第90話 運命(3)

早速


オケに関する会議が開かれた。



玉田や沢藤真理子も同席し、すでに志藤が中心に話を進める。



「常任の指揮者を早く決めないといけませんね。 リストアップはできていますか?」


真太郎に言った。



「あ、はい・・」


と資料を手渡す。


それにざっと目を通し、


「ぼくのほうも心当たりがあります。 去年までパリのソフュールの常任指揮者をしていた甲本さんはご存知ですか?」


志藤は真理子に言った。



「もちろん。 甲本幸人さんでしょう?」



「今はフリーのはずですから。 声を掛けてみては。」



「そんなすごい人がきてくれるかしら、」


真理子はいぶかしげに言った。



「甲本さんはぼくの大学の3つ年上の先輩です。 もちろん面識もありますし、今は日本にいるはずですから。」



「甲本さんは、5年くらい前にドイツの指揮者コンクールで日本人で2位になったほどの人なんですよ、」


玉田が真太郎とゆうこに説明した。



「そのあとはドイツとパリのオーケストラで常任で振ったりしてますし。 実力は日本でも有名です、」



「本当にそんなすごい人が来てくれるんでしょうか、」


思わず真太郎も言うと、



「どうせやるなら。 日本一のオケを目指すのは当然。 どこにも負けないオケを作りたいと思います。 真太郎さんはそう思いませんか?」




ものすごく


挑戦的に言われて、



「もちろんです、」



真太郎は気おされながらも頷いた。



「あとは。 公演の目玉になるソリストも呼びたいところですね・・」



彼はどんどんと


話を進めていく。



彼が入ったことによって


北都フィル立ち上げの会議は加速度をつけて進むようになったのは事実だった。




真太郎は


やや


呆然としながら彼を見つめていた。



会議は1時間ほど続いた。


志藤はタバコを手にしながら隣にいたゆうこに




「白川さん、お茶。」



いきなり命令してきた。



「え・・」



ちょっと驚いて彼を見る。



「もう、みんなのお茶、からっぽでしょ。 そのくらいすぐに気づいて。」



もんのすごい


上から目線だし。



「はい・・」



それでもそれももっともなのでゆうこは席を立った。



「あとはスポンサー獲得ですね。 ホクトがらみでいけそうなところはリストアップしてきました。」


志藤はファイルを取り出した。




まだ


来たばかりなのに、すでに準備は万端状態であった。



「真太郎さんも心当たりをおっしゃってください。 ぼくは音楽に関しては多少の知識はありますが、東京は初めてです。 新規でどれだけ獲得できるかが勝負ですから。のんびりはしていられません。」



志藤は早口でそう言った。




関西の人なのに


丸っきり関西弁が出ないことも


真太郎は気になった。




「なんだか。 偉そうですね、」


ゆうこは会議を終えて、後片付けをしている時に真太郎にボソっと言った。



「え?」



「志藤さんって。 まだ来たばっかりなのに。 真太郎さんに命令口調だし、」


「でも。 すごいと思います。 もうぼくたちに何も聞かなくてもやるべきこともチェックしてあるし、ムダなくスムーズに仕事が進むように手はずをとってきているし、」


真太郎は言った。



「それにしても・・全く遠慮がない態度っていうか。 真太郎さんに対しても、」


すると彼はニッコリ笑って、


「ぼくはね。 社長の息子だからって特別にされるのが好きじゃないですから。 みんな遠慮をしてなかなか意見を言ってもらえなくて。 あんな風にズバズバと言ってくれる人は初めてです。」


と言った。



だからって。



ゆうこはまだ不満がつのった。


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