれがいなくてもここは十分回ってるし。 取締役の仕事も結構忙しいねん。 おれ、もうそんな仕事もしたくないし。」
真尋を応接室に何とか連れて行き、志藤と向かい合った。
「あのときのこと! 忘れたのか!?」
真尋はテーブルをバンっと叩いた。
「あ?」
夏希が恐る恐るケーキと紅茶を差し出す。
するとそれを
鬼のように手づかみでむしゃむしゃと食べながら真尋は
「・・おれは! 忘れてねーぞ!!」
志藤を睨みつけた。
おれだって
忘れてないけど。
志藤は
『あのとき』
のことを思い出していた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
志藤は真理子の大学で、打ち合わせがあり急いでいた。
夕暮れのキャンパスに足を運ぶ。
どこからか遠くに楽器の音が聞こえて。
なんとなくセンチメンタルになるのは
自分の学生時代を思い起こさせるからであって。
その中で。
え・・。
はっきりと
ショパンのノクターンが
が聞こえて来た。
優しい優しい
ピアノの調べが。
どこだ・・?
どこから聞こえてきているのかわからないのに。
一瞬で
ぎゅうううっと
心を掴まれるような
音だった。
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