第79話 動き出す(3)

真太郎は気になって、撮影が行われているスタジオに足を運んだ。



すると



「あ! こっちよりこっちのが色がいいって。 彼女の色の白さが際立ちそうやし。」



なぜか


南が中心になって、彼女のスタイリストが進んでいる。



「なにやってんの・・」


おそるおそる声をかけると、



「あ、真太郎。 見て! も、めっちゃキレイやろ!」


自慢げに絵梨沙を見せた。



「み、南さん・・」


絵梨沙は恥ずかしそうにちょっと彼女の腕をつついた。




確かに。


地がキレイなので。


化粧っけがなくても十分美しかったが



髪を大人っぽくカットして、きちんとメイクをした彼女は


びっくりするほど


キレイだった。




「ほらあ、もう。 ボーっとしちゃって。 エリちゃんがあんまりキレイやから、」


南は笑った。



「えっ・・何言ってんだよ・・」


ちょっと図星だったので、焦ってしまった。




スタイル抜群の彼女に似合うレースがたくさんついた真っ白なドレスで


ピアノの前に座って撮影をしていたが


本当に天使のようで。



見ているだけで


恥ずかしくなるほどだった。




やっぱり


信じられないな。


この子が


真尋と、なんて。




真太郎はいちいち


そう考えてしまった。




もらってきたスチール写真を


会社に戻ってからも


ぼんやりと見とれてしまった。




「絵梨沙さんですか?」


いきなり後ろから声がしてドキっとして慌ててファイルにしまいこんだ。



「あ・・ハイ。」



「ちょっと見せてください、」


ゆうこだった。



「すっごい・・きれい。 本職のモデルさんみたいですね。 ピアノを弾いてる姿も絵になるし、」


ため息が出てしまう。



「真尋から。 男性誌とかのグラビアには載せるなって言われちゃって、」


真太郎が言うと、



「えー? ほんとですか? でも、確かにこれならオファーはありそうですけど、」


クスっと笑う。



「南が張り切ってスタイリストもやってしまって、」



「南さん、ファッション関係の仕事もしたかったって言ってました。 でも、ヘアスタイルも服も。 すっごく絵梨沙さんに似合ってるし。 さすがですよね。 ハタチとは思えぬ色気、というか・・」


ゆうこは感心した。



そして


ふっと思った。



「これからオーケストラを作ったりすると・・楽団員さんたちを個々に売っていくこともあるでしょうし。 こういうプロデュースを南さんにやってもらえたら、」


ゆうこは思いついたことをつい口にした。



「え、」



真太郎は顔を上げる。



「あたしや真太郎さんは立ち上げをしたらこの仕事から一線を引かなくてはなりませんけど。南さんにはやってもらう仕事もあるんじゃないかって、」



「白川さん、」



ゆうこの口からそんな言葉が聞かれるとは


思っていなかった。



確かに。


彼女はこういうことにかけては


すごい才能を発揮する。




真太郎は真剣にそれを考え始めた。




「ねえ、これ似合うよ。」


「そうですか?」


「買ってあげる。 めっちゃカワイイし、」



取材の仕事のあと、南は絵梨沙と買い物に行った。


洋服などを見ていると


南がいきなりそう言い出した。



「え、そんな・・。 悪いです、」


絵梨沙は遠慮をした。



「買ってあげたいんだってば。 エリちゃんみたいにキレイやったら何でも着せ甲斐あるもん。 あたしさあ、5コ下の弟いるんやけど。 もういっつもね、自分のお古の洋服着せて遊んでた~。 着せ替え人形みたいに。 あー、妹やったらなーって。 ちっさいころは何でも言うこと聞いて着てくれたんやけど、ちょっと大きくなるとさすがに嫌がられて。 妹がいたら、おしゃれな服とかいっぱい着せてあげたーいって。」


南は嬉しそうに笑った。


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