第117話 見えない心(2)

相変わらず


ゆうこの


ぼんやりは続いていた。




休憩室でコーヒーを飲みながら


まだぼうっとしていた。



そこに志藤がやって来て、自販機に小銭を入れようとしたが



「あ・・10円足りない~。 くっそ~~~。」


財布の中身を探しまくる。




「どうぞ。」



ゆうこは10円を差し出した。



「・・ありがと、」



「いいえ。」



「元気、ないね。」



志藤は自販機のボタンを押しながら言った。




「そんなこと、ないですけど。」


そう言うゆうこだったが、明らかに元気がない。



「あんな話。 したから?」


志藤は缶コーヒーのプルトップを開けながら言った。





真太郎は


ちょっと一息入れようと、休憩室に行くと


ゆうこと志藤の姿が目に入る。



「そうかも・・しれません。」



ゆうこはコーヒーを飲んだ。



「きみには関係ないでしょ、」


志藤はふっと笑った。


「そうですけど。 やっぱりショックで。 ・・身近にそういう人いなかったし・・」



「ほんっと・・感受性強いね。」



「すぐ泣くって・・よく言われます、」


少し恥ずかしそうに言った。




なんだか


普通の雰囲気ではない気がして


真太郎は中に入れなかった。




「アハハ。 確かにね。 すぐ泣くね。」


志藤は笑った。



「志藤さんだって。 泣いたくせに、」


ゆうこは口を尖らせた。



「まあ・・ね。 でも。 もう時間が経ったよ。 ホント。」


志藤はそう言った後、缶コーヒーに口をつけ、



「でも。 きみだって大好きな人が自分の目の前で他の人と結婚してしまうんだよ。 好きなのに、諦めなくちゃいけない。 ・・同じでしょ。」



軽くそう言った。




ゆうこはその言葉をかみ締めつつも、



「それでも。 生きていますから。」



ポツリとそう言った。




真太郎はなんとも言えない気持ちでいっぱいになった。



なんでここに入っていけないのだろう。


どうしても入れない何かが二人の間にあるような気がして。



なんで


おれがドキドキしなくちゃいけないんだ・・。



自分の気持ちに戸惑っていた。





「白川さん。 もう遅いです。 帰ったほうがいいです。」


真太郎は9時になろうとしている時間を見て、ゆうこに言った。



「そうですね。 じゃあ・・お先に失礼します。」


いつもの笑顔で言う彼女に



「あの・・」



思わず呼び止めた。



「え?」



「・・志藤さんと。 何かありました?」



なんでこんなことを訊いてしまうんだ。



もう一人の自分が言う。



「え・・」



ゆうこの顔色が一瞬変わったように見えたが。




「いいえ。 何も。」


平然と否定されてしまった。




「そう、ですか。」




動揺を必死に隠しながら言った。





「じゃあ、 失礼します。」


ゆうこは一礼してその場を去った。

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