第109話 優しい罪(1)
・・ということがあっても
真太郎と志藤の間が親密になったわけでもなかった。
「あ、ここ。 もっと強気な感じで書いておいてください。 今日こそは話しつけますから。」
志藤は真太郎が作った会議用の資料にダメ出しをしたりしていた。
「はい。」
と受け取ってため息をついた後、
「今日いらっしゃるお客さんはタバコ嫌いな方なんで。 禁煙でお願いしますね。」
タバコを吸おうとしている志藤に真太郎も負けずに言った。
「・・んじゃあ。 今吸っておきます。」
志藤もおとなしくそう言った。
そして
ゆうこは、と言えば。
「白川さん。 会議室にお茶を、」
志藤が彼女に言うと、
「いくつですか?」
事務的に返事をした。
「5つお願いします。」
「・・・・・」
不機嫌そうに席を立つ彼女に
「まだ怒ってんの?」
志藤は少し呆れて言った。
「は? 何のことですか? もう何に腹を立ててるのかさえも記憶にないくらいたくさんありすぎて!」
ゆうこはジロっと彼を睨んだ。
「きみに殴られたおかげでメガネのフレームが曲がっちゃったよ。」
と言うと、ゆうこはドキっとして、
「な、殴ったって! グーで殴ったみたいな言い方しないで下さいっ!」
ムキになって言ってしまった。
その受け応えがまた志藤のツボを刺激して、声を押し殺して笑って行ってしまった。
全く!!
ほんっとデリカシーゼロ!!
ナイーブなゆうこは
そんな彼にいちいち腹立たしかった。
でも。
あの海で写真を撮るときに
一瞬彼に背中に手をやられて、引き寄せられた時。
また
ゾクっとした。
あの人を最初に見た時と同じ感覚・・。
ゆうこは自分でもわからないその
感覚に戸惑っていた。
「わ~。 かわいい。 コレ!」
南は会社帰りに寄ってくれたゆうこがドライフラワーの小さなブーケの飾りを持ってきたのを見て目を輝かせた。
「よかったら。 どこかに飾って下さい。 邪魔にはならない大きさだと思うので。」
ゆうこはにこやかに言った。
「邪魔やなんて! もう、ゆうこってほんま才能あるなあ。 ブーケとかも作るの?」
「前にアレンジメントを習っていた先生にブーケの作り方も習っていました。 たまに頼まれてウエディングブーケも作ります、」
「そっかあ・・」
喜んでそれを眺める南に
「もし。 良かったら。 南さんのウエディングブーケ、作らせてもらっていいですか?」
と言ってみた。
「え! ほんま? ええのん?」
大きな目をさらに丸くして言った。
「南さんさえ、よかったらですけど。 あたしもお祝いしたいので。」
「え~~。 嬉しい。 ほんまに?」
「ただ。 ドレスの時にブーケと髪飾りを合わせたりすることもあるんで、そっちの都合もありますから、」
「え! そんなの! もうゆうこの作ってくれたブーケにあわせるから! もし良かったら髪飾りもお願いしたいし、」
「いいんですか?」
「もちろん! ほんまに、嬉しい!」
感情がストレートに出る南はそうとう感激しているのがわかって、ゆうこも嬉しかった。
きっと
あたしに気を遣っている。
南さんも
真太郎さんも。
それだけは
思われたくない。
あたしの小さなプライドが
疼くから。
ゆうこは優しい笑顔で南を見た。
「真太郎さんの披露宴の招待客のリスト、まとまりました。」
ゆうこは北都に書類を差し出した。
「仕事に関係ないことなのに。 悪いな。」
北都はそれを受け取った。
「いえ。 真太郎さんはホクトの大事な跡取りですし。 披露宴は仕事関係の方もたくさんいらっしゃいますし。 あたしでできることなら。」
健気に言うゆうこに
北都は胸が痛かった。
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